146プロローグ
(プロローグ)
少年は薄暗い部屋の中にいた。外から雀のさえずりが聞こえ、カーテンの隙間より僅かにこぼれる白光から、今が早朝だと知れる。傍らで眠る少女が身じろぎし、パジャマ越しに伝わる体温が彼の皮膚に伝播してきた。
こうして昼夜を繰り返すのも、もう何日目だろう。
少年は――その見た目は十分大人だったが――彼女を起こさないよう慎重に体をずらし、シーツの中から脱け出た。途端に針のような寒気が全身を突き刺し、思わず身震いして五体を縮める。ゆっくり吐き出した息は白く、もやとなって宙にかき消えた。
背後のベッドを振り返る。少年は早く大人にならなければ、と改めて思った。派手な髪の少女は熟睡し、その寝顔はあどけない。自分が庇護するべき大切な存在だ。彼女の笑顔を守ることこそが、自分に課せられた大切な使命なのだと、彼は信じて疑わなかった。まだ頼りない自分の体躯も社会的地位も、時間が待ってくれない以上、背伸びしてでも大きくしなければならない。それが二人の将来を約束する担保となることが判明しているのだから。
少年は天井に両腕を伸ばし、背を反らした。全身の節々に熱い血流が行き渡るのを感じる。自分は生きている。生きていかねばならない。彼女と共に、これからも、ずっと。




