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声楽家のサモナーさんが異世界で謳歌します  作者: euch nicht
第三章 ゲルギルグ王国
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第二話

「最初にこの者を紹介しよう。見たこと無い方も居ると思うのでな。とはいえ、以前議題に上がった人物だ、覚えのあるものもおるだろう」


 そう言われて、俺は立ち上がって礼をした。


「皆様はじめまして。芸能ギルドのランクA+++のヴィルヘルム・シュッツです。すでに知己の方もいらっしゃいますが、はじめましてと便宜上言わせてください」


 すると、俺を知っている芸能ギルドのギルドマスターの爺さんと婆さんが何やら言い始めた。


「うむ、お主のことは知っておるぞ。いや~、またあの演奏を聞いてみたいものじゃ」


「おお、お主もそう思うか、儂もそう思うぞ」


 すると、一番遠い、楕円形の机の反対側の角に座っている、何やら威厳たっぷりのいかつい顔をした壮年の男が発言した。


「ヴィルヘルム殿、はじめまして、私は芸能ギルド統括マスターのゲオルグだ。よろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いいたします」


 すると、この街のギルドマスターが立ち上がった。


「基本的には私が開催しましたが、今回はヴィルヘルム殿が提案した事案を諮ることになったため、私ではなくいつものようにゲオルグ殿に司会をやっていただこうと思うがどうだろうか?」


 皆、口をそろえて異議なしと言う。


「うむ。それでは不肖ゲオルグが今回の司会を担当させていただく。それで、ヴィルヘルム殿、今回はどのような提案なのだろうか?」


「はい。私達は基本的に貴族の晩餐会や、立食パーティーの余興として呼ばれます。そこで思ったのです。それは問題ではないだろうかと」


「なぜ、それが問題なのかね?」


「はい。問題は我々が脇役であるということです」


「ん?そういうものではないかね?」


「これは器楽、声楽、絵画、彫刻、いろいろありますが、それらは全て脇役なのが問題です。主役になっても良いのではないかと私は思います」


 この発言をすると皆がざわめいた。ゲオルグさんが咳払いをし、再度質問してくる。


「とはいえ、絵画や彫刻は貴族の屋敷に飾るためのもので、それらを鑑賞するのは貴族だけだ。演奏も同じこと。楽器を使った演奏や、歌をうたうというのは、言い方は悪いが所詮貴族たちの贅沢な遊びに過ぎない。我々が主役となるという案が何かあるというのか?」


「はい。ございます。そのために今回この会議を開かせていただきました」


 会議場がざわめく。そんななか、爺さんと婆さんが二人でニヤニヤしながらつぶやく。


「やはりやりおったか。儂ゃ何かとてつもないことをしでかすのではないかと思っておったのじゃよ」


「おお、爺もか!儂もそう思っておったぞ」


 と二人してカッカッカと笑っている。再度ゲオルグが咳払いをして、場お納め質問する。


「で、具体的にはどうするつもりだ?」


「まず、音楽関係ですが、劇場を作りましょう」


「劇場?とは何だ?」


「今回は音楽だけに絞らせて提案させていただきます。劇場とは演劇をする専門の施設の用なものです」


「芸人などが道端でやっているやつか?」


「それの大掛かりなものとお思いください。ちゃんと文学を勉強した、スキル持ちの方に書いていただいた小説に音楽をつける。そして、それを劇場で劇をしながら歌う。歌劇とでもいいましょうか。それを貴族用の席と庶民用の席を分けて公演を行います。すると、庶民にとっても娯楽となり、お金を落としてくれるでしょう。庶民にはかなり安い金額で見られるようにするが、とても見づらい安い席にします。貴族も席にランクを設ければ、こぞって高いランクの席で見たいと思うようになり、次第に高い値段で席が売れます。そう、音楽と劇を一緒にし、それを見聞きすることを目的とした劇場。これを作ることを提案します」


