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M-026 2人での成果


 夕暮れ前まで、カマルを釣ることになったが、釣れたのは12匹、それもナツミさんとでだから、夜釣りは頑張らないといけないな。30cmを越えないカマルで餌の短冊を作って夜釣りに備えることにした。


 夕暮れになったところで、オルバスさんのカタマランに船を近づけて夕食を共にする。

 やはり大勢で食べる夕食は美味しいし、リジィさんの作ったスープは米粉の団子が入っていた。トリティさんの少し辛い味付けの炊き込みご飯によく合う感じだ。


「ほう、久しぶりにケオのスープを口にするぞ。さすがはアオイだな」

「これが、ケオなのか? どれぐらいの大きさの奴なんだ?」

 

 これぐらいと両手を広げてグリナスさんに教えると、目を丸くして驚いている。

 オルバスさんが、その大きさに頷いているから、あれが標準的な大きさなのかもしれないな。


「ケオなら中型になるな。3YM前後まで大きくなるぞ。アオイが突いた大きさなら半身でも10D前後で取引できるだろう。ケオに似た魚でガルナックというのがいる。とてつもなく大きくなるぞ。カイト様は8YMの大きさのガルナックを突いたそうだ。これは長老も目撃しているし、商船にも取引の記録が残されていると聞いたことがある」


 8YMと言ったら、2.4mってことだよな。まさしくクエそのものじゃないか!

 よくも海人さんは突いたものだ。それができたからトウハ氏族に慕われたのかもしれない。俺にもできるだろうか?


「それで、ラビナスはどうだったんだい?」

「ブラドを3匹突きました。このぐらいの奴でしたけど……」


 両手で広げた大きさは30cm程度ということなんだろう。だけど、ちゃんと突けたなら問題はない。明日はもう少し数を増やせるんじゃないかな?

「頑張れよ!」と言ったら、元気に頷いてくれた。


「今夜はアオイに貰った竿をつかってみるにゃ。たくさん釣れるといいにゃ」

 マリンダちゃんは自分専用の竿があるのが嬉しいみたいだ。

 カリンさんも、頷いているところを見ると、グリナスさんが作ってあげたんだろうな。


 食事が終わったところで船に戻り、甲板の灯りをナツミさんが魔法で灯す。

 提灯にも見えるけど、明るさは白熱電灯並みだ。

 2つ作ったけど、グリナスさんのところは1個だけだ。魔法の回数に限りがあるのが原因なんだろう。

 

 俺とナツミさんが竿をを取り出して、仕掛けを浮き釣りから胴付き仕掛けに変えた。

 胴付き仕掛けの2本の枝針に餌を付けて海中に落とし込む。

 棚を切って、竿尻の細い紐を近くにある横木に巻いておけば竿がなくなることもない。

 後は待つだけになるな。


「釣り上げたら、これでポカリでいいんだよね?」

「ヒレが尖ってるからその方が安全かも。トリティさんやマリンダちゃんがいつもやってるけど、生活の知恵ってことだろうね」


 最初に見た時は驚いたけど、確かに一撃で気絶させた方が良いのかもしれない。今の内に、氷を作って保冷庫に入れておこう。


 のんびりと待っていると、たまに竿が踊りだす。

 釣り上げた魚は、バヌトスばかりだ。3時間ほどで釣りを終えると、ナツミさんが1人で捌くみたいだ。

 失敗しても明日の朝食のおかずにはなるんだから、頑張ってもらいたい。

 その間に竿を片付けて、家形の屋根裏から平たいザルを取り出す。保冷庫から開いた魚をザルに並べる。


「1日で2枚にちょっと足らない感じね。これを一晩干すんだよね」

「屋根に並べるんだ。先に上がって受け取ってくれないかな」


 2人で協力しながらトリティさん達がしていたように、屋根の斜面にザルを並べる。ザルの端に着いた紐を、屋根の通り道の横にいくつか付いている突起に結べば、少しぐらい船が揺れても落ちることはない。

 カタマラン構造の船だし、この海域の波はうねりさえ感じられないぐらい穏やかな海だ。ちょっと過剰かと思ったこともあるけど、これで自分達の生活が成り立っているからなんだろうな。


 翌日は、家形の入り口をトントンと叩く音で目が覚めた。急いで体を起こしたら、ハンモックのバランスが崩れて床に落ちてしまった。

 誰だろう? と外に出てみるとリジィさんが立っていた。


「早くザルを下ろすにゃ!」

 慌てて屋根に上るとザルを下ろす。甲板でリジィさんが受け取ってくれたんだが、本当ならナツミさんの仕事になるのかな?


「お日様が海に浮かんでいる内に魚を仕舞うにゃ。保冷庫は2つに区切られてるから、こっちに入れるにゃ」

 保冷庫は中の間仕切りを外せば2.5mを超える。横幅は90cmもあるし深さも60cmはある大きなものだ。

 間仕切りで90cmと1.5mほどの長に分割しているのは、釣ったばかりの鮮魚と一夜干しを分けるためだろう。

 大きなカゴが中に入っているから、そのカゴに一夜干しを入れる。

 終わったところで一服しようとしてたら、今度は鮮魚を入れる保冷庫の水抜きを仰せつかった。


 子供の頃に爺様が作ってくれた水鉄砲を思い出す。というより水鉄砲そのものじゃないか? 竹を利用した簡単な水鉄砲を、保冷庫の深くなった場所に入れて氷が融けて溜まった水を汲み上げる。

