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P-117 土運びと石運び


 漁の方が楽だと感じてしまうけど、しばらくは我慢するしかなさそうだ。

 同じ島から土を運びすぎるのも問題だろうと、今度は隣の島から土を掘りだしている。

 島だからそれほど土の層が深いわけではない。50cmほど掘ると、岩やサンゴに当たってしまう。

 表面だけスコップで掘ることになるんだが、俺達が掘った跡は浅いくぼみになってしまう。

 このくぼみに枯葉が堆積して再び土になるのは何時の事だろう。

 タツミちゃん達が苗木のような若木を運んできて植えているけど、本人達も一体何の木なのかわからないようだ。


「このぐらいで、一旦運ぼうか!」

「そうですね。後3日も運べば、あの畑も一杯になると思いますよ」


 土を入れた袋やカゴを甲板と船外機付きのザバンに載せて出発する。

 本日2回目だから、そろそろ日が傾き始めている。畑の土を入れれば今日の仕事は終わりそうだな。


 桟橋に横付けしたところで、土を一輪車に乗せ換え運んでいく。

 この一輪車も増やした方が良さそうだ。

 島で暮らしことになってもトロッコが使えるようになるまでは、一輪車が活躍してくれるに違いない。


「カルダス達は石運びだが、どこまで出かけたんだ? 近くにもありそうだが」

「気に入った石が無かったのかもしれませんよ。それとも、この入り江をあまり変えたくなかったのかもしれません」


 たぶん後者に違いない。

 自分達の住む島になるんだから、なるべく手を付けないでおこうということなんだろう。

 将来、何かの機会に使うことがあるかもしれないから、自分達の代で使い切ることを恐れているのかもしれない。


 俺達が土を運んでいる最中に、カルダスさん達が帰ってきた。

 ザバンを並べたカタマランの甲板には山のように石が積まれているけど、あれだって直ぐに使い切ってしまうんだろうな。


 桟橋にカタマランとザバンを留めると、俺達の土運びを手伝ってくれる。

 人数が増えたからすぐに終わってしまった。


「だいぶ遠くに行ってたんじゃないか?」

「島4つ先だ。ついでに10匹ほど突いてきたぞ!」


 嫁さん達が夕食の準備を始めたところで、俺達は焚火を作りココナッツ酒を頂くのはいつものことだ。

 仕事が終わったところで、とりあえず1杯ということになるんだろうな。


「畑は終わりが見えてきた。そっちはどうだ?」

「浜の整地はまだまだだ。海中の石積みは30FM(9m)ほど伸びているが水深が浅いからなぁ。目標は100FM(30m)だから始まったばかりってことになる」


 カルダスさんとオルダンさんが互いに状況を確認しあっている。

 俺達はそれを聞きながら互いに励ますことが多くなってきたな。


「畑が終われば次は何をするんだ?」

「建物を建てる場所を切り開かないといけないでしょうね。作るだけでなく、交代で漁をするようになればさらに人数を増やせますから」


 カルダスさんが頷いているのは、その通りだということなんだろう。

 

「場所は考えてるのか?」

「今作っている畑の奥を考えてます。石の桟橋まで距離がありますが、将来はトロッコを使うでしょうから距離はあまり問題にはならんでしょう」


「燻製小屋に炭焼き小屋、それと保冷庫があれば良いだろう。爺さん連中も最初は桟橋暮らしをして貰えば良いんじゃねぇか?」

「喜ぶだろうよ。動かん家はつまらねぇと言ってるぐらいだからな。あの竹の桟橋を補強すれば爺さん連中が行き来するにも問題はねぇはずだ」


 滑って落ちたりしないかな? ちょっと心配になってきたぞ。


「そうなると……。ナギサ、爺さん連中が住む小屋を考えてくれ」

「長く暮らすわけではありませんから、あの台船に屋形を乗せる形で十分でしょう。2人暮らしなら十分に暮らせると思います」


 俺の言葉に、皆が一斉の石を山積みにしたザバンを見ている。

 

