第五話
一言で言い表すとジャングルだった。獣人族の領地は。そして、急に現れる海。森と海の境界線が近い。しかも地形的に海人族が陸に上がれるか知らんが、最初に獣人族の領地を通らねば、他のところへ行くことが出来ない。
「というわけで、昔から何か影でコソコソやっていたみたいだぞ」
とトモタンが言う。
とはいえ、建物らしきものも見えない。
「ああ、住居を探しているなら無駄だよ。奴らは隠れて巣を作るからね」
ああ、野生の本能丸出しすぎる。なんだろう。前途多難な気がしてきた。
「これはどこが街ですか?」
というと、忍びの一人が堪える。
「一応、地下に大きな闘技場があるので、そこが会議場所になります。因みに、ヴィル様のために解説いたしますが、海人族は陸に上がれます。が、本来のポテンシャルを発揮することが出来ないので、基本的には海の中で生活しています」
なるほど。
「ヴィル様、勉強はしないとだめですよ?」
リリアとティアはそう言い、俺を含めた残りが全員眼をそらす。
「全くもう」
とため息をつくリリア。
「何、そのために生き字引のリリアが居るんじゃないか」
「……そう言われると私は悲しいです。この世界の情勢や常識を知るためだけに私を利用していただなんて」
と涙を流しながら訴える。
「い、いや、ちょっと。泣かないで。俺、そんなつもりで言ったわけじゃないから!」
顔を伏せて泣いていたかと思っていたら、口元がゆがんでいる。
「リリア、そういうのは良くないと思うのだけど?」
「あら?最初に勉強からお逃げになったのはヴィル様の方では?」
そういえばそうだった。
「わかった。勉強するように一考しておこう」
「いいえ、すると約束してください」
「神様が許すなら良いよ」
(ん~、神族の問題を早く片付けてほしいし、ん~、悩む)
とちゃっかり割り込んでくる神様。
(それでは私が常識や情勢を教えながら一緒に戦うというのはどうでしょうか?)
(採用!それいいね!じゃあ、そういうことで!戦うのも勉強するのもサボっちゃだめだよ!)
というと、毎度のことながらぷつりと切れる感覚があった。
「本当に勝手なことを言って、去っていくんだから」
「まぁ、神様の許可もいただきましたし、ちゃんと戦いながら勉強していただきます!」
「わかったよ」
「この際です。キリエ、ティーファ、フィリアも勉強をしてください!そして、ティアさん、あなたは私の側、勉強を教える側に来てください」
「わかりましたわ」
「私は勉強はからっきしだ!この際だから勉強仕様ではないか!」
「俺は面倒だな。パス」
「許しません」
「ヒィッ」
ティアの絶対零度の気配と視線。一瞬俺までビクついてしまった。
「しょうがない。勉強、する」
すると先ほどとは違い、ニッコリと笑みを浮かべて。
「フィリアはお利口さんですね~」
と言う。
「とにかく、勉強の話は一旦置いといて、本題に戻ろう。とりあえず、案内してくれ。その闘技場、会場になっているところへ」
「ハッ、委細承知」
そう言うと、他の忍びの方々は何処へと消えゆく。そして、残った一人が俺たちに合わせてゆっくり歩いてくれている。とはいえ、全力を出せば全員振り切ることは可能だと思うが。
闘技場についた。すり鉢状になっている観客席。そこから数段低くなっているところが闘技スペースなのだろう。左右に出入り口がある。その中央にどこから運んだのかテーブルと椅子が設置されてあった。
「因みに、これは魔術で作ったのだよ!」
とトモタン。俺は思わず(その格好で?)と言いそうになってしまった(心のなかでは完全に言ってた)。
「そういう設置役や、場を整えるのは毎回エルフの仕事だ。たまに闘技場がひどく荒れていることがあるが、そのときはドワーフたちが治していきおる。今回のテーブルはかなり凝った作りだからドワーフが関わったのかもしれぬな」
しばらくすると、ドワーフや俺らが会いに行った部族の長たちが集まってくる。そして、最後に獣と怪人が現れた。
「えー、それでは、臨時会議を始めるといたしましょうか」
「おい、待て。その前にそのハーフエルフ共をどうにかしろ。食い殺して構わないのか?人種に近い獣のハーフエルフ女もいるぞ?」
と言ったのは獣の方だ。見た目は形容し難い。四本脚で、キメラというのがイメージとしては近いかもしれない。なんか色々なのが混ざっている。見ているだけでSAN値が削られそう。怪人の方は某レトロなシムレに出てくるアレにそっくりだ。アレ、めちゃくちゃ強くて苦戦したのを思い出す。因みに、アレというのは正式な名称だ。こちらの方はもっとSAN値が削られる。
「その説明をしていただかないことには話は始まらないな」
俺は黙らせる意味でもちょうどいいと思い、立ち上がり言う。
「相手してやろうか?」
というと同時にその獣の首を掴み、闘技場の壁に叩きつける。もちろん手加減のスキルはパッシブだ。
「で、お前はどれだけ強くて、どうやって俺を殺すと?」
「き、貴様!」
激高したであろう獣はそのまま頭をこちらに向けて炎を吐いてきた。全然効かないし、なんともない。
「これで貴様も……まる……焦げ……に……」
「で、終わりか?次は俺が攻撃して良いのか?次は本気だすぞ?」
「クッ、わかった。離せ。貴様らがここにいることは咎めない」
「頭が高いな。お願いします離してくださいだろ?」
「貴様!調子に乗るなよ!」
と言って何かしようとした瞬間、床に向け手加減スキルを使い、投げ飛ばす。
「グッ」
「しつけはちゃんとしないとな」
全員が唖然としている。多分だがその強さに対しても畏怖しているのだろう。
「獣人族さんも海人族さんも文句があるならとりあえずかかってこい。肉体言語はあまり好きじゃなかったけど、こっちに来てからステータス依存だから楽しくて仕方ないね」
「文句なんかないぴょん☆」
海人族、なんかめっちゃ腹が立つ。
「あんた、名前は?俺はヴィルヘルム・シュッツだ」
「例のアレだっちゃ。宜しくね☆」
と言ってウィンクする。だが、見た目がアレだ。嫌、ダジャレじゃないよ?本当に見た目が酷いんだって。性別わかんないくらいに。というか、こいつが陰謀?何かの間違いじゃないのか?
