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P-189 再び桟橋造りを仰せつかった


 氏族の島からオラクルへ一足先に向うのは、俺とガリムさんそれにガリムさんの友人達の7家族だった。

 前日に島の住民が積み荷を運んでくれたんだけど、俺のカタマランには接着剤の入ったタルが5つも乗せられてしまった。着いたら下ろすのに苦労しそうだな。

 その夜には、カルダスさんが黄色に塗装された真鍮製の水の容器を2つ運んできたんだが、中身は蒸留酒らしい。

 長老に届けてくれと頼まれたけど、これって長老のログハウスで飲むココナッツ酒に使うのかな?

 2つもあるからなぁ……。乾季までは十分に持ちそうだ。


 翌朝。朝食を終えたところで、ガリムさんに率いられた俺達は島を発つ。

 皆のカタマランの甲板にも重そうな荷物が載せられている。

 あまり速度を上げずに向かうだろうから、オラクルまで4日以上掛かりそうだ。


「トーレさんから、操船櫓に上がらないようにと言われたにゃ」


 済まなそうな顔をして、俺と並んで船尾のベンチにタツミちゃんが座っている。

 結構お腹が大きくなってきたから、トーレさんでなくても島の小母さんが注意してくれるに違いない。

 

「遅くまでカタマランを進ませるかもしれないけど、俺だって操船はできるからね。皆の後を付いていくだけで良いんだから」


「停船と、出発はエメルちゃんに任せないとダメにゃ。このカタマランは大きいから、動きが少し鈍いにゃ」


 それを補うためにバウスラスターが付いているんだろうけど、俺は真直ぐにカタマランを進めることができるだけだからなぁ……。

 少しは舵を切る時もあるけど、島を起点に大きく回頭するようなことはさせて貰えなかった。


「大きく進路を変える時にはエメルちゃんに革って貰うよ。今のところは大丈夫だと思うんだけどね……」


 心配そうな顔をして俺の操船を見ていたエメルちゃんに声を掛けて甲板に降りて貰う。隣にいると、こっちが緊張してしまう。

 何かあれば大声を出せば、直ぐに飛んできてくれるに違いない。


 そんな感じで、俺達のカタマランはオラクルに向かって進んでいく。

 停船と出船時は、さすがにエメルちゃんにお任せなんだけど、日中はどうにか交代しながら進んでいる。

 台船なら俺にも操船できるんだから、桟橋に横付けもやらせて欲しいところだけど、さすがに桟橋を壊したりしたら皆の笑いものになりかねないからなぁ……。


 大きなお腹を抱えるようにしてタツミちゃんが食事を作ってくれるんだけど、何時頃生まれるんだろう?

