k-194
俺たちは東の国キールを目指し、木々の間に造られた街道を進んだ。
魔法のおかげか、馬たちも調子が良いようだ。
しかし、なんだか静かすぎる……。
俺たち以外の姿がない。
「ケイゴ。△○×◇◇△……」
「あ、はい。俺もそう思っていたところでした」
近くに来たドニーさんが、「なんだか様子がおかしい」的なことを言っている。ブルーウルフたちも並走してくれているが、特に変わった様子はない。
地図によるとキール王国への検問所はあと少しだ。今日中にでも着くだろう。
「気のせいならいいんだけど……」
しばらく馬車を進めること数十分、森がより一層深くなったところで事態が急変した。
俺たちの前を軍隊と思われる騎兵隊が塞ぎ、続いて森の中から待ち伏せしたいた歩兵隊が退路を塞いだのだ。
騎兵隊と歩兵隊が剣を抜いた。敵は総勢50人はいる。まずい、ハインリッヒの手勢か!?
だがここは捕まるわけにはいかない。ここさえ抜ければ、隣国に逃げられるんだ。
「ブルーウルフ!!」
俺の声に呼応して並走していたブルーウルフが6体木陰から現れ、俺たちの馬車を囲むように陣取った。
睨みを利かすブルーウルフに一瞬怯んだ様子の騎兵隊。
すると、なにやら騎兵隊の中にいたチンピラっぽいやつらが乱闘を始めた。なんだかわからんが、好都合だ。
「ユリナさんは麻痺、クモ! ドニーさんは後ろ!」
「ワカッタワ!」
「ワカッタ!!」
「あ、ちょっと待って」
俺は魔力回復ポーションを飲みつつ、二人にバーニングマッスル、ストーンスキンをかけた。
敵を威嚇するブルーウルフたちにもかけてやった。もちろん自分にも。
その間にユリナさんが、前後の敵に向かって麻痺弾をスリングショットで投擲、頭上で起爆させた。
それを見たドニーさんは敵に突っ込むことはせず、ブルーウルフと並んで敵に睨みを利かせている。シルバーランクだけあって迫力が半端じゃない。
「おっと、ウインド!」
俺はこちらに麻痺粉が流れて来そうになったので、起爆した方向に向かってウインドを放った。
その間もユリナさんは蜘蛛糸弾を敵の頭上で起爆させた。
命中精度を上げるイーグルアイ、飛距離を伸ばすイーグルショット、力を増大させるバーニングマッスルのおかげでかなりの距離があるにもかかわらず、正確なスナイプショットを見せるユリナさん。
俺の戦闘ワイフ、まじすげえ。
しかも騎兵隊の中で俺たちに加勢してくれている場所はあえて外していた。
後ろを見ると、反撃とばかりに魔法使いっぽい敵がファイアーボールを放ってきた。ここは……。
「バブル!!」
俺は射線上にいたブルーウルフの前に、水の膜を張る防御障壁魔法バブルを展開。ファイアーボールを打ち消した。
その隙に、乱闘していた騎兵隊の中から馬に乗った5人がこちらに向かってきて、ブルーウルフと騎兵隊の間に立ち塞がった。どうやらこちらの味方をしてくれているようだが、どこかで見たことがあるような?
まあ、今はここを切り抜けることだけを考えよう。
「ユリナさん、あそこに麻痺、蜘蛛ありったけ! おい、馬のやつらこっちに来い!」
乱戦になっていたところに麻痺粉の散布をお願いし、味方になってくれた5人をこちらに呼び寄せた。ん、こいつらは……もしかして?
俺はポシェットに入ったポーションに手を伸ばして、ちらつかせてみた。
すると途端に5人の顔が輝き出し、物欲しそうな目に。目がドルになっとる。まあ、先行投資といこう。
俺は見覚えのあるそいつにポーションを渡し、5人にバーニングマッスル、ストーンスキンをかけ、3人を前方、2人を後ろに差し向けた。
なんかいきなりチンピラたちの忠誠度が上がった気がするんだが、気のせいだろう。
近づく敵は防御陣形をとった前衛が防御しつつ、ユリナさんが蜘蛛糸弾と麻痺弾で敵の身動きを封じる。
俺は仲間に支援魔法、バブルで敵の火球攻撃を防御、たんまりストックのあるポーションとキュアで仲間を回復、たまに麻痺矢と言った感じで後衛を行った。
戦力差で圧倒的有利に見えた敵さんはこちらの鉄壁っぷりに攻めあぐねていたが、歩兵隊の後ろに控えていた只者でないオーラを発するダークパープルの長髪を垂らした剣士が前に出てきた。
「ブルータス……、××○◇!!」
その長髪の男を見たドニーさんが、まるで仇敵を見るかのような目つきで叫んだ。どうやら因縁があるらしい。
ブルーウルフやチンピラたちを手で制したドニーさんが、手を出すなとばかりに一人前に出たのだった。




