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P-188 オラクル産の燻製だけを買いとる理由


 商船で太い道糸と大きな釣り針を数本、それに延縄用の仕掛けや銛に使うゴムを手に入れる。

 ついでに数本のワインと3本の蒸留酒、タバコを数個買い込み俺の買い物を終えることにした。

 始めてニライカナイにやって来た商人は、上位魔石を始めて見たと興奮した口調で教えてくれたけど、手にするまでには至らなかったようだ。


「さすがにあの品質となれば、王侯貴族や神殿の関係者が是非とも欲しがるに違いありません。とはいえ私共は初めての参加でありますから、あの魔石の競りを行うのはもうしばらく過ぎてからにしたいと考えております」


 新参者ということで、とりあえずは様子見ということなのかな?

 商売を広く行う上で、他の商会となるべく波風を起こしたくないということなのかもしれない。

 それでも、中位魔石をいくつか手にすることができたことを喜んでいた。

 内陸では水の魔石を得ることがかなり難しいに違いない。


「これから何度も足を運べば、皆さんの好みも理解できると思っています。それに少しは内陸さんの物品に興味が頂けるようでしたので、私共も良い商いができると思っています」


「魚は買い込んだのかい?」

「いろんな種類を買い込んでみました。もちろん燻製品ではありますが、王国の民も種類が増えたことを喜んでくれるに違いありません」


 生鮮魚類となると、やはり沿岸部の王国だけになるんだな。

 魔道機関で動くトロッコが大陸にあるということだけど、やはり鮮魚の輸送はコストがかかり過ぎるということに違いない。

 となれば、オラクルの燻製品はかなり需要があるに違いない。

 店員にその辺りを聞いてみると、燻製品は全てシドラ氏族で買い取ったものだとの答えに、こっちが驚いてしまった。


「やはり内陸まで運びますから良い燻製品を手に入れたいところです。シドラ氏族の燻製に2種類があり、その内の1つを買い込みました。

 今回は他の商船に先んじて、保冷庫1つ分をまとめ買い出来ました」


 買い取った品を詳しく聞いてみると、全て倍以上燻製を行ったオラクル産の品だった。


「結構作るのが面倒なんだが、需要はあるってことか……」

「私の住んでいる王国では、海を知らずに一生を送るものがほとんどです。たまに燻製が運ばれては来るのですが、値段はここでの仕入れ値の2倍を超えてしまいます」


 少しでも安く国内に販売したいということになるんだろうか?

 それなら俺達の漁のやり甲斐があるってものだ。


 シドラ氏族の島でなら、1か月に2度ほど燻製の進んだ物が手に入ると教えたところで商船を降りてカタマランに戻ることにした。


 布袋を肩に担いで帰ってきたから、エメルちゃんが驚いている。

 買い込んだワインと蒸留酒を取り出して渡すと、だいぶ袋が軽くなる。

 袋を船尾のベンチの中に入れたところで、パイプを取り出して一服を始めた。


「残りは漁の道具だよ。オラクル周辺は大物ぞろいだからなぁ。延縄を一回り大きく作るつもりだ」

「雨季だから、延縄を流して近くで釣りをすれば良いにゃ。雨季の終わりにはタツミちゃんが子供を産むから,曳き釣りはお預けにゃ」


 そんなことを言いながら、最後に自分達の仕掛けも釣り針を大きくしてほしいとお願いされてしまった。

 釣り針を交換するよりも、仕掛けそのものを新たに作った方が良いかもしれないな。となると……、道糸を太くしといたほうが良いのかもしれない。

 明日は他の商船に出向いて、リールと釣竿を手に入れて来るか。


 そんなことで2日程が過ぎた。

 まだカルダスさん達は出発する様子がないんだが、俺達だけ先行するというのも問題だろう。


 長老達には、もう少し遠回しに言うべきだったかもしれないな。

 直ぐに結論が出るものでもない気がする。ネコ族の人達は自分の住む島に人一倍愛着があるようだ。


 島に来てから3日目の朝。

 朝食を終えて、延縄仕掛けを作っている俺のところに、バゼルさんがカルダスさんとともにやって来た。

 エメルちゃんが直ぐにココナッツ酒を作ってくれたんだけど、朝から飲むとはなぁ……。


「だいぶ頑丈な延縄だな。まぁ、オラクル周辺の魚は大きいってことか」

「タツミちゃんが身重ですし、子供が生まれたら今までのような漁はできませんからね。素潜りも行いますけど、雨季ですからねぇ」


 うんうんと2人が頷いている。

 ガリムさん達はどうなんだろう? ちゃんと銛を研いでいるのかなぁ。

 漁に出ていないときだって、漁具の手入れはできるだろう。ちゃんとやっておかないと大目玉を貰いそうだ。


「結論は直ぐに出たんだが、それを形にするとなるといろいろと問題があることが分かった。シドラ氏族はオラクルに全員が移住する。これは問題ない」

「問題なのは長老会議ってことだな。シドラ氏族の去ったこの島の扱いが面倒だ。基本は母船団の母校ということになるんだろうが、それをサイカ氏族に任せるということを提案することになった」


