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N-073 トウハ氏族の船の種類が増えそうだ


 翌日。早々と入り江の出口に向かって、いったんカタマランを止めると船尾のベンチの上に乗ってブラカを吹いた。

 低いブラカの音が、入り江の隅々まで届いたのが、俺に向かって手を振る人達の姿で分かる。

 桟橋から次々と動力船が離れ、入り江の出口に向かってきた。

 今回は俺が船団の指揮を執る。後ろでエラルドさんが俺の不足を補ってくれるから、少しは安心できるな。

 今回はこのカタマランに11人もの人数が乗り込んでいるんだが、小屋も甲板も広いから特に問題は無い。

 甲板の手すりには網が結んであるから、ちびっ子達が海に落ちることは無いだろう。獲物が掛かった時は、状況に応じて小屋に入らせることになりそうだ。

 

「サリーネ、出発だ!」

 俺の合図でカタマランがゆっくりと入り江を離れるとともに速度を上げて行く。

 水車方式の動力船が後ろに並んでいるから、通常の巡航速度で南に向かう。

 魔道機関の出力は1ノッチに届かないだろうな。速過ぎる場合は、直ぐ後ろでエラルドさんの船を操るラディオスさんが、笛で連絡してくれることになっているが、あの船も魔道機関が強化されているんだよな。

まあ、その辺りはラディオスさんも分っているはずだから、僚船と後続船の状況を船尾のベンチで見てくれているはずだ。


「付いて来れるようだな」

「新造船が多いですからね。通常よりも少し速度が出てるはずですが、このまま進みましょう」


 何度か、ラディオスさん達の船と行動を共にしたから、サリーネ達も他の船の巡航速度に合わせる為の魔道機関の出力を理解したようだ。

 エラルドさんとベンチに腰を下ろしてパイプを楽しむ。

 操船をしているのは、サリーネとケルマさんのようだ。ビーチェさんはリーザ達と一緒に子供達と甲板で遊んでいる。エラルドさんが作ったベンチは背もたれが無いから、それを甲板の真ん中に置いて、子供達が登ろうとしているのを近くで眺めている。

ベビーサークルは持ってこなかったのかな? そう思って周囲を眺めてみると、カマドの近くに立て掛けてある。あれなら、調理するときに火傷を負う事はないだろうな。


 順調に、船団は進んで行く。昼食を終えると、操船がリーザとサディさんに交代したようだ。となると、夕食後はビーチェさんとライズになるのかな?

 今のところ雨は降ってこないが、かなり雲が下がってきたから夜半前には降りだしそうだ。

 

 夕暮れ近くになった時、ビーチェさんがサリーネやサディさんと共に夕食を作り始めた。

 夕食は、ちょっと辛めの漬物に、野菜スープとご飯になる。まだ、鍋がカマドで湯気を上げているのが気にはなるが、どうやら夕食のおかずでは無さそうだ。

 食事が終わると、今度はビーチェさん達が操船を交替する。

 子供達を連れて、サディさんとケルマさんが小屋に入っていく。たぶん寝かしつけるんだろう。散々、甲板で遊んでいたから直ぐに眠るんじゃないかな。


 リーザが俺とエラルドさんにお茶を入れてくれた。

 2つのランタンが甲板を照らしているから、それなりに明るいぞ。

 俺の隣にカップを持って腰を下ろすと、ふうふうと息を吹きかけてお茶を冷ましている。

 

 「兄さんは、ちゃんとできるのかにゃ?」

 「必勝法を教えといたぞ。だいじょうぶだ。恥はかかないと思うよ」

 「確かに、あれなら問題ない。どんな上の句でも続けられる。あれを即答で返した時の各氏族の長老の顔が見てみたいものだ」

 

 俺のTシャツをグイグイと引っ張ってるけど、それは教えられないな。

「俺達の漁が終わるころには帰って来るだろう。バルトスから聞くんだな。たぶん披露してくれるだろう」

 エラルドさんがそう言って笑い始めた。

 たぶん、エラルドさんの脳裏では、カガイの光景が浮かんでいるのだろう。

 

 小屋から、サリーネ達が出て来た。子供達は寝付いたようだな。

 ベンチを持ち寄って、お茶を飲み始める。俺達のカップにお茶が無いのを見て、ケルマさんがお茶を注いでくれた。


「やはり、大きい船は良いにゃ。これからたくさん漁をしないといけないにゃ」

「でも、これだけ大きいのは考えものですよ。一回り小さいものがどれ位で出きるか、この船を作ったドワーフが来た時に聞いてみます」

 サディさんのところは双子だからな。甲板が広いと子育ても楽なのかも知れない。でも、あまり広くすると小屋が小さくなるんだよな。

 

「動力船の小屋と甲板のどちらを広くしたいですか?」

「それなら、小屋にゃ。風通しが良い小屋が良いにゃ」

 答えてくれたのはケルマさんだけど、他の2人も頷いてるぞ。エラルドさんはパイプを咥えて俺達の話をジッと聞いている。


「この船は小屋を大きく作りました。船首にザバンを積んでいますから、この甲板の大きさです。ザバンを屋根に積もうと考えてるんですが、その場合は一回り小さく作っても小屋の奥行きはこの船と同じ位にできますよ。横幅は15YM(4.5m)以上行けそうですし、奥行きも同じ位にできると思います」

「それなら、大家族でも問題なさそうにゃ。それ以上増えたら、この船を譲ってもらうにゃ」


 サディさんの答えは前向きだな。確かに、寝るだけなら3家族は泊まれそうだからな。でも、そんな大家族も氏族の中にはいるんじゃないか? 