 場は静まり返った。最近こればっかだな。


「いかがですか?」


「ふむ、書紀、今のは全て記録したか?」


「はい。もちろんです」


「そうか。ではヴィルヘルム殿、先程音楽関係はとおっしゃっていたが、他にも何か案があるのか?」


「はい、次は美術館です。そして、美術展です」


「それは、どのようなものなのだ?」


「はい。美術館は絵画や彫刻を展示して主に庶民が美術品を楽しむ場所です。基本的にはこれは庶民相手です。入場料の金額はかなり安く設定したいと思っています。ですが、美術展というのはその美術館で個人の個展を開くのです。個展というのは、ある一定以上有名になった方、要するにスキルレベルの高い方の作品を集め、展示する催しです。これは貴族用ですね。なので、こちらの個展は高額な入場料を取ればよいかと思います。そして、ある一定期間が過ぎたら、それをオークション形式で売ります。その時芸能ギルドで手数料として1,2割取れば大盛況となるでしょう。そして、これの本質は、スキルレベルです。これは歌劇の方にも言えますが、スキルレベルの低い者は庶民に、そして、庶民に見せるためにたくさんの作品を作り、あるいは演奏してレベルが上がる。すると、今度は貴族用の個展を開催することができるようになる。あるいは高級な劇場で演奏することができるようになる。すると更にその方の名声が高まることでしょう。これは美術関係だけですが、作品などをオークションでお金を儲けて、貴族のような生活ができるようになる。もちろん、先の歌劇の方も儲け方は考えています。まずは貴族の方々にパトロンになっていただきます。そして、そこから給料をランクに応じて支払います。その際、歌劇を行うなら、主役はたくさんもらい、脇役は少なくもらう。そうして、払える範囲で運営していきます。そして、これはたった今、喋りながら思いつきましたが、各国のトップの方々に貴族の位を買うことができるように打診いたしましょう。もちろん、貴族としての礼儀作法を高い受講料でレッスンを受け、試験をしてある一定レベルまで到達した者が一定の金額を支払うことで貴族の位を買うことができる制度を作ってしまうというのも良いかもしれません。学がないのでわかりませんが、礼儀作法などのスキルが存在するならそれを一定レベルまで上げることが条件などということも良いかもしれません」


 俺は一気にまくしたてた。書紀の人が慌ただしく俺の発言を書いている。


「どれも素晴らしい案だな。ちゃんとメモしたか?」


「少々お待ち下さい」


 書紀の方が一層慌ただしくなっていく。そして、しばらくの後、書き終わったようで、話が進む。


「と、ヴィルヘルム殿からの案だが……ここで一度解散してもう一度冷静に考えて答えを出そうじゃないか。何、急いだところで良いことはなにもない。何事も悪い部分は無いか探し、あったらそこを改善して良い案にすればいいと思う。骨組みに関しては我々の中で反対する者は挙手してくれ」


 誰も手を挙げない。


「であろうな。よし、それで話を進めてみようではないか」


「あっ、そうでした」


「ん?まだなにか案があるのか?」


「はい。案といいますか、劇場や美術館を作るに当たり、こちらの芸能ギルドの人間を派遣することを提案します。というのも建物そのものを美術品にするというものです。それを現在高レベルの方々に連名で着くていただき石碑などを建てて、後世までその威光を残す。というのはどうでしょうか」


「なるほど……生産ギルドに我々が手を加えると」


「更に付け加えるなら、音響効果を考えた構造にしないといけないですね……劇場は」


「音響効果とはなんだ?」


「はい。音楽を奏でた時、どこで聞いているかによって聞こえ方が違うと思います。それを建物の構造で補うことを音響といいます。要するに、歌う場所が円形なのか、四角い箱の中で聴くのか。それにより聴こえ方が全く違うはずです。それらも数学者を呼び、計算しながら作ることを提案します」


「数学者?なぜだ?」


「皆さん、音というのはなんだと思いますか?」


 その言葉を聞いて、誰もが答えようとするが、口から出てこない。


「そう、皆さんわかりませんよね。私はその正体を知っています。それは、振動です。声も同じです。空気が振動してそれが相手に伝わります。例えば人と人が会話しているときに、間に巨大な板を挟んだら相手の声が同じように聞こえますか?それは振動を板が邪魔するからです。では逆に板の配置を変えればどうなりますか?音という名の振動がどのように相手に伝わるか、それを計算すれば良いのです。音は波紋のように出ているので、それをどのように囲っていくか、それをどのように建物として成立させるか。緻密な計算が必要になるはずです」


