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壮絶修羅場中

 そんなドキドキの二日間が終わって金曜日。もはや待った無しに切羽詰まってた。


「土日に原稿こないから……今日来なかったら、月曜日ですよね?」

「そうだな……2日のロスはキツい」

「でも……来ませんね……」


 もう夕方5時半。後30分で定時が終わってしまう。そんな時間。2人とも仕事しつつ焦ってるのがよくわかる。今日は来ないのかな……と諦めかけた頃にやっとバイク便が届いた。

 でも妙に分量が少ない。


「やられたな……これは」


 珍しく狩野さんの笑みが嫌みがかってる。


「特集ページ……の半分だけですか。今日はこれで勘弁しろって事ですかね」

「そうだろうね……悩んでても仕方が無い。とりあえず古谷さんこの写真スキャンして」

「はい」


 私が先に写真をスキャンする間、2人で原稿を見ながらデザインの打ち合わせ。写真の分量はそこまで多くなかったので、10時頃には終わった。


「お疲れさま。今日はもう帰って良いよ。土日も休みで良いから」

「え……いいんですか?」


「来た原稿は全部デザインが必要な物だし、古谷に手伝ってもらう事ないからな。月曜まで追加の原稿は来ないし今のうちに休んだ方がいい」


 2人は……休日出勤してデザイン考えるんだろうな……と思うと申し訳ないけど、私にできる事がないなら仕方が無い。今のうちにしっかり寝て体力温存しておこう。


 月曜日。2人が泊まり込みしてないか……とドキドキしたけど、一番乗りだった。ほっとした。先輩が朝からちょっと眠そうな顔で出勤する。


「おはよう」

「おはようございます。昨日も出勤だったんですか?」

「いや……一応家にいた。土曜日に狩野さんとある程度作って、日曜はお互い自宅で制作。今日の午前中にチェックして終わるだろう」


 ああ……持ち帰り仕事だったんですね。お疲れ様です。


「今日も早く原稿欲しいな。まだ新規デザインするページが残ってるし、すでに基本デザインがある所に入れ込みしてレイアウトも相当なページ数があるからな」


 厳しい顔をする先輩が可哀想だけど、原稿が届かなければ、私にできる事ってまだない。先輩と狩野さんのチェックは終わり、また原稿を待ちつつの仕事。でも結局届いたのはやっぱり定時ギリギリ。そして分量が少ない。


「またこれだけか……」

「でも一応これで、新規デザインが必要なページは全部だね。これが終わればひたすら物量作戦だよ。明後日から祭日だし、明日には絶対全部来る」


 私は早速写真をスキャンして渡した。今日も泊まる程の仕事の分量は無く、私だけ帰った。

 翌日、朝来たらすでに2人はいた。やはり泊まり込みだったようだ。


「おはようございます。徹夜ですか?」

「おはよう。いや……仮眠はしたよ。先は長いしね」

「おはよう。古谷、何か食べ物買ってきて。昨日の昼以降、菓子しか食べてない」


 わぁお……それは大変だ。慌てて2人の食料の買い出しにコンビニへ。原稿来たら買いに行く暇ないかもしれないし、かなり大目に買いだめしておこう。

 買ってきた食料を食べつつ仕事を続ける2人。私に手伝える事は無くて、邪魔にならないように、自分ができる範囲で前倒しの仕事をする。


「伊瀬谷君。そっちはどんな感じ」

「まだかかりますね……これ。今日中に終わるかわかりません」

「こっちはもう少しで終わるから、原稿届いたらそっちに取りかかるよ」

「お願いします」


 2人がバリバリ仕事を続けている中、必死で早く原稿届いて……と私は願った。そして午後4時。大量のバイク便が届いた。思わずどん引きするくらいの分量。


「古谷さんはしばらくひたすらスキャン続けて。できた分からどんどん私にくれる?」

「はい、わかりました」


 物量作戦の意味がよくわかった。私はひたすら写真をデータ化して狩野さんに渡す。狩野さんは受け取った画像と一緒に入れ込みつつレイアウトをしていく。シンプルだけど半端ない分量。夜飯を食べるのも忘れて、寝る事も諦めて、ひたすらスキャンを続けて気がついたら朝になってた。


「おわった……」


 先輩のか細い声が聞こえてきた。デザインが必要なページがやっと終わったらしい。


「データもらったらチェックするよ」

「俺も入れこみとレイアウトに入ります」


 私のスキャンはまだ終わらない。でも、さすがにちょっと休憩しようとなって、買い込んでた食料を三人で無言で食べる。今はしゃべるエネルギーも温存したい。

 短い食事休憩を挟んで作業再開。ご飯を食べたから、徹夜の反動が一気に来て眠い。でも寝てられない。三人分のブラック珈琲を用意して配る。もはや私もブラック珈琲がデフォになった。


