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M-049 作業の分担


 工事の初日は、朝から賑やかな物音で起こされてしまった。

 オルバスさんのカタマランの両舷に、俺とネイザンさんのカタマランが結ばれる。そうすることで都合6個のカマドを使って朝食を作るのだが、俺のカタマランにリジィさんとナリッサさんがやってきて、おかず作りを始めている。トリティさんもマリンダちゃんと頑張っているようだし、ティーアさんはネイザンさんの友人の嫁さん達とご飯を担当しているようだ。

 さらに、もう1隻のカタマランが船首をオルバスさんのカタマランの船尾に近づいてきた。今度は何を担当する船なんだろう?


「起こされたようだな。邪魔にならんようにこっちに来い!」

 オルバスさんの声に、どこにいるのかと探したら、家形の屋根に座っていた。ネイザンさんも一緒だな。

 片手を振って挨拶したところで、オルバスさんの船に向かい、ハシゴを上って屋根に上がる。

 お茶のカップと竹の水筒を持って上がったみたいだな。タバコ盆まで持ち込んでいる。


「ここが一番平和だぞ。甲板にいると邪魔者扱いだからな」

 ネイザンさんの言葉に、オルバスさんも頷いている。トリティさんに追いやられたというのが本当のところじゃないかな。

 それに、1時間ほどここにいれば朝食にありつけそうだ。

 パイプに火を点けて、時間を過ごす。


「最初にやるのは入り口を決めることだ。幸い水路の奥行きは4MM(メム:1.2km)ほどだ。カタマランを水路の中ですれ違いをさせねばそれほどの横幅は必要あるまい」

「ですが、南の海の漁果を氏族の島に運ぶには燻製にしなければなりません。燻製小屋を持つ船はかつての大型外輪船3隻分ほどにはなりますよ」

 

 俺の言葉に、2人が唖然とした表情を見せた。それほど大きくなるとは思ってもみなかったようだな。


「確か横幅が1.5FM(フェム:4.5m)ほどだったはずだ。そうなると……、7FM(21m)ほどの横幅の水路を作ることになるぞ!」


 声を荒げてネイザンさんが叫んだから、甲板のティーアさんがこちらを見上げている。

 ネイザンさんが慌てて「こっちの事だ!」と言い訳しているから、オルバスさんが苦笑いを浮かべていた。


「それでも左右に1FM(3m)ほどの余裕しかないことになる。ゆっくりと通ることになるだろうが、それぐらいならトウハ氏族の女性達なら容易だろう」

「入り口と出口、それに途中にもいくつか水路の目印が必要でしょう。出入り口はサンゴを積んで、途中は竹竿を立てても十分ではないでしょうか?」


 途中の目印なら、潮流や波によって流されても、新しく立てればいい。100mほどの間隔で立てておけば十分に使えるはずだ。


「それでたっぷりと竹竿を運んできたのか? 工事の目印にもなりそうだな」

「入り口を決めるのにも使えますし、工事を行うにも目印が必要ですよ」


 工事の段取りを話し始めたら、下からマリンダちゃんが食事の準備ができたと教えてくれた。

 先ずは、周囲のカタマランに乗った連中に、食事を配ることから始めなければなるまい。トリティさんとリジィさんが大きなお玉を使って、鍋にスープを取り分けているのを見ながら俺達の順番を待つ。

 どうにか一段落したところで下に下りて食事を始めたんだが、まだ朝食なんだよな。早起きしたから、昼食のような感じがしてしまう。


 食事が終わると、ナツミさん達が俺達にココナッツのカップでワインを配り始めた。カップに三分の一も入ってないけど、どうやら工事前の儀式って感じだな。

オルバスさんの龍神への感謝とサンゴを傷つけてしまう詫びの言葉が終わると、両手で持ったカップの片方のワインを海に注いだ。それを合図に俺達はカップのワインを飲む。


 簡単な儀式が終わったところで、いよいよ工事が始まる。

 先ずは、現状の水路の横幅を確認する。

 ザバンを水路の両側に置いて、その距離を1FM(3m)ごとに目印を付けたロープで測ると、5FM(15m)に少し足りないくらいだった。

 浅い方を基準にして、東西に7FM(21m)の距離をロープで測り、目印の竹竿を両側に立てる。コンパスで東西を確認したからこれでだいじょうぶだろう。

 次に両方の竹竿から南に竹竿を立てた。これもコンパスを使って正確さを出す。立てた竹竿は30mほど先だ。2本の竹竿を目安にしてさらに南に竹竿を立てる。


 そんな作業が夕方まで続いてしまったけど持ってきた竹竿を全て使って、水路の半分ほどまで南に工事範囲が分かるまでになった。


「明日はいよいよ力仕事になるぞ。ネイザンの仲間を半分にして、俺とネイザンで作業を分ける。俺は、入り口の目印を作るから、ネイザン達は水路の邪魔になるサンゴの移動だ。余り傷つけないようにしたいところだな」


