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働かざる者、食うべからずだ。
俺はハインリッヒを受け入れることにしたが、タダ飯を食わせてやるつもりはない。
ハインリッヒには、自分が食べる分の仕事はきっちりしてもらおう。
むしろ貴族の身分を剥奪されたのだから、自分で生活力を身につけなければ、どちらにせよ野垂れ死ぬしかなくなるからな。
ハインリッヒは最初「なぜ私が?」というリアクションをしたが、「では出て行くか?」とジェスチャーしつつ、ブルーウルフに視線を向けると青くなって首肯した。
ということで、簡単な作業から手伝ってもらった。ハーブ鶏と馬の世話。それから、薪割りと風呂を沸かし。
だが、ハインリッヒは何もできなかった。薪割りすらも。
お貴族様は予想以上に何もしてこなかったようだ。
それから数日が過ぎた。
ハインリッヒは出来ないなりにも真面目に頑張っていた。
2日目からは剣や弓の訓練、3日目からは実際にスライムやゴブリンとの戦闘をさせてみた。
最初ハインリッヒはゴブリンに殺されそうになっていたが、一週間ほど経ち、何とか倒せるようになった。
その他にも燻製作り、釣り、料理なども一通り教えた。
そんな折、マルゴがファイアダガーを受け取りにやって来た。
当然マルゴとハインリッヒのにらみ合いが続いたのだが、俺が面倒を見ていることを伝えると、一応振り上げた拳は下ろしてくれた。
まあ、納得はしていないようだったが。
結局その日、マルゴはレスタに帰って行った。
あれだけのことがあったのだ。ハインリッヒの顔を見ながら美味い酒など飲めないということだろう。
その日、ハインリッヒはどこか沈痛な面持ちをしていた。
「ハインリッヒ。今日もお疲れということで、一杯飲むぞ」
辛気臭いのが嫌な俺は、ハインリッヒに声をかけ、先ほど川で獲れたウニで一緒に一杯やることにしたのだった。
それからしばらくハインリッヒとは森に狩に行ったり、鍛冶や錬金を手伝ってもらったりして過ごした。
ハインリッヒが温めたミランの果実酒を作ったと言って渡してくれたので飲んでみたら、ヨーロッパの路地で冬の寒さを凌ぐために飲んだホットワイン(赤)と遜色ない味だった。
それがきっかけでファイアダガーを作るのに使った火炎石と鉄瓶を組み合わせて、火属性付与式温熱ポットをハインリッヒと一緒に開発した。
この火属性付与式温熱ポットは冬の野外作業で物凄く重宝しそうだ。寒い中ホットワインや熱いお茶を飲めるのは滅茶苦茶ありがたい。
雪を入れてお湯にすることだってできるし、懐に忍ばせればカイロ代わりにもなりそうだ。
レスタの人たちが喜ぶなら商品として卸してもいいかなと頭によぎったりもしたが、それは追々考えよう。
こんな感じで、ハインリッヒはマルゴとの一件があってから、見違えるように働いてくれたのだった。
そんなある朝、ハインリッヒから「話がある」と言われた。
ハインリッヒの手には一通の手紙。
彼はそれを俺に差し出してきた。
俺はそれを受け取り、彼の話を聞くことにしたのだった。