「困惑しているようだから教えておくが、あれが素の状態だ。相当ビビってるらしい。ヴィルヘルム殿に……我々もビビってるが」
とトモタンが教えてくれる。
「わかった。おい、例のアレとは一体何だ?名前?バカにしているのか?」
「いえいえいえいえ、バカになんかしてないっちゃ☆ 本名はあったはずなんだけど、忘れたっちゃ☆ もう長いこと例のアレと呼ばれ続けたために☆」
「「「「「「「「本名あったのかよ!」」」」」」」」
何人居たのかわからないけど、その場に居た殆どが(樹人族の長と思われる者は気絶している)斉唱した。
「てへぺろ☆ だっちゃ☆」
鳥肌が立った。こんな見た目のやつにてへぺろやられるとこれ以上に不愉快なことは無いな。
「まぁ、良いや。それで会議を初めて問題ないな?誰か起こしてやれ。そこに寝っ転がってる獣人族を」
取り巻きであろう、何かの獣人と何かの獣人が二人がかりで起こす。
「では、始めようか」
と、トモタン。
そして、会議は始まったものの、あっけなかった。獣人族は終始気絶していて、最終的には手形の押印を意識失った状態で俺が無理やりつかせたし。海人族が何かしてくると言っていたが、終始アレな状態だった。そして。
「いや~、獣人族が居ないとこうも簡単にまとまるとは……素晴らしいですなヴィルヘルム殿」
そう、俺らが思い描くように部族間がまとまり一つの国家として成立するという目的。各部族間でのやり取りを盛んに行い、それを今後人種や獣人族(人種側)と一緒にやっていこうという話で落ち着いた。そして、獣人種が2つあるのは厄介なので、ゲルギルグ王国の方を獣人種。こちらを獣人族と呼ぶことに決めた。
因みに、俺が例のアレと話をすると、ものの見事に言うとおりにしてくれた。ただ問題は獣種。部族の数名はこの会議に参加していたのだが、不満は見え透いている。いつの日か爆発し、それを海人族が何か変なことをしないかが心配だが、まぁ、現状を神様に聞いてからになるだろうな。これで問題なければ次の問題に移るし、問題があればそれを徹底的に潰すだけだし。
(だめだね。このままだと君の考えている通り、獣人族は爆発する。だから、それも込でなんとかしてほしいんだよね)
(取り合ってくれるか?)
(近々、獣人族の闘技大会、要するに長を決める戦いがある。言っておくけど、話し合いじゃなく、物理ね。それに参加してみたら?)
なるほど、それは良いことを聞いた。解散する前に言っておこう。
「おい、獣人族」
と声を掛けると、一瞬ビクッとしながらこちらを向いた。
「近々長を決めるための闘技大会があるみたいだな?俺にも参加させろ。何、別に断ってくれても構わないぞ。そのときには全部族から言われるだろうな。獣人族は腰抜けだと」
そう言うと、少しはプライドを傷つけられたのか。
「わ、わかった。許可しようじゃないか!後で登録しておく。ヴィルヘルム・シュッツだったな。その名前で登録しておくから覚悟しておけ!」
と捨て台詞を吐きながら去っていった。
(まぁ、こんなところですかね?)
(うん。それで良いんじゃない?)
(因みに、次って魔族?)
(もう先のことを考えているのかい?)
(悪いか?)
(言っておくけど、獣人種は力で解決できるが、そうは行かない部族はたくさんあるからね。それの平定も宜しく。最終的には首長を決めて、君たちがやろうとしている会議に出席させること。それを全部族が認めることが焦点だからね)
(わかった)
(因みに君の予想は当たり。次は魔族をなんとかしてもらう。だけどこれは長いよ。個々で活動している者たちも多いからね。それにたくさんの種族が居る。和平を結ぶところは和平を。敵対するものは殲滅を。まぁ、頑張ってね)
というとやはり念話が切れる感覚があった。
「本当に一方的だな」
「どうされました?」
「なんでもないよリリア。とりあえず、神様からの指令を受け取ったところだよ」
「それは私達も聞いて良いことなのですか?」
「構わないけど……念話でね」
(ちょとみんな集まってくれ)
(ん?ああ、念話か。どうした?)
(なんの御用でしょうか?)
(どうしたんだ?)
(何?)
(神様からの指令。とりあえず、獣人族の長を決める闘技大会があるからそれに参加する。そして、獣人族は掌握する。その後、全ての部族が今回参加したわけでも無いわけだし、全ての部族をまとめ上げ……長いから省略するけど、国際会議に向けて行動していって、ある程度国が動き始めて、やっと達成したとみなしてくれるらしいよ)
反応はまちまちだったが、とりあえず全員の意見の一致としては。
(((((長くなりそうですね(だな))))))
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