k-175
翌朝ユリナさんはすっかり元気になっていた。抱きしめた彼女には病気の症状はなく、起きた後も久しぶりに料理を作りたいと張り切っていた。
うん、これならもう大丈夫だ。
朝食をとった俺たちは、再びゆっくりと馬車を進めることにした。
行き場所の特にない逃避行だ、ゆっくり行こう。
地図によると川に沿って下れば、そのうちベイリーズという町が見えてくるはずだ。もし物資が不足するようなら、またそこで調達すればいい。
急ぐ必要もないので、休憩を多めに挟んだ。合間に俺はユリナさんに手榴弾(蜘蛛糸と麻痺弾)の使い方を教えた。
ユリナさんは自分も戦闘に役立つことができると知り喜んでいた。
蜘蛛や麻痺草、乾燥した木の実はまだまだ余っていたので、作り方を教えたところ、彼女も自分で作ると張り切っていた。
馬車でユリナさんは御者台に座りたがっていたが、大人しくアッシュと一緒に幌馬車の中にいてもらった。
病み上がりなんだから、無理はさせられないよ。
のどかな風景の中、川沿いの馬車道をロシナンテ(牡馬)とメイクイーン(牝馬)がパッカパッカと陽気な音を立てて進む。
すると突然、川から大きな大蛇が首をもたげてこちらを睨んでいた。
それはお馴染み、モンスター【サーペント】だった。
いつもだったら馬車を走らせて逃げるところだけど、もう怖くはない。
俺は馬車を止め、ウルヴァリンサンダーソードを抜いた。どこかららかブルーウルフも3体現れ、サーペントに威嚇を始めた。
「ユリナさん、隠れてて!」
「◇○△●×!」
「ワン!!」
ユリナさんが手榴弾を持って自分も戦うと言い始めた。どうやら彼女も役に立ちたいらしい。
サラサといい異世界の女はたくましいな。元の世界でこんな恐ろしい大蛇に立ち向かう女などそうそういないだろう。
そしてアッシュもユリナさんを守るために、張り切ってユリナさんの前を陣取っている。えらいぞアッシュ!
「ユリナさん、絶対に俺の前に出ないでね!!」
俺は渋々承知することにした。
まず睨み合いの状態から初手を打ったのはサーペントだった。
サーペントが俺に向かって毒のブレスを吐くモーションに入ったのだ。
だがそれは予想済み。
「ウインド!」
ブオン! ジュワ!
キシャアアアアアアアア
サーペントは自分の吐いた毒のブレスをもろにくらって、のたうちまわった。
「ユリナさん、蜘蛛!!」
「エイ!!」
ユリナさんが手榴弾を投げると、のたうち回るサーペントの胴体に着弾。蜘蛛糸が広がり、サーペントの体を地面に固定することに成功した。
「こりゃいいや、ソードピアーシング!!」
ドス!
俺は隙だらけのサーペントの頭をウルヴァリンサンダーソードで突き刺した。
頭を串刺しにされたサーペントはしばらくウネウネしていたが、やがて動かなくなった。
『個体名:奥田圭吾は、ソードピアーシングLv2を取得しました』
そういえば、サーペントの肉って結構良い値段で売れていたよなと思い出す。金貨何枚だったか。
まあ、物は試しだ。
今日のところは川から少し離れた高台で一泊することにして、サーペントの肉を食べてみることにしたのだった。




