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N-075 トウハ氏族の神髄は銛の腕


「2YM(60cm)は超えてるな。幸先が良いぞ」

「ラディオス兄さんも釣れたみたいにゃ!」


 操船楼からサリーネが教えてくれた。

 ケルマさんに舵輪を代わって貰って、周囲の様子を見ていたようだな。


「他の連中はどうなんだ?」

「獲りこみ中の船が何隻かいるにゃ」


 俺の問いに、サリーネが双眼鏡で他の船の様子を見ながら教えてくれた。

 満足そうに、エラルドさんが頷いている。

 船団を率いるとなると、自分達だけを考えることなく船団全体の漁獲を考えなくてはならないようだ。その辺りをじっくりと俺に教えるためにこの船に乗り込んだんだろう。

 今のところは合格点内にいられるみたいだが、減点されないように注意しないといけないな。

 さらに、2匹のシーブルを釣り上げたところで当たりは遠のいてしまった。

 次の群れをしばらく待つことになる。


「船団の各船の漁が上手く行っているかが気になりますけど、俺に考えがあれば使ってみても良いでしょうか?」

「確かに、俺達も昔からそれを考えてはいたのだが……。笛とホラ貝では状況が分からぬ。停船時にザバンで様子を聞く事が一番になってしまう。良い方法があるのか?」 

「旗で合図し合えると思うんです。小屋の出口近くに竹竿で旗を上げれば遠くからでも分かります。赤、黄色、緑、白位なら布を買って直ぐに出来そうです。旗の色を組み合わせて状況を伝え合えると思うんですが」


「トウハ氏族の船も昔は自分の印を掲げたものだ。旗を掲げること自体は新しい事ではない。この漁から帰ったら氏族会議に諮ってやろう。どんな旗を作って色をどのように組み合わせるか考えておくんだぞ」


 この漁は、時間だけはたっぷりあるんだよな。

 テーブルをベンチに引き寄せて、旗竿や旗について、メモ帳にまとめる。

 文字はあまり知らないから、サリーネに手伝って貰いながら考えを纏めていると、少し離れたベンチでエラルドさんがパイプを楽しみながら覗き込んでいる。


「旗の布の色を変えるなら、左右よりも上下に変えた方が布が破れないにゃ。遠くから見るなら1.5YM(45cm)は必要にゃ」

「赤、白、黄色と緑が基本だ。その他に、2色の旗を上を緑で下を赤白黄色の3色に分ければ良いだろう」


 赤は、救援要請だ。白は準備完了、黄色は現時点で用途は未定になる。

緑は漁の成果を表すことにして、獲れた数によって緑一色から白、黄色、赤とすれば良い。目的に応じて数の符牒を決めれば良いだろう。


「ブラドなら5匹を単位に、カマルなら10匹かな。シーブルなら2匹でも良いんじゃないか?」

「船団の長も分かると良いにゃ!」


「なら、吹流しを作ろう。こんな感じ竹で輪を作って、その周囲に長い布を垂らすんだ。今回は俺達が船団を率いているけど、グラストさんが後ろで見てくれている。そんな役目の船にも付ければ良いだろうな」

「前が赤で、後ろが白で良いにゃ。旗竿がもう1本いるにゃ」


 そうなると、十字に組んだ桁に旗を掲げたいな。

 でも、とりあえずは小屋の左右に竹竿を立てれば十分だろう。小屋の屋根から2mも出せば十分に視認できるだろう。


「中々おもしろそうだ。船団の間隔が開くと全体を見るのが難しい。それが容易になるならグラストも賛成するだろう。そのメモは俺に渡してくれないか?」

 メモ帳を破ると、エラルドさんに手渡しておく。

 あれから当たりが遠のいているけど、今日はこれでお仕舞なのかな?


 突然、当たりが出た。

 今度は舷側の方だから上層にいる回遊魚だな。

 エラルドさんがリール竿を操って引き寄せた魚は1m程のダツだった。

 俺が甲板にタモ網ですくい上げたダツの頭に棍棒を叩き付けたのは、ケルマさんだった。

 仕掛けを投入しようとしてると、反対側の竹竿に当たりが出る。引き上げをエラルドさんに任せて、仕掛けの投入を行う。

 入れ食いに近いから、殆んど連携作業になる。

 ビーチェさんも参入してくれて、タモ網でダツを救い上げている。

 左右に動きながら、竹竿の先にある洗濯ばさみに道糸を通して、仕掛けを放り込むのが俺の担当になってしまった。

 セリーネがジッとベビーサークルにつかまって俺達を見ている3人の子供達の世話をしてくれるから安心できるが、そうでもなければ小屋に閉じ込めることになってしまうな。


 10匹近く釣果を上げたところで、ダツの群れは去ったようだ。

 ケルマさんが、最後に釣りあげたダツをさばいて保冷庫に放り込んでいる。

 甲板を海水で洗い終えると、ビーチェさんが皆にお茶を入れてくれた。3人の子供達にはココナッツジュースをサリーネ達が飲ませている。 


「まあまあの釣果だ。夕刻には反転するんだったな?」

「そうです。3昼夜程漁をしたいと思ってます」

 

