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【書籍化・コミカライズ化】商社マンの異世界サバイバル ~絶対人とはつるまねえ~  作者: 餡乃雲(あんのうん)


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k-129

 楽しい時間はあっという間に過ぎると言うが、ユリナさんと過ごす時間はゆっくりと流れているように感じる。


 イメージとしては、大きな川のゆっくりとした流れのような感じかもしれない。


 「次はいつ会える?」そんな会話も必要ないと思ったので言わなかったし、言われもしなかった。お互いにまた会えるという安心感があった気がした。言葉がきちんと伝わらなくても、俺と彼女の間には二人にしかわからない彼女が特別に教えてくれた魔法の言葉がある。発音はこの世界独特のものだが、バルスならぬアイス。まさに秘密の呪文。


 その事実が俺にそう思わせてくれていたのかもしれない。



 ……



 ユリナさんと別れた俺はマルゴの店へ向った。店のドアを開けると、アッシュの鼻がぴょこっと出てきた。どうやら待っていたみたいだ。


 アッシュを抱き上げて、店の中に入るとマルゴとサラサが仲睦まじくしている。


 もう、恋人ではない。夫婦の距離感だ。この家は、まるであたたかい暖炉のようだ。そしてそれは決して暖炉の温もりのおかげだけではないはずだ。



 俺は帰り道、ふと考える。


 自分の家で過ごす時間はゆっくりと時計の針が進む。


 たぶんマルゴとサラサも今はゆっくりとした時間を過ごしていることだろう。


 一人で過ごす時間、彼女と過ごす時間、マルゴたちと過ごす時間。


 どの時間も好きだが、マルゴたちと過ごす時間はお祭りのようにあっという間に過ぎていく。


 しかし、ユリナさんと過ごす時間はゆっくりと、まるで透明な水の中を漂うように、時間の流れを感じさせない。


 一人の時間を過ごすとき。


 例えば一人で焚き火に当たっているときや、布団で横になって考えごとをしているときは、まるで揺篭の中にいるかのような。小さく完結した世界で時間を過ごしている。


 彼女と過ごす時間はそれとは似ているが、少し違う。


 決してモラトリアムではないし、お祭り騒ぎでもない。


 不思議でどこか懐かしい感覚だ。思考の邪魔をせず、彼女は静かにそこにいてくれる。


 揺篭で眠る赤子の小さく完結した世界が、少しずつ優しく広がっていく。


 俺はどこか懐かしく心から安心できるような感覚は、まるで家族がいる家に近しいものだと思った。

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