モノローグ・バイエルン7
吾輩はレスタ・フォン・バイエルン。
何とか屋敷の敷地外に出ることができた我輩は、冒険者ギルドに顔を出し迷惑をかけた冒険者たちに謝罪をした。
当然謝罪するだけでは足りない。お金も支払った。
次はケイゴオクダだ。彼には我輩自身の命を救われているし、多くの冒険者の命を救った功績がある。
金貨500枚分の働きはしているであろう。
我輩は護衛兵のドニーと一緒にケイゴオクダの家を訪ねた。
むむ。何かとてつもなく良い匂いがするぞ。まあ、それはさておき。
我輩はケイゴオクダに頭を下げた。謝罪をした。
しかし、ケイゴオクダは言葉が通じないらしく、怪訝なな表情を浮かべていた。
我輩はドニーに合図をして、金貨500枚が入った金貨袋をケイゴオクダに手渡した。
そして、何度も何度も頭を下げた。
金貨を数え上げたケイゴオクダはにこりと笑い、我輩を気遣って左手で握手を求めてきた。よかった……。
そして、我輩はケイゴオクダから木製のテーブルに座るよう促された。何だろう?
するとケイゴオクダは、とても香ばしい匂いを放つ料理と酒を目の前に並べてくれた。
パク……。ドドーン! 我輩の背後に雷が轟いた。
こ、これはイカンぞ! 美味すぎるっ!!
芳醇な味わいが口いっぱいに広がってゆく。これは一体何なのだ、酒が止まらん!
ドニーの分の皿もテーブルに並んだ。
我輩はドニーを見て、皿をよこせと血走った目でアイコンタクトをしたが、ドニーは皿に目が釘付けで気がつかない。ドニー貴様、立場をわきまえよ!!
はっ! いかにかん。我輩はここに一体何をしにきたのかを思い出した。
無理やり奪うのも以前の我輩の無様そのもの。ここは我慢だ。
そして我らは、そのままケイゴオクダの家で宴会をすることになったのだった。
本当に酒が進んで仕方がない。どうやらこの素晴らしい料理はクンセイという料理らしい。本当に素晴らしい。
また先ほどから、食欲のそそる匂いを発していて気にはなっていたが、何かの肉の丸焼きのようなものをケイゴオクダが切り分けてくれた。
パク……。
ドドーン!!
再び我輩の背後に雷が轟いた。
この料理は一体何なのだ! 深みとコク、そしてなんとジューシーな味わいか!!
これはイカンぞ! 酒が本当に止まらないではないか!!
きっとケイゴオクダは優秀なヒーラーであると同時に、名のある料理人なのだろう。こんな隠れたところで隠居生活をしているのも、おそらくよほどの事情あってのこと。これ以上詮索しては、彼の料理が食べられなくなってしまう可能性がある。
この場所は我輩の秘密にせなばな!!
気がつけば、我輩はすっかりケイゴオクダの料理の虜になっていた。
そしてドニーと馬鹿騒ぎをしていたら、いつの間にか我輩の記憶は途中からなくなっていた。




