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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-133

 今日も俺は一人、暖炉の炎をボーっと見つめながら考え事をしていた。



 俺は物事に対する執着心が欠落しているように思う。会社もそう、お金もそう、何より男女問わず人間というものに対して執着してこなかった。


 こちらの世界に来て親友ができた。そしてその関係値が崩れることを、初めて怖いと思った。ずいぶんと大きな一歩だ。


 こんな当たり前のことが大きな一歩と感じてしまう俺のことだ。もしかすると、俺は本当の意味で恋愛をしたことがないのではないか?


 それは童貞だとか彼女がいたことがない、という意味ではない。


 むしろ大学もそれなりのところに行ってたし、見た目も悪くなかったので、学生時代にも彼女はいた。


 社会人になってからも一流商社マンは金もありモテたので特段女に困ることはなかったし、何だったらこっちが大して乗り気じゃなくても、女の方からアプローチしてくることも少なからずあった。


 でも全く長続きしなかった。


 相手は愛情表現が不十分な俺に傷つくか、呆れるかのどちらかだったように思う。俺も嘘はついてまでキープしておこうとは微塵にも思わない性分だったので「私って顔は普通だよね?」とか「大して美人じゃなくてゴメンね…」とか明らかに「そんなことない」と否定し「世界一可愛いと思ってるし大好きだよ」とでも言えば、相手も安心したことだろう。


 でも俺は思ってもいない嘘をつくくらいなら、別れた方がマシだと思うような人間だった。どちらが良くて、どちらがサイテーなのかはわからんが、少なくとも俺にスケコマシの才能はなかったみたいだ。


 そんなことを繰り返すうちに、自分に恋愛は向いていないと考えるようになった。相手も自分も傷つく恋愛なんて誰も幸せになれない、独身を貫く方がずっとマシだと思うようになった。


 でもユリナさんと出会って気がついたことがある。それはまさに恋愛は執着心の末にたどり着ける境地なのではないかということ。


 本気で向かい合って執着して、粘って、泥だらけ傷だらけになって、その末にようやく一緒にいることが自然だとお互い納得する。そのような関係値を「恋愛」と定義するのであれば。


 そうなると、俺にとってこれほど困難なものはない。傷つくのが嫌で喧嘩するのが嫌で、相手を傷つけないようにとどうにか自分に言い聞かせ、なるべく穏便にフェードアウトするのが波風立たなくて良いと思っているような臆病者。


 それが俺という人間なのだから。


 相手が自分に執着するかがではない。俺が相手にどれだけ執着できるかという問題なのだとすれば。


「かなり厳しいのかもしれない……」


 俺には自信がなかった。これまでの後悔しかない恋愛事情が逆に邪魔をしている。正直なところ、深みにハマることを本能で避けている感覚すらある。


 恋は盲目と言うけれど、まさにそのことを心から理解しているように思う。「盲目になるなんてそんな危ないことできるか、ボケェ!!」と心が自動的に叫びだすような自身の防衛本能を麻痺させでもしなければ、警戒心が勝ってしまい、相手を深く好きにはなってはいけないという理性の方が優ってしまう。


 若い10代の頃なら、それこそ盲目となり周囲の目も気にせずラブラブなバカップルぶりを発揮するくらいのことは平気にやってのけただろうに。


 彼女のことが好きなのか嫌いなのかと問われれば、自分は「好き」と答えることができる。しかしその程度は温度はと問われると、とたんに言葉に詰まってしまう。


 俺は自分の心がわからない。


 なぜ恋愛は、こんなにも難しいのだろうか。

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