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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-166

 翌朝目覚めると、俺の横でユリナさんがまだ寝息を立てていた。


 俺は彼女の温もりという何よりも勝る誘惑に抗うことができず、そのまま布団の中で柔らかくて良い匂いのする彼女を抱きしめて二度寝をする。


 しかしそれから間もなく世界一可愛い生物がぐずり出す。もちろんアッシュのことだ。


 仕方ない。一日中寝ていたい気分だが起きるとするか。


 俺はアッシュにエサをやるため布団から出ようとしたところ、ユリナさんが目を覚ました。



 「おはよう、ハニー」


 「おはよう、ケイゴ」


 そう言って、俺たちは軽くキスを交わした。


 愛とは偉大なものだ。


 全くランカスタ語での会話を覚える気がなかった俺だが、この程度の日常会話なら俺もできるようになってきた。


 不思議なもので、俺は手紙だけのコミュニケーションでは少し物足りなく感じていた。


 なので暇な時間を見つけては、彼女から少しずつランカスタ語を習っていた。



 俺とユリナさんは幌馬車の外に出て、桶に入った水で顔を洗い歯を磨く。



 モーニングルーティーンをこなしていると、ブルーウルフが狩ったばかりのシカを持ってきた。


 俺が調理すると、飯がうまくなることを覚えたのかな?


 俺は「褒めて!」と頭を撫でて欲しそうにしているブルーウルフの頭をなでる。



「じゃあ、今日はシカ肉パーティにするか!」


「ワーオーン!!」



 ということで、俺はシカを解体することにした。


 シカの血抜きを行う。それから鮮度が命のレバーを流水で洗い、塩とニンニクで味付け、切り分けてレバ刺しに。今日食べる分以外の肉は適当に切り分け、清潔な布と紐で縛り冷凍にする。


 俺とユリナさん、功労者のブルーウルフはレバ刺しに塩を振って食する。


 うん、んまい。ほっぺたが落ちそう。


 それから肉を軽く焼いて、パンにはさんで食べる。これもいいね。ジビエ〜。


 シカ肉サンドをブルーウルフとアッシュにも与えると、仲良く食べていた。


 シカを堪能したブルーウルフは、気がつくとどこかへ行ってしまった。



 食後はマーブル草のハーブティーでゆったり。鍛錬をしなきゃいけないのだが、こんな贅沢な食事をした後だ。余韻に浸りたい。



 この後ユリナさんは幌馬車の中で編み物をすると言っていた。


 彼女は裁縫や編み物が得意だ。アッシュウルフの牙でネックレスを作ったりと手芸もできるようで、実はかなり手先が器用だったりする。


 デザインも中々のもので、「ひょっとすると、これ売り物になるよな」と思っていたりする。今のところ売る必要はないけどな。




 昼さがり。鍛錬を終えた俺は釣りをしていた。


 だが俺にそんなにやる気はなかった。それが証拠に、シカ刺しを酒の肴にチビチビやっていた。


 実に悪い大人である。


 横にはユリナさんとアッシュもいる。二人はシカ肉を木の枝を削って作った串に刺し、焚き火で焼いて食べるというワイルドな肉料理を食べていた。


 さらに暇な俺は、シカ肉とタイラントで仕入れたチーズを燻製にしながら釣り糸を垂らし続けた。


 水のせせらぎの音と小鳥のさえずりが耳に心地良い。


 心からリラックスできる。俺はふあと欠伸をする。なんだか平和すぎて眠たくなってくるな。


 ユリナさんもお腹がいっぱいになったからか、焚き火にあたりながらウツラウツラしている。アッシュもおねむなのか、コックリコックリ。


 頼むから、焚き火にだけは倒れないでくれよ?


 そうこうしていると釣り竿がしなった。何がヒットしたかな? 竿を緩急つけて引き上げると、先には鮎とはまた違った魚がぶら下がっていた。



【ネイトリュス:タラっぽいランカスタ王国原産の魚。特に魚卵が美味】



 なんとタラコのギッシリ詰まったタラ……、ネイトリュスが釣れた。まったく飽きがこないな。次から次へと新しい食材が出てくるのが楽しい。


 

 そうだな……、晩飯はタラコスパゲッティにしよう。


 また水面を覗くと、昆布っぽい水草がユラユラしていたので剣でかき集めてみた。



【ジルクート水草:食用可能な水草。独特の風味がある】



 食用可能とのことで水草かじってみるとそれはまさしく昆布の味がした。昆布じめとか出汁とるのに使えそうだなー。



 16:00

 釣りを切り上げた俺は、トゥカリュスとネイトリュスの刺身をジルクート水草で包み……、昆布じめにして保存食にすることにした……。


 異世界語を入れると何言ってるかわからんな。アユとタラの刺身を昆布締めにしたということだ。


 幌馬車の外側には収納スペースがあり、今時期は天然の冷凍庫だ。昆布締めの魚の刺身は冷凍すれば1か月はもつはず。


 食べきれなかったシカ肉とともに、かなりの量の食糧が確保できた。この分なら当分隠れていられそうだ。



 それから、俺は今晩のメインディッシュ。タラコスパゲッティの調理に取り掛かることにした。


 スパゲッティを茹で、タラコソースを絡め、イレーヌ薬草を添える。薬草で精もつくので、寒い冬を乗り越えるには良い料理だと思う。


 それを一口食べたユリナさんが硬直していた。



 19:00

 ユリナさん、アッシュと一緒に風呂に入った。


 俺は透き通った満天の星空を見上げながら、そろそろ場所を移動しようかなと思考える。一箇所にとどまるのはそれはそれでリスクがあるしな。


 村があるので食料や塩でも調達しに行ってみようとも思ったけど、足がつくことは極力避けよう。まだまだストックはある。


 そうだな。今度は川の支流をたどって東の方へ進むとしよう。そうすれば、少なくとも毎日風呂に入れて快適だし。



「ユリナさん、明日、移動、する」



 俺がお粗末なランカスタ語で移動することを伝えると、アッシュと戯れていた彼女は笑顔でうなずいたのだった。

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