 夏なら一夜干しをしたいところだが、生憎の雨季だからな。東の空が暗いから、夕方には豪雨になりそうだ。

 ビーチェさんが空を眺めて夕食の準備を早々と行っているから、意外と降りだしは早そうだぞ。


 単発的な当たりが中層狙いの竿にやって来る。

 釣り上げた獲物は大きなカマルだったが、獲物には違いない。纏まった数になれば良い燻製になりそうだ。

 夕食はまだ明るい内に食べて、日暮れのコース変更に備える。

 操船をリーザとビーチェさんに変わったところで、ホラ貝を合図に大きく左に反転して西に向かった。


 反転後30分も経たない内に豪雨が船団に襲い掛かる。

 それでも、船を進めているから、天幕の屋根の下に入れば雨は凌げる。

 たまに獲物が掛かると豪雨の中、ずぶ濡れになって取り込みを行う。


・・・ ◇ ・・・


 曳釣りを3日間行って俺達は帰路に着いた。

 ラディオスさん達が各船を回って釣果の確認をしてくれたが、さすがにボウズの船は無かったようだ。平均でシーブルを10匹以上、バルを20匹近く釣り上げているようだ。カマルの数が不明だが10匹以上は確実だろう。


「中々の漁だったな。参加した者も満足しているだろう」

「俺としては東にも同じような島が続いていることに安心しました。あの先で素潜り漁も行えるでしょう」


 帰りの船旅は少し船速を上げているが、特に問題は無いようだ。このまま進めば明日の昼過ぎには氏族の島に帰り着くに違いない。

 思ったよりも獲物が釣れたことにエラルドさんは機嫌が良い。

 薄曇りの天気だが、どこを向いても今のところ雨雲は見えないから、ちびっ子達も甲板に出て遊んでいる。

 やはり甲板が広いのは、子育てには良いようだ。

 サディさんがにこにこしながら子供達のお相手をしている。

 俺はパイプを咥えながら、動力船のスケッチを何枚か書いていた。

 カタマランの小型版、カゴ漁の動力船それに大型の保冷庫を持った運搬船の3種類だ。俺の次の船はもう少し良く考えてみよう。とりあえず嫁さん達の要求を纏めておけば良いだろう。

通常動力船への操船楼取り付けはカゴ漁動力船の操船楼をそのまま付ければ良いんじゃないか。カゴ漁動力船は既存の動力船の枠内で行いたいからな。


「だいぶいろいろの形になっているな」

「やはり専用ともなると特化しますね。出来れば水車を舷側か、船首に設けたいところです」


 船首よりは側面だろうな。両舷に直径2mの水車を着ける事になる。桟橋の接岸で破損しないように舷側を張り出して回廊のようにすれば、そこにカゴを並べることができるだろう。既存の水車位置まで甲板を広げれば、甲板の広さは縦5m横4mにもなる。既存の大型船を改良すれば、小屋の大きさだって横3m長さ5mはできそうだ。

 更に双胴船の形にすれば、家族の人数が多くても2家族は乗せられる。


「こっちの船はこの動力船より大型だな」

「小型の動力船を2隻、この船のように繋げるんです。縦方向は40YM(12m)ですが、横幅は30YM(9m)にもなりますよ」

横に設けた2連の水車で進むことになります横幅が大きいから小屋は独立に左右2つ設けることができる。2家族で行うロデナスのカゴ漁は、かなり楽に行えるだろう。


「運搬船は小型のこの船に似ているな」「それ程違いません。違うのは小屋の大きさと、保冷庫、それにイケスの大きさの違い位です。左右の船の中は殆どその空間に使います。小屋の船首部分に納めますから、この船の航海日数は5日程度になるでしょうね」

 昼夜を問わずに走らせる船だ。数人が交代で操船を行う事になるだろう。速さと、積荷だけを考えていると言っても良い。


「そのメモも貸してくれないか? 長老会議で再度確認するつもりだ」

「そうして下さると助かります。長老は任せるとは言ってくれましたが、やはり、確認して貰う必要はあると思います」


 世間話的に動力船の改造を確認して貰う。エラルドさんも俺と同じように始める前に確認する必要性を考えているようだから丁度良い。

 

 翌日の昼前に氏族の島へと帰り着いた。

 直ぐに嫁さん連中が、獲物を背負いカゴに入れて燻製小屋へと運んでいく。生憎と商船は帰ったみたいだな。

 次の入港までには間があるから、それまで燻製にして保存するつもりのようだ。


 生憎と、バルトスさん達もまだ帰ってこないらしい。

 しばらくは俺達の船で過ごすみたいだな。

 俺とラディオスさんで子守をしていると、グラストさんやラディオスさん達が集まってきた。

 話を聞くと、それなりに獲物を釣り上げたようだ。


「やはり、曳釣りには良い場所だな。素潜り並みに獲物が獲れる」

「だからと言って、銛を忘れてはいかん。トウハ氏族は銛の民とも言われている。その辺りも考える必要があるな」


 嫁さん達が出掛けたままだから、ラディオスさんが持参したココナッツを割ってお茶代わりに飲んでいると、嫁さん達が帰って来てちびっ子を小屋に連れて行った。

 中で皆で過ごすんだろう。俺達も、だいぶ低くなってきた空をたまに見上げながらパイプを楽しむ。

 

「俺達の漁に制限を掛けるという事ですか?」

「まあ、そんなとこだ。銛の片手間に釣りをするのは構わんが、それが逆になると氏族の将来に係わる可能性も出て来る。その辺りをどうするかを話し合えば良い答えも出るんじゃないか?」


 グラストさんは楽観主義者なのかな?

 その答えは中々出ないと思うな。素潜り漁は過酷な漁である割には獲物が少ない。俺達だって最初は素潜り漁の合間に根魚を釣って位だからな。



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