 トーレさんの話では、雨期の中頃じゃないかということだけど、勘だとも言ってたからなぁ。

 案外早くに生まれるんじゃないかな。


 ガリムさん達が頑張って速度を速めてくれたので、オラクルのロウソク岩を4日目の昼過ぎに見ることができた。

 これで夕暮れ前に桟橋に横付けできそうだ。

 さすがに荷下ろしは明日になるんだろうけど、人手が少ないからなぁ。

 明日1日は掛かってしまいそうだ。


 どうにか桟橋に横付けできたところで、ガリムさんが長老に報告に出掛けた。

 それなら……、と蒸留酒の容器を2つ届けてもらうことにした。

 ちょっと驚いていたから、水汲み用の容器に蒸留酒を入れて買い込んでいるとはガリムさんも思っていなかったようだ。


 タツミちゃん達は一足先に浜に出掛けて、皆で料理を作るらしい。

 今夜は焚火を囲んでの夕食になりそうだな。

 どれ、俺も出掛けて焚火の準備を始めようか……。


 ガリムさんの友人達と、焚火用の薪を運び準備を整えている内に夕暮れが迫ってきた。

 手を振って長老のところから帰ってきたガリムさんを迎えたところで焚火を焚く。

 ココナッツ酒が回され、とりあえずは帰って来れたことを皆でいあうことにしよう。


「親父から伝えるように言われたことを伝えたんだが、あまり驚いてなかったなぁ」

「それぐらいはお見通しってことか? さすがは長老だな。だが、シドラ氏族の長老がこちらに来るとおかしなことにならないか?」


 長老が2組ってことか……。確かに問題はあるに違いない。

 とは言っても、シドラ氏族の長老は向こうが主流だ。オラクルの長老は俺達のまとめ役に過ぎないからね。


「同じ氏族ですから、その辺りの調整は長老に任せておくに限ります。あまり深入りするのもどうかと」

「まぁ、そういうことになるんだろうな。それよりも、桟橋を新たに作れと言われたぞ。さすがに石作りではなく、普通の桟橋で良いと言ってくれたが、3つ作ることになりそうだ」


「また桟橋か……」と長く声も聞こえてくる。

 俺もその一人だから、心境は分かるんだよなぁ。だが、シドラ氏族のじゅみんが全てやってくるとなればそれでも足りないくらいだ。

 大きな入り江だから、いくらでも桟橋を作れることは確かだ。

 桟橋用の丸太はオラクルから切り出すことはしない方針だから、他の島から運んでこないといけないんだよなぁ。渡り板はさすがに商船から手に入れることになると思うけど、前に作った魔道機関で動くノコギリを使えば何とかなるかもしれないな。


「そういうことだから、雨季をオラクルで暮らす船団が来ない間に、丸太を運ぶぞ。1日に20本は運んで来れるんじゃないかな」

「50本以上運んでおけばカルダスさんも頷いてくれるだろう。ついでに炭焼き用の薪も運んでくれば、俺達にとっても利があるからな」


 炭はシドラ氏族の島でも購入してきたんだが、オラクルでも大量に消費するからなぁ。皆が頷いているのも漁に出るには必要だと考えての事に違いない。


 すっかり日が沈んだところで、夕食が運ばれて来る。

 嫁さん達が腕を競ってくれたから、どの料理も美味しく頂ける。

 焚火を囲んで、美味しい料理に舌鼓を打ちながらココナッツ酒をあおる。明日は丸太運びを始めようとしてるんだけど、全員が二日酔いなんてことにならないかと心配になってくる。

 小さな子供達も嫁さん達と近くの焚火で騒いでいるけど、ネコ族の女性はいつもにぎやかなんだよなぁ。

               ・

               ・

               ・

 あちこちの島を巡って丸太を運ぶ日々をおくっているとこに、カルダスさんが30隻を超える船団を率いてやって来た。

 いよいよ本格的なオラクルでの漁暮らしが始まりそうだ。

 カルダスさん達が中堅を率いて長老に挨拶に向かったから、今夜にでも明日からの予定を知らせてくれるに違いない。

 ガリムさん達も、ひとまず丸太運びを終えられると思ってか、笑みを浮かべている。


「いつもよりも大きな焚火を作らないとな。たっぷり枝が運んであるから今の内に作っておこうぜ!」

 