 俺が、どう返事をするか悩んでいると、エラルドさんが吹き出す寸前の表情をしているぞ。


「確かに大家族も氏族にはいるんだ。親と同居して子沢山だとそうなるだろうな。15人と言うのもいるぞ。さすがに動力船に乗れんから、半分は小屋暮らしになるが、本来なら一緒に漁をさせてやりたいと、長老達も思っている事は確かだ」

「そんな大家族用の船も、必要とする者がいると……」


 俺の言葉に、エラルドさんが頷いた。

 となると、それも考えるべきだろう。若者達の船も大事だが、長く氏族の為に尽くしてきた連中の為になるものだって必要なはずだ。


「気の毒に思っている連中は多い。それ程、改造費が掛からぬようなら長老会議に掛けても賛同してくれるだろう。それも見積もってくれないか?」

 今度は俺が頷いた。

 改造費用をカンパしようという事なんだろう。

 だけど、15人ねえ……。予想を超える数だな。


 サリーネ達は俺とエラルドさんにバナナの蒸し焼きとお茶のポットを渡して小屋に入った。今夜深夜で俺達に代わり、明日はサリーネ達に操船を交替して貰うからね。ゆっくりと休んでほしいぞ。


 夜半にビーチェさん達から操船を交替して、エラルドさんと2人で操船櫓に乗っていると、ライズがお茶と蒸したバナナを差し入れしてくれた。ライズ達もベンチで食べ終えたところで眠るのだろう。


 夜食を頂いたところで、パイプを楽しむ。

 雨が降ってきたけど、ガラス窓を屋根から下せば俺達が濡れることは無い。


「なるほど、これは便利だな。雨が降れば濡れるものと思っていたが」

「長時間舵輪を握りますからね。少しでも快適に過ごしたいです」

「これを普通の動力船に作れないか? 雨の操船が辛いのは皆同じだ。嫁さん連中から感謝されるぞ」


 確かに、サリーネ達が最初の船を雨の中で操船している時は、水着を着て麦ワラ帽子を被り水中眼鏡を付けてたっけな。

 あんな恰好で操船してたんでは、ストレスも溜まるだろう。確かに、改善したいところだな。


「動力船だけでも、色々ありますね。トウハ氏族の動力船がかなり斬新な形になりそうですけど、その辺りに問題はないんですか?」

「そうだな……。確かに、昔から大きさの異なる3種類の動力船でネコ族は漁をしてきた。使い難いこともあるが、それをそのまま受け入れてきたという事だろう。そこに改良を施すということは殆ど無かったようだ。だが、便利であれば受け入れる事にやぶさかではない。どうしたら便利に使えるかと考えるのが苦手な種族なのかも知れんな」


 だが、穏やかで思いやりのある種族だ。

 この世界に紛れ込んだ俺を氏族の一員として受け入れてくれ、漁で暮らしを立てる方法を教えてくれたんだからな。

 この左腕の聖痕が無くとも、氏族に加えてくれたんじゃないかな。

 それを考えると、俺にできることは協力せねばなるまい。同じ氏族なのだから、困っていれば助けるのがトウハ氏族という事なんだろう。


「カイトに貰った船だが、少し改造したいと思ってる。ビーチェが2つのカマドを欲しがってな。それにこの操船楼を甲板に作れないかと思っているのだ」

「甲板が3YM(90cm)程短くなりますが、それ位は何とでもなるでしょう。上手く操船楼への登り口を考えれば、小屋から濡れずに上がれますよ」


 エラルドさんは舵輪を握っている俺の肩をポンっと叩いた。

「なら、俺の船を改造してくれ。それで、改造費がどれ位かが分かる。操船楼の構造はこの船と同じで良いぞ」


 普通の動力船は、舵輪と舵の関係をロープとロクロで行っているようだ。それをそのまま踏襲すればそれ程無茶な値段にはならないだろう。

 それに、その程度なら通常の商船にいるドワーフの職人で十分じゃないかな。

 完成すると、グラストさんが欲しがりそうだ。その辺りはエラルドさんに任せなければなるまい。


「ドワーフとの調整はしますけど、グラストさんの方はお願いしますよ」

「ははは……。確かにグラストも欲しがりそうだ。だが、先ずは1隻改造してみろ。それで、色々と分かるかも知れない」


 改造によって、使い難くなったりしたら問題だ。確かに1隻で試してみる価値はありそうだ。


 東の空が少しずつ白んできた。まだ日の出には間があるけど、今日の昼過ぎには目的の海域に着くだろう。

 アンカーを下ろして一晩ゆっくり休めば、次の早朝から曳釣りを始められる。


「しかし、魔道機関の出力を1ノッチも上げずにこの速度が出るのか……」

「一応、魔石8個の魔道機関が2台着いてますからね。今考えている小型の方には魔石6個の魔道機関にするつもりです」

「そうだな。魔道機関の値段はそれ自体で金貨が必要になる。あまり大型の魔道機関を着けるよりは標準品で良いだろう。3年おきに行う魔石の交換費用もバカにはできない」


 要するに、趣味に走るなって事だな。

 漁をするには、それほど速度は必要としない。その漁場まで掛かる日数を少し減らしたいだけなんだと思う。


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