 小さな氷がまだ残っているけど、新たに2個作って入れておいた。


「ご苦労様。朝も色々とあるみたいね」

 いつの間に起きたんだろう? ナツミさんが熱いお茶を入れてくれた。

 ベンチに座って3人で朝日の昇るのを見る。今日も暑くなりそうだな。


 リジィさんが帰ってしばらくすると、マリンダちゃんが朝食にゃ! と俺達に教えてくれた。

 今日も頑張らねばなるまい……。

                 ・

                 ・

                 ・

 3日間の漁を終えて氏族の島に帰還した。生憎と商船が来ていなかったから、トウハ氏族の中で世話役と呼ばれる人達に獲れた魚を持って行くことになる。

 商船の買値で引き取ってくれるからありがたいところだ。引き取った魚は保存が効くように燻製にするのだが、燻製することで少し売値が上がるらしい。それは氏族に還元されて、老人達の生活費になるとのことだ。

 ある意味、福祉が充実した村社会ともいえるんだろう。


「今回の収入は132Dになるわ。1割を納めてきたから残りが118D。三分の一は39.3Dだから40Dをトリティさんに渡しといたわよ」

「食費込みだからねぇ。残った金額はナツミさんが管理しといてよ」


 遊ぶ場所もないし、嗜好品だって酒とタバコがあるぐらいだ。

 ザルを干したり、銛の手入れをしているとカリンさんがナツミさんを誘いに来た。どうやら、ザバンで湾の入り口付近まで漕ぎだしておかずを釣ろうということらしい。

 氏族の掟では禁漁区になるのだがおかずは例外だ。

 たくさん連れたら皆に分ければいいとトリティさんも賛成したから、マリンダちゃんとナリッサさんも参戦することになったようだ。


 張り切って出掛けたけど、どうなるのかな?

 カタマランの後ろにあるベンチに腰を下ろして、グリナスさんと見守ることにした。


「どうにか100Dを越えたよ。これなら魔石を売らずに済みそうだ」

「今は乾季ですからね。次のリードル漁が終わってからが問題です」

 

 俺の呟きに、グリナスさんが頷いている。雨季の漁は乾季を超えることが難しいのは理解しているようだ。

 一夜干しができないから、出漁期間が短くなる。それは漁場との往復日数が増えることになるんだよな。実際に漁をする日数がそれだけ減ってしまうということだ。


「それもあるから、魔石3個と大銀貨1枚は使わずにいたんだ。カタマランの修理にだって費用が掛かるからね。アオイも次のリードル漁で得た魔石は全て使わずに、何個か手元に置いとくんだぞ」

 

 カタマランの修理ということまでは考えなかった。グリナスさんの忠告にありがたく頭を下げる。


「それでラビナスの成果はどうだったんだ?」

「将来性はあるぞ。3日間でブラドを10匹だ。カマルもだいぶ釣り上げていたぞ」


 いつの間にいたんだろう。オルバスさんの声に思わず顔を上げたら、俺達にココナッツのカップを渡してくれた。これってお酒だよな。思わずグリナスさんと顔を見合わせてしまった。


「帰って来たな! それでどうだったんだ?」

 桟橋から現れた人物はバレットさんだった。カリンさんの様子を知りたかったのかな?

 オルバスさんと一緒に酒を飲みだしたんだが、俺達を手招きしてる。

 明日は二日酔い確実だと、小声でグリナスさんと話をして2人の隣の腰を下ろした。


「今は乾季だからなぁ。アオイの言う通りだ。まあ、昔と違って雨期の漁も色々とある。何も思いつかないなら、南にあるサンゴの崖の先で延縄でもやるんだな。とはいえ、崖の東か西でやるんだぞ。あの辺りはロデナス漁をやる連中の海域だからな。素潜りなら構わねぇが、同じ漁法は遠慮することだ」


 優先権ということなんだろうか? バレットさんの話を聞くと東西に長く砂地が続いているらしい。海域の幅も広いから、数隻が並走して曳釣りをすることもあるそうだ。

 となると、曳釣りと延縄の仕掛けを早めに作っておいた方が良さそうだな。


「ラビナスも、3日でブラドを10匹も突ければ将来が楽しみだな。再来月にはリードル漁だ。銛は俺が作ってやるぞ!」

「それは俺が作ろうと考えてたんだが」

「なぁ~に、幼馴染の子供なら俺にもそれぐらいさせてくれ」


 バレットさんの言葉にリジィさんが頭を下げてる。なんとなく昔のオルバスさん達の暮らしが目に見える気がするな。数人の男女でワイワイ湾内で騒いでいたに違いない。生憎と結婚するまでに至ったのはその中の何人かだったが、困ったことがあれば今までも色々と面倒をみていたんじゃないのかな?


「大漁だったにゃ!」

 ナツミさん達がザバンをカタマランに寄せて、獲物を入れたカゴを2つも甲板に持ち上げてきた。

 湾の入り口近くだから、カマルの型も中々だ。

 ナツミさんの教育が直ぐに始まったけど、たぶんそれも目的の1つだったに違いない。

 

 包丁を振り上げてカマルの頭を両断しているナツミさんに、バレットさんが目を丸くしている。

 それでも、去年とは異なりトリティさんの注意も少なくなってきたな。


「近所に配るにゃ! バレットも帰りに持って行くにゃ」

「そりゃあ、ありがたい。この型が近くで取れるとなれば、南の島当たりで延縄をする奴も出てくるだろうな。そろそろ延縄の場所を確認する必要もありそうだ」

「今夜の氏族会議で図ってみるか? スクリューに絡んでも問題だからな」


 漁場を限定するということなんだろう。100隻近いカタマランがあるんだから、あらかじめ取り決めておくのも賛成できる。

 そんな調整も氏族会議で行われるとなれば、長老達も忙しそうだな。


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