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P-164 漁は班を作って順番に


 オラクルに到着した翌日。昨夜の宴会で飲み過ぎたのかまだ頭が痛いんだけど、そんなことを告げた日にはあの苦いお茶を飲むことになってしまう。

 朝食後のお茶を飲んでいると、トーレさんが数人の小母さん達とともにカタマランに乗り込んできた。


「荷物運びを手伝いに来たにゃ」

「もう始めるんですか!」


 今日は荷揚げだと聞いていたけど、そんなに早いとは思わなかった。

 慌てて桟橋から浜を見たんだけど、集まっている男達は数人ばかりだ。


「長老達はバゼルが案内していったにゃ。カヌイのお婆さん達は私らが案内するにゃ」


 そういうことか。荷揚げ作業に直接関わらないだろうから早めに生活の場に案内するってことに違いない。

 カヌイのお婆さん達を世話する小母さんが屋形から背負いカゴを持ち出してきた。

 ここはトーレさん達に任せることにして、カヌイのお婆さん達に挨拶すると、浜に向かうことにした。

 

 小さな焚火を作って男達が集まり始めた。俺に向かって手を上げたのはガリムさんだ。

 俺の兄貴分だから、近くにいれば良いだろう。

 走り寄って隣に腰を下ろす。


「どうせ、俺達は石の桟橋作りだ。まだまだ先は長いが頑張るしかないな」

「今回は漁と桟橋作りが半々ですよ。今までより退屈しないと思ってるんです。仕掛けも釣り針を大きくしましたし、銛だって何度も研ぎましたからね」


 俺の話にガリムさんの友人達も、顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 たぶん航海の間に、同じように銛を研いでいたに違いない。


「銛は研いだが……、釣り針を大きくしたのか? こっちの魚は大きいと聞いたからばらすことが無いようにと思ってたんだが針先を研いだだけだからなぁ」

「俺は、ナギサが釣り針を替えていると教えたぞ。まったく、お前だって1度はこっちで漁をしていたじゃないか」


「俺は、今回が初めてだ。そんなに大きいのか?」

「1周りは大きいな。夜釣りで2YM(60cm)前後がかなり上がるんだ」


「それで釣り針を替えたってことか……。今までの釣り針でも掛かるだろうが飲み込まれると外すのが面倒ってことだな」

「それだけ手返しが遅くなる。仕事の合間に夜釣り用の仕掛けだけでも変えておくんだな」


 俺達より若い連中もいるようだ。

 そんな連中にガリムさんがここでの漁を教えている。

 大物が取れていつも大漁なら、漁師にとっては理想の世界に違いない。

 あまり獲り過ぎると漁場がスレてしまいそうだが、船団を率いる者達がその辺りは中位っしてくれるに違いない。


「だいぶ集まったな。これで全部なのか?」


 バゼルさんが俺達を眺めて声を上げる。ガリムさんが周囲を見渡して、俺達を数え始めた。


「まだ数人来てませんが、若手はほとんど集まってます!」

「俺達も全員ではないが、そろそろ荷揚げを始めるぞ。大型台船は浜まで寄せて俺達が荷を下ろす。各自のカタマランに載せてきた荷物はガリム達が小型の台船で回収しながら行ってくれ。

 ザネリはいるか! いたな。ザネリ達は高台に上げるものと、浜の小屋に置くものに分別だ。浜の小屋には運んでくれよ。高台に上げるのは、午後に全員で行うぞ」


 ガリムさんが腰を上げると、若手が10人ほどそれに続く。俺も一緒だからな。早速ガリムさんと一緒に台船に乗り込んだ。

 数人がカタマランに急いだのはザバンを下ろすためだろう。

 小型の台船はザバンを2隻横にしたようなカタマランだ。荷を乗せると俺達が乗る場所がないからなぁ。

 

「最初はナギサのカタマランに行くぞ!」

「それなら先に歩いていきます。結構荷物が多いですよ」

「あれだけ大きいからなぁ。1回で済むかな?」


 ちょっと怪しい感じもするが、無理はしない方が良いだろう。

 タルだけでも5つはあるし、米の袋が5つもある。その上、木箱がいくつかあるんだからね。


 小さな台船を使って、カタマランから荷物を回収して回る。

 カタマランの数も多いし荷物も多い。桟橋に到着すると、若手の仲間が次々と荷下ろしをしてくれる。

 嫁さん達が一輪車で小屋に運んでくれているんだが、雨が降らないかと心配になるほどだ。

 小屋からダイブはみ出しているんだよなぁ。


 簡単なクレーンを使って高台に持ち上げているようだけど、高台に作った小屋だってそれほど大きなものではない。

 保冷庫の心配よりも、倉庫を作るのが先になりそうだ。


 夕食を終えると、中堅の男達が長老の小屋へと向かっていった。トーレさん達小母さん組も何人かカヌイのお婆さん達のところに向かったらしい。

 とりあえず暮らしていけるかを確認するとともに、当座の仕事の分配を再度確認するのだろう。


「まあ、俺達は石の桟橋作りになるのは間違いないだろうな。バゼルさんから指示があるとは思うんだが、石積みと石運びで分けるぞ。俺達が石を組んで、ガリム達が石運びだ。台船のどちらを使わせてくれるか、後で確認しよう」

「了解です。それで、ナギサは?」


「別命が無ければガリムの班で良いだろう。保冷船が荷物を運んでくるんだから桟橋作りを早めないとな」


 雑に作ったら怒られそうだから、その辺りは注意しないといけないだろう。ザネリさんなら安心できそうだ。


 明日からの作業を話し合っているところに、バゼルさん達が戻ってきた。

 改めてココナッツ酒が配られ、明日からの作業が言い渡される。


「高台の小屋をもう1つ作ることになった。将来の保冷庫を見据えて作ることになるから、これは俺達で行うつもりだ。

 ザネリには、階段の脇に小屋を1つ立ててもらう。ギョキョーの小屋だから、ギョキョーの2人と協力して作ってくれ。材料は台船に積んできたから、木を切り倒す必要はないぞ」