「寝るだけだからなぁ。雨が防げれば十分だが、カマドは作れんぞ?」

「小さくても甲板を作ればなんとかなると思います。カマドは、使う機会が少ないと思いますから、簡単なものを作ってみますよ」


 カマドというより七輪になるんだろうな。

 お茶を沸かすときとか、食事を温めるぐらいにしか使わないだろう。

 島での食事はしばらくは共同で作れば良いだろう。

 そうなると、カマドを増やして屋根ぐらいは作った方が良いのかもしれない。

 豪雨対策はやっておいた方が良いかもしれないな。

               ・

               ・

               ・

 どうにか畑に土が入った。成長の速い野菜の種をタツミちゃんが植えたけど、果たしていつ食べられるようになるんだろう。

 豪雨対策は、竹を編んで作った屋根だ。雨漏りはするだろうが土を掘り起こすほどにはならないだろうし、畑が水没することも無いだろう。


 とっておきのワインをオルバスさん達と酌み交わして、まだ日が高い内に小屋掛けをする場所を確認しに向かった。

 タツミちゃん達は薪を集めるそうだ。

 流木集めも大変だな。大きいのは焚火に使ってるけど、煮炊き用の薪を作るのが大変らしい。


「小屋掛けをするとなると、立木の伐採をすることになるからなぁ。その時までは木を切らないでおこう」

「切るのは簡単ですが、育てるには時間が掛りますからね」


 商船が運んできた苗木をどこに植えるかも問題だな。かなり早まった気がする。数年後でも良かったかもしれない。


「海面から高い場所だったな?」

「アオイさんの時代に大きな津波があったと聞きました。少なくともその時の津波を避けられる場所でないと、後に後悔してしまいます」


 森に入ると結構斜度がきつく感じる。

 この辺りは尾根が南に続いているのかもしれない。

 島の山頂に行った時には、これほど急な場所は無かったんだけどなぁ。


「おっ! 急になだらかになったぞ。結構広い感じだ遠くまで見通せる」

「ここなら丁度良さそうですね。西に向かって立木を切り払えば入り江が良く見通せそうです」


 問題は急斜面だ。なだらかな道を作ることになるのかな? それともここだけ別の登坂設備を設けることになるのか……。


「だが、かなり立木を切ることになりそうだな」

「広場と数軒分ってことですか?」


「炭焼き場と燻製小屋は離して作ることになるだろうな。保冷庫もそうなるか……」


 なだらかな場所がどれほど広がっているのか、歩いて確認する。おおよそ100m四方はありそうだ。南側はもう少し長いかもしれないな。


「こんな形ですね」


 簡単な略図を描いてオルバスさんに見せる。

 その略図を基に、おおよその建物の配置を考えていると、オルバスさんの嫁さんと一緒に南に向かったタツミちゃん達が帰ってきた。


「どうだった?」

「森が切れると砂地になってるにゃ。遠くまで続いて、また森になってたにゃ」


 かつての島と繋がった元砂浜ってことなんだろう。

 もっとも岩がゴロゴロ転がっていそうだな。畑作りは苦労するかもしれない。


「済む場所は全て銛の中で良いだろう。伐採は面倒だが、風の通り道ができるからな。涼しく過ごせるに違いない」

「先ずは石の桟橋を望めるようにしましょう。それができると測量ができますから、地図を作ることができます」


 三角測量だからなぁ。GPSでもあるなら座標と標高が直ぐに分かるんだけど、測量器具があっただけでもありがたいと思わないといけないだろう。

 出来るなら、もう1式欲しいところだ。

 ネコ族の連中は読み書きと簡単な計算ができる。

 これはナツミさんがトウハ氏族で始めたらしいけど、今ではニライカナイ全体に広がっているようだ。

 さすがに三角関数を教えるのは俺にも無理だけど、計算尺と数表の見方を教えれば測量点間の方向と距離、それと高さを求めることぐらいはできるだろう。

 

「だが、結構きつい坂になるぞ」

「こんな形で、斜めに道を作れば良いんです。場合によっては、こんな形に道を折ることもできるでしょう。

 とは言っても、トロッコの木道はかなり大きく迂回するような形で作らないといけないでしょうね」


「魔道機関が付いているんだ。それなら畑の一角にも木道を走らせられるだろう。収穫物が多くてもトロッコの荷台で運ぶことができるぞ」


 なるほどね。それも良い手だと思うな。

 作るのは面倒だけど、完成したらかなり便利に使えそうだ。


 日が傾く前に、北の状況を確認する。

 頂に向かってなだらかに森が続いているんだが、東の方は岩場になっていた。

 岩が今にも落ちそうな場所ではなく、俺の頭位の石がゴロゴロしている。岩場が壊れて斜度が緩くなった感じだ。

 ここも何かに使えるんじゃないか?

 これだけ石が転がってるんだから、大きな貯水槽を作ることができれば良いんだけどね。


 夕暮れ前に浜辺に戻ると、今日はガリムさん達が戻ってきていた。

 石の桟橋を見ても、まだ海の中にいくつか浮きが浮かんでいるだけで姿はないんだよなぁ。

 それでも海中には、着々と石組みが作られているに違いない。


「遅かったなぁ。今度は何をしてるんだ?」

「炭焼き小屋や燻製小屋の場所をどこに作るか見てたんだ。良い場所を見つけたんだが、生憎と森の中なんだよなぁ。それにこの場所からは高台になってしまうんだ」


「高台なら理想的じゃないか! トロッコで漁果を運ぶんだから、高い方が安心だぞ。アオイ様の時代には、大きな津波でナンタ氏族は住民の半数が流されたらしい」


 その話は俺も聞いている。漁で生活する種族にしては、なんで海辺に住居を作らないのかと最初に来た時に感じたことだからね。


「とはいっても、かなりの坂になってしまいます。上手く道を作らないと不便ですよ」


 俺の話を聞いて、ガリムさんは友人達と笑い声をあげている。

 問題ないってことなんだろうか? 

「まあ、飲め!」と言ってココナッツ酒の入ったカップを渡されてしまった。


「坂なら階段を作れば良い。手すりを付ければ年寄だって問題はないだろう。それに年寄りのためだなんて、島に帰って言ってみろ。爺さん連中に怒鳴られるぞ」


 年寄扱いするな! ってやつか?

 全く歳が行くほど元気なんだよなぁ。その光景が目に浮かんできたから、慌ててガリムさん達に頷いてしまった。


「ナギサの言うことも分かるんだが、口には気を付けたほうが良いぞ。まったく困った爺さん連中なんだよなぁ」


 バゼルさん達には爺さん連中だけでなく婆さん連中、特にカヌイのお婆さん達も苦手らしい。

 トーレさん達は年上のお姉さん的な感覚で、結構カヌイのお婆さん達が住むログハウスにも出入りしてるんだけど、男性がカヌイのお婆さん達の住む場所に出掛けるのはほとんどないと聞いたことがある。


 ネコ族の風習なんだろうな。

 男女の役割がかなり明確だ。互いの仕事を尊重しているようなんだけど、結構男性側の仕事に女性が進出しているように思える時がある。

 素潜り漁は男の仕事らしいけど、タツミちゃん達だって潜って魚を突くからねえ。だけど代表的な女性の仕事である操船にはめったに男性は行わない。舵輪を握ったとしても1時間以内だろう。

 1時間を超える時は、まだ嫁さんが1人で遠くの漁場に向かう時ぐらいじゃないかな。


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