「なるほど……不躾な発言だが、君は一体どこからこのような知識と知恵を持ってきているのだ?貴殿はA+++ランクだという。貴殿は神様なのでしょうか?」


 次第に敬語になっていく。


「まぁ、皆さんの口が堅いと信じてお話いたします。私はこの世界の出身ではありません」


「それはハーフエルフであることと関係があるのか?」


「いいえ、私は異なる世界からやってきました。理解できないですよね。私の居た世界では魔法や魔術は存在しません。そのかわり科学というのが発展していました。馬のない馬車や鉄で出来ている空を飛ぶための物。そのようなものが日常だったのです。行ってしまえば、環境も何もかも違う場所から来たのです。例えを出しますと、海の底を見たことがありますか?無いですよね?そこには何が住んでいますか?何が居ますか?わからないですよね?それは未知の世界と呼んでもいいでしょう。それと同じで、ここでは感知することが出来ない世界から私はやってきました。神様によって」


「おお!なんと、やはり神の御使いであったか!これはとんだ御無礼を」


 そう言うと全員が俺に対して頭を下げ始めた。


「ちょ、皆さん顔を上げてください。俺はただの人です。とはいえ、いろいろと神様にいじられてますが。ただし心は人間のつもりです。もともと人間でしたし。神様にハーフエルフにさせられたわけですし。だから私自身は何もすごいことはありません。ただ、他の世界の知識を持っているというだけです。以前皆さんにお渡しした音楽の基準になる本を差し上げたと思います。あれはその世界の音楽の基準です。それをこちらでも普及させたいと思っています。そして、歌劇ができるようになれば劇場が必要です。そのための知識を私は渡すことができます。私自身はわかりませんが、異世界の本は取り寄せることが可能です。ですので、それを使って最高の劇場を各芸能ギルドのある都市で作ってください。そうですね、一番出来の良いホールが出来たら私が歌いに行きましょう。生産スキルも持っているので、劇場をいちから作るのに参加するのもやぶさかではないですね。まぁ、もしそれをするなら各国の首都になるでしょうが。ですが、私も手伝いますので皆様もどうか、私を手伝っていただけないでしょうか」


 俺は頭を下げる。すると回りは慌てる。


(いや、神の御使いなんかじゃないよ?本当だよ?多分……いや、やってることは神様の代理だから神の御使いで良いのか?まぁいいや)


(じゃあ、称号欄無いから職業に神の御使いをプレゼントしよう!)


(は?いきなりなんですか?)


(公式チートってやつ?一応ステポ最高値に設定しておくから、育てておくように!それと面倒だからもう一枠職業つけられるようにして、御使い固定にしとくね~。後、君の嫁たち、今度どんどん職業が変わって強くなっていくだろうからよろしくね~!こうなると、忙しくなるぞ~、じゃあまたね!)


 神様は自由気ままだ。急に話しかけたと思ったら強制的に切りやがった。


「まぁ、というわけなので、そういう方向で進めてみてください。後で歌劇場の作り方の本があれば取り寄せて各ギルドに回すよう手配します。美術館は倒壊しないようにだけ気をつけて後は装飾を彫刻スキルを持っている人たちに削ってもらい、作ればいいでしょう。これからより良い芸能ギルドを目指していきましょう」


 俺はそう言うとゲオルグさんに目を向けた。


「わかりました。御使様。皆わかっていると思うが今回に限っては例外だ。各自持ち帰り再考するのではなく、そのとおりに実践することを誓っていただく。これは不文律であった我らがギルドの掟を破ることになるが、何、例外として記しておこう。これは神の御使いの命であると!各自仕事に取り掛かってくれ!これからは忙しくなるぞ!最終的には御使様が一番いい劇場で歌われるとのことだ。各々しっかりと今回の計画、励み健闘を祈る!以上!解散!」



 こうして、長かった緊急芸能ギルド会議は終了した。

お読みいただきありがとうございます。

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