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氷葬の末裔は聖女の血を宿す〜神に見放され無能と蔑まれた少年は、覚醒した聖女の魔力と、不遇と呼ばれた氷属性で世界を赦す〜  作者: Astlia


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第3話 孤独と決意

 天啓の儀から数日が過ぎ、村の空気はどこか冷たく、重く沈んでいた。

 

 クレアは朝から晩まで剣の修練に明け暮れ、王都や騎士団から届く書簡に忙殺されていた。

 

 その姿を遠くから見つめるセノの前に、かつての幼なじみとの笑い声はもう届かない。


 村人たちは、氷属性のギフトを持つセノを嘲ることをやめなかった。


「氷か……器用貧乏もいいところだな」

「魔力もろくにないのに、何ができる?」

 

 視線の刺すような冷たさに、セノは心の中でそっと息を吐く。

 

 けれど、彼は顔に表すことはなかった。ただ静かに、雪解けの水面に映る自分の姿を見つめる。


「……これが、俺の現実か」

 

 掌の上で、小さな氷の花を作る。ほんの数秒、形を留めただけで、すぐに水滴となって落ちる。

 

 それでも、誰も褒めない氷の花を、セノは一人で愛でるしかなかった。


 丘の上での孤独な時間は、セノに小さな気づきをもたらす。


「俺は……守られる側かもしれない。でも、誰かを守りたいという気持ちは消えない」

 

 冷たい風に頬を打たれながら、セノは拳を握る。

 

 それは弱さからくる諦めの握りではなく、未来に向けた静かな決意だった。


 村の広場を歩けば、子どもたちの笑い声が遠くに聞こえる。

 

 だがその声に呼応するのは、もうクレアの姿ではない。彼女は日増しに強く、そして遠くへ行ってしまった。

 

「……もう、あの頃には戻れないんだな」

 

 セノは目を細め、曇天の空を見上げる。


 そんなある日、試しに氷魔法を使ってみた。掌から小さな冷気を放ち、木の葉を凍らせる。

 花弁の端が青く輝き、かすかに音を立てて割れた。

 

「……使える。少しだけ、でも」


 胸の奥で、わずかな手応えが芽生える。

 だが、それはまだ戦闘に使えるレベルではない。ほんの小さな光。


 夜になると、セノは丘の上で月を見上げた。

 

 冷たい風が髪を揺らし、氷の欠片が指先で瞬く。


「どうすれば、この力を役立てられるんだろう」

 

 孤独の中で問いかける。答えはまだ遠い。

 けれど、その問いを投げかけること自体が、彼の成長の第一歩だった。


 丘のふもとで、村の老人が声をかける。

 

「セノ、氷の力だけでも、使い方次第で役に立つ日が来る」

 

 老人は戦士としての経験も長いが、魔法については素人だった。

 それでも、静かな眼差しには希望が宿っていた。

 

「いつか、誰かを守れるようになる……その時を、待つしかない」

 

 セノは微かに頷いた。


 日が沈むころ、村は静まり返る。雪が舞い、冷たい夜が訪れた。

 セノは一人、屋敷の窓から遠くを見つめる。かつてクレアと駆け回った丘、川、そして村全体。

 その景色はまだ変わらず、しかし彼の心には新しい意志が芽生えていた。


「いつか、俺も……この力で誰かを」

 

 拳を握る。氷の小さな欠片が掌で光った。

 

「……たった一人でもいい。誰かを守れる力を」

 

 それは静かで、しかし確かな誓いだった。

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