k-202
ハインリッヒを休ませたあと、俺はユリナさんと一緒にベッドに横になる。
そして、見慣れた懐かしい天井の木目をボンヤリと見つめる。
……俺は、人の意思の連鎖を信じている。
良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが返ってくるということだ。
俺は確かに、ハインリッヒに酷い目に合わされたかもしれない。
しかしそれで俺が彼に復讐して何になる。
ハインリッヒに近しい人から、恨まれることもあるかもしれない。
それに俺は、ハインリッヒのおかげで、ユリナさんと大冒険という新婚旅行が出来たと思っている。
何より俺が復讐しようなどと全く思っていない。
今にも死にそうな男を見捨てて殺すほど、俺は残酷にはなれない。
俺は、悪意よりも人の善意を信じたい。
だから周りの全てに見捨てられ、全てを失った男の更生にかけてみたい。
何より全てを失い隠遁生活をしていた俺が、この場所で人として大切なことに気が付くことができた。
だからこそ彼の今置かれている辛さが身に染みてわかる。
放ってはおけない。
つくづくお人よしだけど、それが俺だから。
これは俺が自分を曲げるか曲げないか、ただそれだけの問題なんだ。
「よし、結論は出たな」
俺はハインリッヒを助けることにした。
蒼の団のことを聞いているので、マルゴたちは複雑だろう。
でも一番の被害者である俺がそう決めたと言えば、きっとわかってくれるはず。
「ふあああ」
心が決まったら、睡魔が襲ってきた。
目を閉じると、アッシュとユリナさんの寝息、暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音が耳に心地よく、いつの間にか夢の世界に旅立っていたのだった。




