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商業ギルドではボルガさんという若い男性職員が対応してくれた。
普通は知らない人間が入ってきたら警戒しそうなもんだが、サラサがギルド長の娘ということもあり、終始丁寧な対応をしてくれた。
言葉のわからない俺にも、懇切丁寧に筆談で対応してくれたのでありがたかった。
なんでも商業ギルドは国を跨いだ組織で、市民権をもたない行商人の権利を保護するために設立されたものだそう。
個人では公権力には太刀打ちできないので同じ職種の人間が集まって対抗するみたいなことは、元の世界でも異世界でも変わらないようだ。
商業ギルド員には冒険者ギルドと同じく、劣鉄クラス、青銅、銅、鉄、貴鉄みたいな感じで、商売実績によってクラスがあるそうだ。
ちなみに俺は表向き商売実績はないことになっているので、劣鉄クラスからのスタート。
国境を自由に渡れるのは鉄クラスからだったり、ギルドを通じて貴族にとりなしてもらえるのは貴鉄クラスの商人からだったりと、クラスアップのメリットが設けられている。
今後は商売もコツコツ頑張っていこう。
あとは商業ギルドの方でお金を預かってくれるそうで、ギルドから発行される小切手で支払うことができる。
万が一火事などでギルドの金庫がダメになってしまった場合には、ギルド全体で保険のようなものをかけており、金貨1000枚を上限に保証される。
銀行のペイオフ制度みたいなものか。
一応今回家を買うつもりだったので、金庫にある金貨を数えたところ4000枚ちょっとあり、馬車に全て積んである。
レスタ南の小屋では鉄製の金庫を自作しベッドの下に隠してあるが、ギルドの金庫とくらべればセキュリティは月とスッポン。
家を買うこともあったので手元に金貨500枚(+小銭)を残し、残りの金貨3500枚を全て商業ギルドに預けることにした。
大量の金貨を預けたらボルガさんは慌ててギルド長を連れてきたよ。
「ヨロシク! オレ、アラン!」
「よ、よろしく……」
サラサの父でもあるロマンスグレーな感じの商業ギルド長アランさんはそう言い放つと、俺の背中を上機嫌にバンバン叩いてきた。
まあ多少豪快だが、サラサの父が運営している組織なら金を預けるに足るだけの信用がある。これから家を探すにしても、これ以上ない取引相手だろう。
アランさんは、サラサが来たことが嬉しかったのかデレデレ。マルゴにはツンツン。
あ、マルゴが少し小さくなってる。
そんな感じの一家団らんを生温かく眺めていると、ステッキをもった猫獣人が乱入。
猫獣人はアランさんに「何油を売ってるんですか!」的な雰囲気のことを言うと、アランさんの耳を引っ張り連行していった。
ボルガさん曰く、今の猫獣人は副ギルド長のディーンさん。
ギルド長はいざという時には能力を発揮するが普段の細かいことはダメダメなタイプで、それを副ギルド長が補っているのだそうだ。
「へえ、世の中上手くできてるもんだ」
それを聞いた俺は、何となくマルゴとサラサを眺めたのだった。
「じゃあ、ボルガさん。物件を紹介してもらってもいいですか?」
俺がジェスチャー混じりでそう言うと、ボルガさんは立地や物件の間取りが書かれた書類をテーブルの上に広げたのだった。