 昼を抜いて、夜だけ食べて、終電前の時間になって、かなりのスキャンが終わった。


「古谷さん、今日は帰って良いよ」

「いいんですか?」

「さすがに古谷さんも二晩続けて泊まり込みは辛いでしょう。私達も仮眠したいしね」


 うわ……2人は帰れないんだ。何日帰らないつもりなんだろう。申し訳ないけど、私も眠気と疲労が溜まってたので、言葉に甘えて帰宅した。


 翌日、今日は4日。まだ連休前半だったけど、すでに2人はかなり疲れきってた。


「いい加減風呂入りたい……」

「行ってきていいよ。はい、割引券」


 ネカフェの割引券常備って……もう泣けてくる。2人は交代でネカフェに行って、その間私はひたすらスキャン。なんとか今日スキャン作業終わるかもしれない。

 1日2食くらいしか食べず、2人は栄養ドリンク飲みながら仕事してる。夜0時を回って。


「ごめん……ちょっと限界。先休んでもいい?」

「どうぞ……交代で俺も仮眠します」


 先にギブアップした狩野さんがソファに倒れ込んで寝た。疲れきって悩ましい寝姿は凄いセクシーだけど、見てる余裕があったら仕事しろ、自分。

 狩野さんは4時間で起きて仕事を再開した。交代で先輩が仮眠。見蕩れるくらい綺麗な寝顔……だけど、見てる余裕があったら仕事しろ、自分。


 朝日が目に痛いな……という頃に、やっとスキャンが終わりそうだった。


「古谷……仮眠しなくて大丈夫か?」

「まだ大丈夫です。私は一度家に帰ってますし」


 疲労はかなり溜まってて、初めて栄養ドリンクを飲んだけど全然効かない。それでも弱音吐いてる暇があったら仕事しろ、自分。

 スキャンが終わったら今度はひたすらデータの入れ込み。単純作業だったスキャンより頭を使う分集中力が必要だ。さすがに睡眠不足でヤバい。


「すいません。仮眠貰います」


 5日の午前中、私も4時間くらい寝た。ちょっとでも寝ると全然違う。私はひたすら入れ込み作業に集中した。三人で交代で仮眠したり、私が食事の買い出しに行って食べたり……黙々と続けてるうちに段々今日が何日かわからなくなってきた。


「お風呂入りたい……」


 女子として耐えられないレベルだったので、ネカフェの割引券をもらって行ってきた。初めてネカフェのシャワーを使うけど、ドライヤーって別料金なんだ。2人は髪が短いしドライヤーなんていらないけど、私も泊まりこみが増えるなら、会社にドライヤー持ち込もうかな……。会社に住み着くくらいの仕事なんてしたくないけど。


 自分の時間感覚は麻痺してるんだけど、PCの日付を見ると今日は7日。明日には入稿だ。もう今日は仮眠の余裕も無い。段々私も高速でキーボードが打てるようになってきたけど、これずっと続けてると指釣りそう。よくあの2人はもつな……。

 食事の買い出しに行く余力も無く、先輩の備蓄お菓子を分けてもらってなんとか凌ぎ、ひたすら仕事を続けて……とうとう朝が来た。既に私の入れ込みは終わって、ひたすら印刷して入稿の準備を続ける。


 その時チャイムがなって慌てて玄関に出る。


「日鈴印刷の営業の米沢です。原稿を受け取りにきました」


 もう時間なの? と青ざめたが米沢さんが笑顔で、申し訳なさそうに言った。


「ああ……すみません、締め切りよりちょっと早く来すぎました。もし早くできてたら……と思って」


 思わず早く来ちゃうくらい急いでるんだ。ヤバい。本当に。米沢さんが営業スマイルを消して心配そうに声をかける。


「大丈夫ですか? 徹夜かな? 大変ですね」


 米沢さんが思わず心配する程の酷い有様なのか……鏡を見る余裕もなかったからな。


「古谷さんスッピンですよね? 今も十分可愛いけど、化粧したらもっと可愛いんでしょうね。美人の似てるお姉さんとかいませんか?」


 米沢さんの軽口に思わず殺気をだしてしまって笑われた。こっちが死にそうな状態で必死に仕事してるのに、揶揄われるとムカつく。それに……お姉ちゃんの事も思い出したくない。

 私もすぐに入稿準備を手伝い急ぎ終わらせる。終わったのは締め切り時間の10分過ぎくらい。


「確かに受け取りました。お疲れさまです」


 いつもの軽口もなく、ダッシュで帰って行く米沢さん。よっぽど時間が無かったんだな。


 それを見送った所で限界だった。ソファに倒れ込んで泥の様に眠る。どれくらい寝たのかわからない。はっと目覚めて飛び起きた。

 声をだしそうになって、狩野さんが口元に人差し指を持ってきて「しー」という仕草をする。見ると先輩がデスクで潰れて寝てた。狩野さんが側に来て小声で話す。


「私もさっきまで寝落ちてたんだけど、伊瀬谷君一人で頑張って起きて電話番してくれてたみたい。さっき寝落ちたばかりなんだ」


 それは申し訳ないな……そっと先輩に向かって頭を下げて時間を確認。午後5時か……そろそろ定時の時間が終わる……けど、お腹すきすぎて、エネルギー切れでとても帰れそうにない。

 頑張って3人分コンビニ飯を買ってきて、狩野さんと2人で食べた。先輩の寝顔……やっぱり綺麗だな……。

 あ……今更ながら私も寝顔を見られてたんだろうか……と思うと恥ずかしい。でもそんな事気にしてる余裕なかったからな。


 それから数日、狩野事務所は死んだ様に静かに黙々と仕事をしていた。

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