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N-046 次の船に付け加えること


 今回の曳釣りは、漁場と違っているからなのか、あまり大型は掛からなかった。それでも、60cm程のシーブルを何匹も釣り上げているから、結果的にはこの方が良いのかも知れない。大型のサイズを競うような趣味の釣りと異なり、俺達の曳釣りは生活の糧を得る手段だからな。さばいて保冷庫に入れたシーブルは燻製にされて出荷されるはずだ。


「大型が出ないのをグラストが残念がっているに違いない」

「今回は、真珠を採るのも目的になってますからね」

 俺の言葉にココナッツジュースを飲みながらエラルドさんが苦笑いをしている。

「まあ、それは分かってるに違いないのだが……。あわよくば、という期待をあいつは何時も持ってるからな」


 なるほどね。多くは期待外れに終わるけど、たまにその通りの事が合ったら、喜んで酒を飲むんだろうな。きっと美味しいに違いない。もっとも、期待外れの時でも残念だと言いながら飲むんじゃないかな?

 それで、大酒飲みになったような気がするぞ。でも、憎めない人柄なんだよな。皆に好かれてるしね。


 60cm程のシーブルが次々とヒットする。

 これでも、氏族では大型と言われるらしいが、前にラスティさんと釣り上げた1m越えの獲物に比べればかわいいものだ。

「漁師仲間で自慢をしたいなら更に大型が良いのだろうが、燻製にして商船に売るならばこれ位が丁度良い」

 素早く釣り上げたシーブルをさばいて、保冷庫に入れてるライズ達を見ながらエラルドさんが呟いた。

 

「15を過ぎてるにゃ。往復で20は確実にゃ」

「燻製小屋を増やさねばならんな。それだけ氏族の島の周囲の魚影が濃いということだろう」

「桟橋に段々畑、それに燻製小屋では大変ですよ」

「それだけ、暮らしやすくなる。お前達の代、その次の代。少しずつ住みやすくするのが俺達の代の務めだ」

 パイプを楽しみながら、俺にそう教えてくれた。

 全て人力で、かつ自分達の本業をおろそかにしない範囲で行っているから、作業の進捗ははかどらないけど、そんな事を考えながら作業をしてるんだな。自分達が利用する機会は考えないということだろう。ある意味、エラルドさん達が生きた証が形となるってことだな。

 俺達が主体となって氏族を動かす時代が来たら、やはり何かを作る事になるのだろうか? 次の石運びの時にでも、皆で考えるのもおもしろそうだ。


 3日目の昼に、真珠貝の獲れる海域に到着した。

 一晩ゆっくり休んで、次の日に真珠貝を獲る。ホラ貝を合図に一斉に海に潜り、網に貝を集めた。

 途中休憩を挟んで10回ほど潜り、昼過ぎには素潜りを止める。水深15mを超える素潜り漁は長く続けるものではない。

 集めた真珠貝は40個を超えているが、果たしてどれぐらい真珠が獲れるかだな。


 すでに船団は北に向かって航行している。

 曳釣りをしながらだから、3日目には氏族の待つ島に到着するだろう。

 真珠貝を開いた結果は、俺が11個でエラルドさんが12個だった。潜った回数が1回エラルドさんの方が多かったようだ。

 

「カイト達の判断は正しいと思う。この海域は少し深すぎる。あまり長期間漁をするのは考えものだ」

 そう言って、俺に6個の真珠を差し出した。俺の動力船に便乗しているからなのか?

「ありがたく頂きます。曳釣りの成果は均等割りになりますよ」

「船を常時走らせるからな。長老の提案した配分は誰もが納得できる」

 

 次の日は、一日中雨の中だ。

 操船を担当する嫁さん連中は大変だろう。これも次の船では考えないといけないな。

 エラルドさんの前の船は小屋の中で操船できるようになっていたのは、ビーチェさんの事を思っての事に違いない。

 雨の中でも、そこそこ釣果はある。氏族の島に戻った時には30匹近いシーブルを手に入れた。

 サリーネ達が獲物を世話役に報告して報酬を貰う。真珠も3個渡したそうだ。

 曳釣りの報酬は頭割だから今回は54Dと少ないが、真珠14個は売値で銀貨14枚は確実だから、また一歩カタマランに近付いたな。

 サリーネが聞いてきた新造船の見積もりは金貨12枚前後と言うから、13枚はためる必要があるだろう。

 次のリードル漁も大型を狙う必要がありそうだ。銛先がもう1本あるから、2本で突いてみようかな。


 豪雨の中漁に出る船もあるが、俺達はのんびり過ごす。

 明後日には石運びの当番が始まるから、それほど遠くまで出掛けられないし、操船を雨ざらしで行うのは申し訳ない限りだ。

 小屋の中で、お茶を飲みながら皆で新しい船の形や装備品を考える。


「2か所で操船する?」

「小屋の中だと、前が良く見えないのが問題なんだよな……」

「櫓の上の操船で十分だと思うにゃ。屋根もあるし、前にはガラス窓が付くにゃ」


 操船用の櫓の横梁を利用して、可倒式の窓を付ければ豪雨の中でも濡れずに済む。屋根は梁に帆布を乗せて左右と後方に垂らす簡易なものだが、濡れる事は少ないだろう。

 舵輪をシャフトとギヤで接続することになるから、途中に雨天用の舵輪を付けることも出来るのだが、サリーネ達は必要ないと言っている。

 とは言え、シャフトが破損したときに困るから、初段のギヤに棒を突っ込むことで簡易的に舵が取れるようにしておこう。

 獲物を入れる保冷庫は2m×1.2mの大きなものだ。深さも60cmを超えている。曳釣りでの大物を入れるにはこれ位は必要なのかな。野菜や果物用に小型の保冷庫もあるぞ。イケスは今の船と同じで1m程の小さなものだ。エビや貝類を入れるのだろうが、まだエビ以外は獲った事が無いな。