「明日から桟橋を作ろうと思っていたんだけど……」

「3日も掛からんはずだ。その間にガリム達に石を運ばせるんだな。台船は大型を使っても構わん。

 それと、1か月は皆で食事を取ることにした。その後は家族で取ってくれ。その間に2回は保冷船が来るだろうから、食料が足りない場合はギョキョーを通して購入することになる」


 氏族の島の暮らしに近付けて行こうということなんだろう。そうなると、一番の問題が漁果の分配だ。

 バゼルさんに確認すると、しばらくは船団単位で分配するとのことだった。


「漁の上手い者、下手な者が揃わぬよう長老達が考えている。先ずはそれで様子を見ながらということだな。

 個人ごとに漁果を誇りたいならシドラ氏族の島で行えば良い。漁果をまとめて燻製にすることになるから、その辺りは了承してほしいところだ」


 さて、いくつ船団ができるんだろう? 一度に出掛けると燻製小屋が溢れかねないからなぁ。


 数日が過ぎて、バゼルさんが俺達を一堂に集める。

 毎晩焚火の周りに集まっているようなものだが、今回はあまり酒を飲まない男達まで集まったようだ。


「いよいよ漁を始めるぞ。船の数は38隻だ。これを4つの班に分ける。班が船団になるから、班長はオラクルに滞在している時は夕食後は長老の小屋に集まることにする。

 用があって来られん時は代理を直ぐに立てられるようにしておけよ。

 第1班は俺が班長だ。班員は……」


 次々と班長と班員が指名される。

 俺はどうなるんだろうとジッと聞いていると、第4班に入ったようだ。ガリムさんが一緒だから少し心強い。


「漁は、第1班から始める。漁は5日間だ。オラクルを出て、戻ってくるまでが5日間だから、漁場まで1日の距離なら3日間の漁が行える。2日間なら1日になることを忘れるなよ。

 第2班は第1班が到着した翌日に出発する。漁期も同じだ。これを繰り返す。

 オラクル周辺の漁場を知っている者を班長にしたつもりだ。班の中には詳しい者もいるだろうから、良い場所を探すことだ。

 出掛けた漁場と、漁果は長老へ報告する。

 これで後ろの班も、漁をする場所を決めやすくなるだろう。俺からは以上だ。質問はあるか?」


「売値の分配は?」

「全て燻製にして出荷することになる。その代価はオラクルのギョキョーが管理してくれるはずだ。商船に売り払ってから次の保冷船に託すことになるだろう。

 それをギョキョーが受け取って該当する班員に分配される。

 俺達の取り分は8割だ。1割は老人達の取り分になり残りの1割はギョキョーの取り分になる。

 向こうでは1割だけだったが、こっちは漁果が多い。それに燻製にすることで少しは高値で取引されることを考えて納得してもらいたい」


「まあ、中位魔石の数が増すんだから、それぐらいは問題ねぇ。それに保冷船の費用もあるんだろう。それで賄えるのかと心配なほどだ」

「もう1つあるぞ。リードル漁での氏族へ上納する魔石は低位ではなく中位魔石になる。

 上手くいけば中位魔石が10個を超えるのだ。これはこの島の開拓費用として還元されるだろう」


 少しガヤガヤしだしたが、反論はないようだ。

 長老の決定に氏族は従う。こういうところは徹底してるんだよなぁ。


「第1班の出発は明後日だ。明日は準備ということで第1班は仕事を休んでくれ。近くの島にはココナッツが沢山ある。まだ野菜は育たぬようだがバナナも多いぞ」


 バゼルさんの話が終わると、班ごとに男達が集まり始めた。

 バゼルさんが俺を連れて行った先にいたのは、バゼルさんより少し小柄の男性だった。


「やってきたな。俺はエルマスだ。バゼルさんやカルダスさんより少し下になるから、一緒に漁はしなかったが、ナギサのことはいろいろと聞いているよ。頼りにさせてもらうぞ」


「こちらこそ、漁の仕方を見習うつもりです。乾季ともなれば素潜りでしょうが、あまり銛は得意とは言えませんので……」

「婚礼の船でハリオを突ければ十分だ。あまり卑下するのも良くないぞ。自分の腕を氏族に誇って欲しい。それが俺達の目標になるんだからな。

 ところで、乾季ならどこに向かうんだ?」


 ガリムさんと顔を見合わせてしまった。

 どこでも漁はできるんだが、素潜りともなれば……。


 バッグから周辺の海図を取り出して、少し悩むことになってしまった。

 俺のお勧めと、ガリムさんのお勧めが一致しないんだよなぁ。


「ナギサの勧める場所は大物狙い、俺が進める場所は数優先ですね。フルンネや運河良ければシメノンが狙える潮通しの良い崖がこの辺りに続いてます。こっちはサンゴの大きな穴があちこちに開いてるんですよ」


「全くおもしれえ所だな。どちらも行ってみたくなる。それでエルマスはどちらを選ぶんだ?」

「これは悩むところだ。俺達が後ろになったのは、前の班の漁場と漁果を参考にしろという長老の考えかもしれん。たっぷり時間がある。少し考えさせてくれ」


 俺達の班長は思い付きで行動するタイプではなさそうだ。

 しっかり考えて決めてくれるなら、俺達に文句はないんだけどねぇ。

 とりあえず、しばらくは悩んでもらおうとパイプに火を点けてガリムさんと2つの漁場に着いて話を始めた。


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