k-192
「じゃあユリナさん、さっさと鉄クラスに上げてしまおう」
「ええ」
新しいスキルを手に入れたユリナさんが嬉しそうに頷いた。
ますます戦闘ワイフに磨きがかかりそうな様相を呈しているが、彼女が嬉しそうなのでよしとしよう。
彼女の機嫌に勝る価値などないからな。
「あ、もうこんな時間か」
既に日は傾きかけていた。
疲れたので、宿屋に戻って飯を食って眠りたいところだが、あまり人の集まる場所に長居すべきじゃない。
そう考えた俺たちは手早く食糧や薪を補充し、一度ベイリーズを出ることにした。
そして森の近い南門に向かっている途中で、見知った顔から声をかけられた。
「ケイゴオクダ!! ○×◇△◇……」
「ドニーさん?」
それはバイエルン様に仕える、レスタの兵士ドニーさんだった。
馬車を一度停め話を聞くと、どうやらハインリッヒがクーデターを起こしレスタを追放された彼は、ジュノたちの支援を得てここまで俺を追ってきたらしい。
「ドニーさん、とりあえずここから出ましょう」
それを聞いた俺は、とりあえず人のいない場所に移動したいとジェスチャーで彼に伝えたのだった。
ベイリーズから出た俺は、森へ続く道の脇に馬車を停め、彼から詳しい話を聞くことにした。
「レスタはそんなことになってるのか……」
レスタではハインリッヒがクーデターを起こし、バイエルン様が軟禁状態になっているらしく、俺に追手がかかっているのは間違いないだろうとのこと。
そしてドニーさんは俺たちの護衛をすると申し出てくれた。元兵士長なのだそうで、確かに強そうだ。
「ありがとうございます。これから俺たちは東の国に逃げるために、彼女を鉄クラスの冒険者に上げようと思ってます。あと1クラスなので、森でチャチャっと片付けようかと」
とジェスチャーとメモを交えて伝えると、「良い考えだ」的なことを返すドニーさん。ちなみにここから北へ進むとハイランデル王国、東の国境を越えるとキール王国と地図には書かれている。
ドニーさんによると、レスタと長年戦争状態にあるハイランデル王国に行くには検問がそれなりに厳しいらしく、東のキールに逃げる方が良いだろうとのこと。
隣国へ逃げれば、さすがのハインリッヒも手が出せないだろうしな。
さて。
もう完全に夕日は沈んでしまった。同時にめちゃくちゃお腹が空いていることに気がついた。
俺はドニーさんを「食べる?」のジェスチャーで夕飯に誘うことにしたのだった。