 夕食後に、ココナッツジュースで割った蒸留酒を皆で飲みながら、明日の段取りを話し合う。

 10人の男達が甲板に集まっての相談だ。トリティさん達は酒を用意すると、さっさと俺のカタマランに行ってしまった。女性達で楽しくおしゃべりしてるみたいだな。


「アオイは俺の方に加えますよ。移動もそうだが、真っ直ぐにそれを行うというのも難しそうだ」

 俺はどちらでも良いから問題はない。ネイザンさんに頷くことで了承を伝える。

 

「干潮の差も気になりますね。近場の島の岩を見ると、1YM(ヤム:30cm)ほどの差があります」

 ネイザンさんの友人の1人が水路の深さの目安を気にしているようだ。


「外輪船の喫水は5YM(1.5m)ほどだ。となると、8YM(2.4m)は欲しいところだな」

「石に紐を付けて8YMに目印を付けますか? 何隻かのザバンで工事が終わった個所を確認すればいいんじゃないですか」

「嫁さん達に頼んでみるか。それは俺がトリティに頼んでおく」


 後は作業班の割り振りだな。これはある程度ネイザンさんも考えていたらしく、直ぐに友人達を2つのグループに区分した。

                 ・

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                 ・

 翌日は、朝早くにザバンを下ろしてアウトリガーを付けておいた。今日は一日海の中だろうから、サーフパンツでいいだろう。マリンシューズとマスクは工事を始める前に着ければいい。

 朝食を食べていると、ネイザンさんがやって来た。すでに朝食を終えていたようだ。

 

「細い竹を切って来たぞ。3本あれば十分だろう。8YM(2.4m)に印を付けたから、これ深さを合わせられる」

「海底に沈める方には、石を縛りつけとかないと沈みませんよ」

「それぐらい分かってるさ。手頃の石を両側から挟み込むように縛りつけた」


 そういえば、棒も何本か用意しといたんだよな。それとロープをザバンに積んでおくか。

 お茶を飲んでいると、笛の音が聞こえてきた。いよいよ工事の開始になる。


 ザバンにはナツミさんが乗っているから、ナツミさんの下ろす水深計で、邪魔になるサンゴに目印の白い布切れを結ぶのが今日の仕事だ。

 水深計といっても、紐の先に小石を結んで8YM(2.4m)に印を付けただけのものだけど、結構役に立つ。

 用意した30枚ほどの布切れは、昼前に結び終えてしまった。

 

 上に俺が寝られるぐらいに広がるテーブルサンゴを、どうやって移動するかが問題だな。

 ザバンで簡単に移動できると思ったけど、ザバン1艘では沈んでしまいそうだ。

 俺と同じような不安をネイザンさんも持ったんだろう。いつしかナツミさんの乗るザバンに他のザバンが集まって来た。


「小さな奴は何とでもなるが、大きいものを動かすにはザバンでは足りんぞ」

「ですね。ザバンを2艘丸太で繋いで、そこに吊るしますか」


 2艘でダメなら3艘を使えばいい。幸いなことに、俺達が作ったザバン以外は規格品だ。ザバンの横木を使えば簡単に2艘のザバンを丸太で繋げるはずだ。


「なら、俺達で丸太を切ってくる。昼食が済んだら、ザバンのカタマランを作るぞ」

ネイザンさんが仲間達に呼び掛けると、皆がザバンを何隻かのカタマランに向かって漕いで行く。

 早速、近くの島に切り出しに向かったみたいだ。


「このザバンにも吊るすんでしょう?」

「動滑車を使うつもりなんだ。サンゴを縛って動滑車で持ち上げれば、小さなものは何とかなるよ」


 ザバンを俺達のカタマランに戻して、2mほどの太い竹竿をザバンの両舷に飛び出すようにして縛りつける。

 その竹竿にロープを結んで動滑車とフックを取り付ければ、片方の竹竿のロープを引くことで、それほど大きくないサンゴなら俺達だけでも動かせそうだ。

 作業を終えて、一息入れていると笛の音が大きく聞こえた。笛の音の源をたどると、オルバスさんのカタマランの家形の屋根に、マリンダちゃんが乗っている。

 隣だからか。あんなに大きな笛の音になるとは思わなかったな。


 昼食を終えると、いよいよサンゴの移動だ。

 ネイザンさん達が2艘のザバンを繋いでサンゴを運んでいる。俺達もその合間を縫って少し小振りのサンゴを運ぶ。

 サンゴは根のようにな形で岩にしっかりととりついている。それを木や鉄の棒で無理やりに動かすと、ゴキ! と音を出して横に転がる。

 後は、ロープで括って2艘を繋いだ太い丸太に縛るだけだ。


 とりあえずは、200mほど離れた小島の砂浜近くに沈めておいた。

 干潮でも海面まで1m近くありそうだから、上手く行けばサンゴを死なせずに済むんだけどね。

 だけど、サンゴは環境変化に弱いとも聞いたことがある。新たなサンゴ礁を作ってくれるかは、何年か経たないと分からないだろうな。

 1時間ほどで移動できたサンゴは6個だった。夕暮れまで3時間ほどあるから、15個近くは移動できるだろう。

 海中に潜ると、俺達の仕事の後が小さすぎて目立たない。結構長い目で、工事をしなくちゃならないだろうな。



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