 同族意識が高いからなぁ。サイカ氏族は氏族の中で魔石をあまり得ることができない。

 それはサイカ氏族の使うカタマランでも分かるという。

 多くは、他の氏族から払い下げて貰った船だ。カタマランは手入れをするなら20年ほど乗ることができるらしい。

 10年ほどで手放した中古のカタマランで漁をしているらしいが、それもアオイさんのとりなしで出来るようになったということだ。

 それまでは本当に小さな船だったらしい。豪雨がやってきても全員が屋形に入れずに、甲板でスノコを被って止むのを待つような生活だったらしいからなぁ……。


「シドラ氏族のリードル漁場を開放するということですね?」

「ナギサが新たな漁場を見つけてくれたからな。あっちの方が中位魔石の比率が高いんだから、欲張る必要はない。サイカ氏族の全員ということにはならないだろうが、俺達のように半数ずつでもこの島にその季節だけ移動してくれば漁ができる」


 そのまま、ここで暮らすこともできるということになれば、サイカ氏族の全員が移り住むこともあり得るんじゃないかな?


「気が付いたか? 今度はサイカ氏族が俺達と同じ問題を考えることになるだろう。間にオウミ氏族とトウハ氏族がいるのだ。この島に来るだけで10日以上かかるだろうな。俺でも15日は欲しいところだ」

「たぶん移動してくるに違いない。そうなると、サイカ氏族の島と漁場をどうするかが、次の問題になる。

 かつてサイカ氏族の不漁続きの折に、アオイ様は長老会議の席で各氏族の漁場の再編成を行ったらしい。その結果は今でも続いているのだ」


 漁場の再編成ねぇ……。不漁続きであったなら、今更再調整もないだろう。

 そのまま、サイカ氏族の漁場を母船団の漁場にしてしまえば済みそうだ。

 その話を2人にすると、小さく頷いている。

 同じような考えは出ていたに違いない。


「やはり長老と同じか……。そうなると、オラクルの漁場を明確にしておけば良いということになりそうだな」

「すでにカタマランで2日の距離で俺達は漁をしているし、その先はナギサ達が漁場を調査している。海図も揃っているから、長老会議でその範囲を伝えれば済むことだ。

 とは言ってもなぁ……。この辺りの漁場で俺達は腕を競ったんだよなぁ」


 郷愁に近い思いがあるに違いない。

 自分達を育ててくれた海を去ることになるんだからね。


「カルダスさんの思いは少しは理解できますけど、戻れないということにはなりませんよ。オラクルに商船は来ないでしょうから、商船との取引は今まで通りにこの島で行うことになるでしょう。

 それに、いつでもシドラ氏族の俺達がやって来れるように、専用の桟橋を2つほど用意しておけば良いと思うんですが」

「リードル漁を終えても1度にこの島に戻らずに、3つほどに分ければ桟橋2つで十分だろう。カルダス、良い案に思えるが?」


「さすがはナギサ、ってことか? 確かにおもしろそうだ。少し長い桟橋にする必要がありそうだな。それぐらいは俺達で作らねばなるまい。入り江の南はかなり開いてるからな。2つと言わずに3つぐらい作れそうだ」


 いつでも島に帰って来れるが、昼夜カタマランを走らせても3日は掛かってしまう。

 とはいえ、小さな占有地を残しておくのも悪くはないだろう。

 オラクルから商船に買い物に来る船だって、10隻以上の船団を作ってやってくるはずだ。


「今夜の話し合いで、調整が付きそうだ。やはり長老がナギサと話し合ってこいと言うだけのことはあるな」

「それほど知恵はありませんよ。思い付きを話しただけですからね。今夜調整ができたとなると、実際に移住が行われるのは?」


「さすがに雨季には問題も出るだろう。次の乾季の後半になるに違いない。オラクルの桟橋も拡充せねばならないからな。まぁ、浮き桟橋を使うことは可能だが……」

「桟橋2つなら、ザネリとガリムに1つずつ作らせれば良いだろう。石の桟橋は終わってるんだからなぁ」


 カルダスさん達が笑い声を上げているけど、俺達は石の桟橋作りが終わってほっとしているところなんだよね。再び桟橋作りを行うのか……。


「夕食時にでも伝えるつもりだが、ザネリ達に先行して出発してもらうつもりだ。

 トーレ達がオラクルのギョキョウからの注文を受け取っているから、出発はその荷物を積み込んでいってくれ。

 俺達は、長老会議への提案書ができるまでこの島に残るつもりだからな」

「島を見つけたことで苦労をおかけします」


「なにを気にする必要がある。シドラ氏族は豊かになるし、大陸から知られることなく暮らせるんだ。それに一番西の氏族であるサイカ氏族にまで恩恵があるんだから十分すぎるだろうに」

「そうだな……。サイカ氏族の連中が一番喜びそうだ。それにこの島を母船団の母校にするなら、俺達が住んでいた以上に島が発展するだろう。

 たまに20隻近い船でこの島を訪れても、出入りするカタマランが多いことで商船の連中が不審に思うこともあるまい」


 それなら好都合なんだけどね。

 バゼルさん達にはご苦労だけど、もうしばらく残ってもらおう。

 俺達若者は、早く帰ることになりそうだな。今夜にでも、買い出しの見落としがないかタツミちゃん達に話しておこう。


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[一言] 母校は母港 かと思います。
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