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本当のブラックは、ここからだ

 休み明けの月曜日って普段は憂鬱だけど、今日はちょっと浮かれてる。だって明日は給料日。

 月末締めの翌月25日払い。先月は数日しか働いてないし、ちょっとした小遣い程度にしかならないけど、それでも初めての給料ってだけで嬉しいのだ。今日はそれ程忙しくないのもあって余裕で仕事をしていた。


「やっぱり来なかったね」

「予想通りですけど……これ例のパターンですか?」

「だとしたらキツいな……」


 定時を少し過ぎた頃、2人が深刻そうに何か話してたので気になって聞いてしまった。差し出されたのはブラジル編のスケジュール表。


「あれ? 今日原稿来る予定になってますけど、今日は何も届きませんでしたよね?」

「うん、遅れてる。これが1日や2日ならいいんだけどね……」


 深刻そうな狩野さんの溜息に嫌な予感がひしひしと。


「古谷……前に話しただろう。月末から忙しくなるって。来週は泊まり込みも覚悟した方がいい」

「え……来週って、ゴールデンウィークですよね?」

「俺はこの会社に入ってから、年末年始以外の長期休暇を貰った事はない。ゴールデンウィークももちろん仕事だ、むしろいつもより忙しくなるぞ」


 先輩の真顔が怖い。凄い実感こもってる。今までだって十分忙しかったのに、これ以上忙しくなるって想像しただけで恐ろしい。


「仕方が無いね……明日、古谷さん休んで良いよ。それで明後日は伊瀬谷君で、次の日が私。交代で休もう」


 平日に休みってありえない。何で? どうして?


「原稿来る予定で今週スケジュール空けてたのに、届かないから仕事は少ない。交代で休む余裕があるんだよ。来週に備えて今のうちにってな」

「で、でも……もしかしたら、明日原稿が届くかもしれませんよね?」

「そうしたら伊瀬谷君と私の休みはなしにして、仕事だね。その方が遥かにマシだけど」


 平日の休みを喜びたくても喜べない。悲壮感漂う2人の様子から事情を知らなくても絶望的な状況だってのは解る。

 スケジュール表を見ると印刷所に入稿はゴールデンウィーク明け直後。厳しいスケジュールになりそうだ。


「編集さんの原稿が遅れたから、印刷所に待ってもらう……とかできないんですか?」

「無理だな。印刷所は何も悪くないし、連休は印刷所が止まってる分連休明けはまったなしの、かなり厳しいスケジュールだから」


「時々ある手口なんだけどね……原稿を遅らせて、編集さんが連休前直前にこっちに原稿を渡し、自分は休暇だけど休み明けに印刷所にお願いっての」


 あまりに理不尽すぎて怒りで震えた。自分は休むけどこっちは死ぬ気で働けっていうのか! でも……編集さんから仕事をもらってる私達は文句を言えないし、締め切り破っても仕事無くしちゃうんだ。

 たぶん凄い怖い顔してたと思う。ぽんと狩野さんに肩を叩かれてはっとして顔をあげる。


「というわけで……一日早いけど給料」


 そう言って差し出された茶封筒。え……今時、給料手渡し? そういえば給与振込先聞かれてなかった。そっと受け取ると初給料の喜びで怒りが和らいだ。バイトで給料を貰った事はあるけれど、銀行振込より手渡しって嬉しいな。


「金額間違ってないか、念のため確認してね」


 そう言いつつ、狩野さんは先輩にも給料を渡してる。私は期待でドキドキしながら中を確認した。給料明細書に書かれていたのは……。


 「日割り計算の月給」ー「税金」=「総支給額」

 その3つしか書かれてなかった。


 さーっと青ざめる。覚悟してたつもりだけど、改めて福利厚生無し、残業代なしって超絶ブラック、違法行為だよね。何度確認しても金額に間違いは無い。せつない。


「古谷。年金とか保険の手続きってしてあるか?」

「あ……そういえば忘れてました」

「明日は平日の休みだし、役所に行ってきたらどうだ?」


 会社がやってくれない分、自分で手続きしなきゃいけないんですね。さすがブラックな環境に慣れた先輩。的確すぎるアドバイス。失業保険もないし……本当に給与面では最悪だ。

 でも……先輩も同じ条件で働いてて、たぶん狩野さんだって一人だけ一杯給料をもらってるなんて思えない。取引先からの理不尽のしわ寄せが、うちの会社をブラックにさせてるんだよね。


「古谷さん。給料少なくて本当にごめん。私ももう少し頑張って、少しでも給料をあげられるように努力するから」


 狩野さんに頭を下げられて慌ててしまう。狩野さん本当に優しいな。勤務時間がブラックでも、給料面では違法行為でも、人間関係だけは最高だし……お仕事頑張ろう。

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