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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-147

 手を繋いだ二人と一匹が、白い吐息を吐きながら雪のチラつく歓楽街の雑踏を足早に駆けていく。


 最初は何だ何だと注目していた人たちも、やがて興味なさげに自分のお目当ての店に入っていく。


 俺はユリナさんが寒そうにしていたので、肩にアッシュウルフのマントをかけてあげる。


 後ろで店の木のドアがドカッと蹴破られる音がした。


 アフロ親分、子分A、Bが出てきた。


 子分C、Dは、ママが何とかしてくれているようだ。


 ゴロツキどもは手に剣や斧などの得物をもっている。


 俺はユリナさんに隠れるよう合図をして、建物と建物の間の影に隠れてしゃがむ。


 アッシュにシーっとすると良い子にお座りした。



「アイス!」


 俺は雑踏の地面にある水溜りへ向け、魔力を込める。


 水溜りがパキパキと音を立て、スケートリンクのようになる。


 そして魔力がきれないように、デュアルポーション(中)を飲む。


 そして、アフロ親分、子分A、Bがこちらに近づく。


「ウィンド!」 


 か〜ぜ〜よ〜ふけふけ〜


 ビュオー!!


「キャー!!!」


 今度は歓楽街の客引きのお姉さんのスカートに手のひらを向け、ウィンドを放った。


 盛大にお姉さんのスカートがめくれる。悲鳴をあげるお姉さん。


 まじでごめんなさい。


 アフロ親分、子分A、子分Bが全力疾走しつつ、首をグリンと90度回し、お姉さんのパンティを凝視。


 デローンのびると親分子分の鼻の下。


 そしてゴロツキ三人は、俺が凍らせた摩擦抵抗ゼロのツルツルの地面に不用意に足をつけた。



 バキッ!



 ふんばりがきかず、見事にひっくり返り地面に後頭部を打つゴロツキ三人。


 全力疾走していただけに、凄い音がした。


 ゴロツキ三人は白目を剥き、ピクリとも動かない。死んでないよな?



『個体名、奥田圭吾はウインドLv4を取得しました』



「いてっ」


 ユリナさんが、ほっぺたをプクっとふくらませ俺の腕をつねった。


 どうやら、スカートめくりをしたのがお気に召さなかったようだ。


 俺は、右手で後頭部をかきながら、「ゴメン」と謝る。


 俺は気絶するゴロツキ三人から斧や剣などの物騒な武器を回収し、ユリナさん、アッシュとともに、足早に馬車へと急いだのだった。




 二人と一匹は、馬車に乗り込む。もう大丈夫だろう。


 馬車の上は寒い。俺は荷台に座るユリナさんにレッドグリズリーの掛け布団をかけてあげる。


 するとユリナさんは御者台に座る俺の右隣に座り、掛け布団の左端を俺の方に回した。


 ユリナさんが、俺の肩に頭を乗せる。身も心も温かくなる。


 アッシュが「僕も!」とばかりに荷台の上でフンフンと鼻を鳴らしたので、抱っこする。


 しばらく俺とユリナさんは、お互い無言で町の門まで馬車を進めた。


 門衛のオジサンがニヤニヤしながら親指を立てて、「ガンバレ」のジェスチャーをしている。


 いつもなら気にしてしまうところだが、なぜだろう。全く気にならない。


 ガタゴトと進む馬車の上、俺とユリナさんはしばらく無言で見つめ合う。


 それから俺たちは長く甘い口づけを交わした。




 帰り道。既に雪は止んでいた。


 辺り一面の銀世界の中、満点の星空と蒼く大きな満月が輝いている。


 ブルーウルフたちが、蒼い満月に向かって一斉に遠吠えをしていた。


 俺にはその遠吠えが、町から逃走した俺たちをまるで祝福しているかのように思えた。

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