モノローグ・ハインリッヒ1
私はレスタ・フォン・ハインリッヒ。このレスタの町を統治している者だ。
最近、少しばかり奇妙な出来事があった。
父上の右腕が治り、白くハゲ散らかした頭が黒くフサフサの頭になったのだ。
私はどういうことかと、父上やドニーを問い詰めたが決して口を割らなかった。
だが私はピンときた。父上とドニーの視線がチラリとポーションのビンに動いたのだ。
……おそらくケイゴオクダの仕業だろう。
あたりをつけた私は、金庫番から裏をとった。
治療の報酬をケイゴオクダに渡したそうだ。
フフフ……。どうしてくれよう。
ハゲに悩む貴族たちは多い。
このランカスタ王国の国王もツルッパゲだ。
それをもし治療し私の手柄になったとしたら。
国王からの褒美を想像するだけで、よだれが出そうになる。
ツルッパゲ貴族どもに売りつければ莫大な利益を生むことは間違いない。
ここまで価値があるものが存在するのなら、ケイゴの料理がどうのと言っていられない。
ケイゴオクダには私だけのポーション工場として、私の奴隷になってもらうとしよう。
しかし、父上の妨害をなんとかしなければ。
そうだな。美人局などどうだろうか。
コードネーム『美人局~TSUTSUMOTASE~』と私は命名する。
まず、歓楽街の子飼いのゴロツキに金をチラつかせる。
そして、ケイゴオクダに歓楽街の女をあてがった上でゴロツキに脅させ、拉致監禁。
ケイゴオクダには、そこで一生ハゲ治療薬を作らせる。
フフフ。我ながら、完璧な作戦だ。
「チリーン」
執務室にいた私はさっそく呼び鈴を鳴らす。
「お呼びでございますか、ハインリッヒ様」
「ジル。お前に頼みたいことがある。作戦を伝えるので、これから歓楽街に向かってくれるか」
私は作戦の詳細をジルに伝え、金貨袋を渡した。
「それでは、行って参ります。全て、このジルにお任せあれ」
この日、ハインリッヒの館から、黒衣に身を包み、気配を完全に消した老紳士が颯爽と歓楽街の方へと歩みを進める姿があった。
しかし、その正体に気がついた者は誰もいなかった。




