177エピローグ
(エピローグ)
最近純架は日曜日になると、決まって俺の家に入り浸り、最新ゲーム『スナッチノーツ』をプレイする。どうやらはまってしまったようだ。
「先の展開をばらしたら絶交ものだからね、楼路君」
「はいはい」
俺は重ねた座布団に頭を寄せて、くつろぎながら画面を眺める。主人公のギリサン・シーグラムが謎の地下施設に足を踏み入れる、屈指の名場面だ。
「それにしても……」
俺は既に体験済みだったので、やや退屈気味に話しかけた。
「純架、台さんは異母兄が自分をさらった誘拐犯だってこと、未だに知らないのか?」
純架は興を削がれたように一時的にコントローラーを置き、生真面目に答えた。
「もちろん。彼女は知らないよ、そんなこと。自分の父親であるはずの人物と血が繋がっていないこともね。一人蚊帳の外ってわけさ」
俺は勝手に推測した。
「それで気の毒がって、彼女をあんまり邪険に扱わないわけか、純架」
「さあね。もういいかい?」
純架は向きになってゲームに戻りたがる。俺は無言で笑い、承認した。
季節は晩冬、バレンタインも近い。俺は奈緒から本命のチョコレートをもらえるだろう。英二も結城から。
果たして純架は、真菜や日向からそれを差し出されたとき、どう反応するのか?
俺はそれが楽しみでしょうがなく、にやつきを抑えられない。とうとう声まで漏れて、純架に気づかれる。
「何がおかしいんだい、楼路君」
「何でもないさ。さあ、ゲームに集中しろよ、純架。これからだぞ」
「分かってるよ」
液晶テレビに向き直り、再び前傾姿勢となって没頭し始める純架。
俺はその背中を見ながらあくびを噛み殺し、彼の驚く様を期待するのだった。
まだまだ続きます。




