モノローグ・ドニー3
ジュノとエルザに別れを告げた俺は、レスタ北部の町タイラントに向かった。
凍えるような寒さの中、御者台に座る俺は、焚き火で温め水筒に入れたミランの果実酒を飲みながら体を温める。
喉を熱い酒が通った後、酒気を帯びた深く白い息を吐く。それからシカの干し肉をゆっくりと何度も噛んで眠気覚ましにする。
うん、美味い。
ジュノとエルザのいた小屋では、飯を食う時間も勿体無いということで食糧を渡されただけだった。
ハイリッヒの兵隊どもに捕まってからというもの、飲まず食わずでここまで来たので、美味くて当然。体が喜んでいるのがわかる。
「なあ、馬子。なんかしゃべってくれ。暇だ」
馬車を引く牝馬に話しかけるも、返事はなかった。
誰かと一緒の旅なら気が紛れるが、生憎話し相手がいない。一日中誰とも会話していないと、気がつけば馬に話しかけている自分がいる。
早くケイゴオクダと合流しなければ、本格的にやばいかもしれん。
「馬子。すまんが急いでくれ」
俺は、馬子の体力が続く限り走らせた。もちろん水飲み休憩はきちっと取らせた上で。
途中モンスターに遭遇することもあったが、幸運にもゴブリンなどの雑魚モンスターだけだったので問題なかった。
そして、俺はタイラントにたどり着いた。
俺はまず、馴染みの安宿に荷物を下ろした。
さてと。足取り調査の開始だ。
まず冒険者ギルドに行ってみたのだが驚いた。
掲示板にケイゴとユリナの似顔絵。そしてタイラント貴族名義での探し人の依頼があった。
情報には金貨20枚だと?
俺の頭の中に、チビ・デブ・ハゲの三拍子揃ったタイラント貴族のフォルムが浮かんだ。バイエルン様の側近をしていることもあり、面識があった。
おそらくハインリッヒ様が部位欠損ポーションをエサにタイラントの貴族を動かしたのだろう。
もっとうまく動けば、逆にタイラント貴族を使ってハインリッヒ様の動きを牽制できたものを……。
ハインリッヒ様は性格に目を瞑れば、なかなかどうして優秀のようだ。
まあ、ハインリッヒ様の思惑がわかっているなら問題ないだろう。
俺はこのクエストを受けるフリをして、ケイゴとユリナの似顔絵を手に入れて聞き込みを開始したのだった。
そして俺は夜、一人机に向かう。ランタンの明かりを頼りにここ数日、町の中を回って仕入れた情報を紙にまとめることにした。
ケイゴとユリナは数日前までタイラントにいた。
そして、ケイゴは馬車を幌馬車に乗り換えた。剣と盾のスキルを購入し、スキル修練をしたとのこと。
道端の大道芸人に投げ銭をし、中央広場の似顔絵師に似顔絵を描いてもらった。
その後、ケイゴとユリナは仲良く演劇舞台を鑑賞した。
ケイゴとユリナが宿泊した宿も特定できた。世話をした小僧もわかった。
ここまで聞き込みがかなり順調だったのだが、普通はおいそれと知人のことなど話したがらないもの。
だがここで、ジュノが渡してくれた宝石のような魔道具が役に立った。
ケイゴたちの世話をした小僧によると、ケイゴは『ジャイアントアーチン』を捕獲するつもりだと言っていたらしい。
ジャイアントアーチンといえば、トゲを飛ばしてくる厄介な水生モンスターだ。あんなグロテスクなものを食べるだと?
しかし、それ以外に手がかりがない。仮に話が本当だとするならば、行き先は川のある街道。
そこまでの情報を手紙にまとめた俺は、ジュノの指定した歓楽街の「パブ蝶のゆりかご」のママ、ジョセフィーヌさん宛で郵送したのだった。