「ザバンは船首に横置きするにゃ!」

 将来的には、ザバンは1艘じゃ足りないって事で、船首に横置きすることにした。後ろがすっきりするからこれで良いのかも知れないな。

 操船櫓の下部には漁具を入れる戸棚を置いて、仕掛けを仕舞っておく。リール竿も櫓の端に長尺の収納庫を作れば良いだろう。銛は屋根裏になるな。小屋の入り口の右側にはカマドが2つ。小屋の屋根はここまで伸ばす。甲板は露天だが、ターフを張れれば問題ない。

 

「甲板に手すりが欲しいにゃ。子供が乗って落ちたら大変にゃ」

 そんな要望に、たかさ60cm程の手すりを設ける。網で補強しておけば更に安全だろう。

 それでも甲板の後部には2m程の切り欠き部を作っておく。普段は板で塞ぎ、大物は板を外して取り込める。

 左右の船の後部には1.5m程のハシゴを付けて必要時には海中に下ろせるようにする。これで、素潜り漁にも対応できるだろう。


「こんな物かな?」

「変わってるにゃ。でも小屋も甲板も大きいから住みやすいにゃ」

 真似する者はいないと思うな。でも、前にエラルドさんが乗っていた船よりも、大きいことは確かだ。魔道機関を2つ使うなんて言ったら、皆が驚くだろうな。


「操船楼の左端の柱に滑車を付けておけば、大物だって引き上げられるよ。ザバンの引き上げにも滑車を使うから便利になるはずだ」

「金貨は、6枚あるにゃ。ようやく半分にゃ」

 

 少なくともリードル漁を2回はやらないとダメだろうな。それでも少しずつ具体化してきたから、たまに、皆で考えるのも良いかもしれない。また、違った考えが出て来るかも知れないしね。


・・・ ◇ ・・・


 これで、何度目になるか分からなくなってきたが、石運びはまだまだ続くみたいだ。

 午前に3回、午後に4回南の島から石を運んで浜に積み上げる。桟橋作りは壮年の漁師達が担当しているみたいだ。段々畑の方はおばさん達が一輪車で土を運び、2段の畑を作っている。擁壁にも石積が始まったから、いくら運んでも石が足りないみたいだ。今回は2隻の動力船が石を次々と運んでいる。


 おばさん達に頼んで作って貰った軍手は少し糸が細いけど、役に立つことは確かだ。今では、石運びを行う者達が全員使っている。

 漁でも手釣りを行う者は、指を切らないように使っているらしい。そんな人達に、革で糸が当たる部分を補強する事を教えてあげた。

 石運びは雨が降ると中止になる。その間、作業期間が延びるのだが、まあ、これは仕方あるまい。

 

「明日で、当番が終わるが、今度は何をするんだ?」

「ブラドを突きに南の崖に行こうと思ってます。ロデニルも取れるでしょうし」

 そんな俺の話にラディオスさんがにこりと笑う。


「そうだな。素潜り漁なら雨季でも問題なさそうだ。ベルーシを誘ってみるか」

「一緒に行ってくれるんですか?」

「ああ、一緒だ。ラスティはグラストさん達と北に行くらしい」


 今度は10隻と言うことは無いだろう。エラルドさんはバルテスさんとゴリアスさんを連れて近場で漁をすると言ってたな。

 近場でもそれなりの漁が出来るし、たまにシメノンと言うコウイカが回って来るから、暮らしに困ることは無いだろう。

 もうすぐ子供が生まれるから、エラルドさんとしても2人に稼がせたいところだろうな。


「何人かに声を掛けてみるぞ!」

「今度はラディオスさんが指揮を執ってください。ブラカを吹いてみるのも良いと思いますよ。前回は俺が吹きましたけど、やはり緊張しました。いずれは使うんですから、早めにやっとく方が自信が付きます」

「やはり、カイトでもそうなのか? そうだな。やらせてもらうか。俺の方で世話役に手続きをしとくからな」


 これで、ちょっと安心できる。やはり、指揮は年長者に取って貰わないとね。

 出発の合図は、終わるまで緊張してたからな。ちゃんと吹けてホッとした自分を覚えている。

 通過儀礼だとは言え、氏族全員が聞いているってのが一番の緊張原因なんだろう。

 ラディオスさんはその辺りをどう感じるかが楽しみだ。あんまり下手だと、ビーチェさんからお小言を言われそうだぞ。


 その夜。次の漁の話をサリーネ達に話すことになった。

 サリーネ達も終日操船をすることが無いのでほっとした表情をしている。

「ロデニルなら私達も出来るにゃ。網に追い込むなら簡単にゃ」

「最初に覚える漁がロデニルにゃ。大丈夫にゃ」

 そんな事を言ってるという事は、3人でロデニルを狙うって事なのか? となるとおれは単独でブラドを狙う事になりそうだ。

 船にジッとしてるのも飽きるって事なんだろうか? たまには全員で漁をしてもおもしろそうだ。あの漁場なら砂泥にアンカーを打てば動力船が流されることも無いだろう。



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