 俺達の統率はガリムさんだから、しっかりと頷いて皆で薪を浜に運ぶ。

 さすがに初めて訪れたという連中はいないようだ。一緒になって焚火の準備をしてくれるし、嫁さん達の焚火も近場に作っている。


「雨季だからなぁ……。明日は無理でも、最初の漁に出るのは明後日からだろう? 今度はいくつに船団を分けるんだろう?」

「今夜には分かるだろうよ。やはりシドラ氏族の島の周辺とは魚の大きさが一回り大きいからな。延縄を一回り大きくしたぞ」


「なんだと!」

「なんだ、お前はまだなのか?」


 まだ日の付いていない焚火の傍に集まって、さっそくココナッツ酒が振る舞われているようだ。今傍に行くのは危険な気がするぞ……。


 一旦カタマランに戻ったんだが、タツミちゃん達は料理の準備に駆り出されているらしい。とりあえず、夕暮れまで銛でも研いでいるか……。


 夕暮れが始まると、浜の焚火が盛大に夜空を焦がし始めた。

 そろそろ出かけるか。

 あまり遅いと、夕食を食べそこないそうだ。


 焚火に近づいた俺を最初に気が付いたのはカルダスさんだった。俺に手招きしてるんだけど……。

 とりあえず、言われるままに近くのベンチに腰を下ろすと、さっそくココナッツの椀を渡されてしまった。

 並々と注がれたんだが、これを飲んだら明日はハンモックから出られなくなりそうだ。

 なめるようにチビチビと飲んでいよう……。


「ナギサが顔を出したってことは、これで全員だな?

 早速明日からの予定を言うぞ。早く言っておかんと酒が飲めなくなるからな。俺達全員を4つの船団に分ける。漁は4日で帰ってくるんだぞ。出掛けるのは2日おきになる。

 最初の船団が戻った翌日に3番目の船団が出発することになる。

 ここまでは良いな。それじゃあ、各船団の筆頭と率いる連中を発表する。

 いずれもシドラ氏族の漁師だから、たくさん獲物を運んでくるんだぞ」


 カルダスさんの左手に座っていた男が立ち上がると、メモを見ながら1晩から順に船団の筆頭と船団に入る漁師の名を告げ始めた。

 俺はどの船団になるんだろう? 


 1番の筆頭はガリムさんだった。仲間は若手ぞろいのようだな。俺も名を告げられたから一安心だ。

 だけど、若手だけというのが気になるところだ。

 カルダスさんの説明だと、漁から戻ってきて次に漁に向かうのは5日後になってしまう。

 中4日の内、1日は休養が獲れるだろうけど、残りの3日間は桟橋作りを仰せつかるんじゃないかな。


「これでオラクルの漁を行う。気が付いたと思うが、4日漁を行い4日はオラクルでの暮らしになる。

 オラクルの暮らしは、シドラ氏族がこの島に全員が移住するための仕事をするためだ。1番と2番は桟橋作り、3番と4番は畑のための用水工事を行うことになるが、用水はまだまだ完成には時間が掛りそうだから、保冷船が運んでくる資材を使ってログハウスを数棟作るのも仕事の内だ。

 1番は、明日は荷下ろしを手伝ってくれ。漁に出掛けるのは明後日になるぞ」


 ガリムさん達が嬉しそうに頷いている。

 早速近くの友人達と話を始めたのは、どこに向かうかってことだろう。

 雨季だからなぁ……。あまり遠出をせずに、近場での延縄と釣りということになりそうだ。


 夕食が終わると、カルダスさんに掴まっている俺をガリムさんの友人が連れ出してくれた。

 焚火から離れた場所に集まったのは、1番に加わった仲間ということになる。

 先行してやって来た連中ばかりだから、変わり映えはしないな。


「明後日に出発する。朝食を終えてからで良いだろう。桟橋から離れて入り江の中央にカタマランを停める。黄色の旗を掲げるからすぐに分かるはずだ」


「それでどこに向かうんだ? 雨季だから素潜りよりは釣りになりそうだ。曳き釣りも良いが、子供が小さいのもいるからなぁ。子供がもう少し大きくならないと、ちょっと心配だ」


 そんな話にガリムさんがいちいち頷いている。

 ちゃんと聞く耳を持っているということなんだろう。

 判断は自分が下しても、それにかかわる情報は多い方が良い。当然情報には良いものも悪いものもあるんだけどね。


「基本は釣りだ。雨が降らなければ素潜りもしたいんだが、ザバンを使わずに行うとすれば、オラクルから南西に1日のサンゴの穴を狙いたい」

「結構な深さがあったな。底釣りもできるし、延縄も流せるに違いない。カタマランを停めて潮流で流すんだったら他のカタマランに仕掛けも近づかないだろう」


 目指す漁場は水深が数mほどだ。海底には直径20mほどのサンゴの穴がいくつも開いている。他のカタマランと競合するようなことにはならないだろう。結構広い海域だからね。


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