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第8話 逆光

 何度死んだだろうか。さながら、RPGの最初の村でラスボスに遭遇する負けイベみたいな状態。違うのは、俺は本当に死ぬということだ。


 死亡するたびに見える数字は、今回で「73」になった。

 死んでもまたリトライ。死の少し前から、記憶を持ち越してやり直せる。


 一見すると、ゲームのように何度もリトライできる最強の能力……だが、それはゲームだからこそ言える話だ。死んでも痛みを伴わないゲームと違い、俺は実際に死を経験する。リトライできるから――なんて、どの回でも気軽に出来るわけがない。


 それに、予見できるのは前回の死因まで。その先は未知のままだ。いくら俺が次の一撃へと歩を進め受け流そうと、こいつの喉元に迫れるビジョンが全く見えてこない。終わりの見えない戦い。


 もし、俺たちが教会に付く前の段階に戻れるなら、さっさと逃げて終わりだったのに、どうやら俺にこの魔法を託した奴は俺に相当な恨みがあるらしい。これは能力というより――もはや呪いだ。


 初めのうちは少しずつ前進しているという希望が、死の苦しみや恐怖をわずかに上回っていた。それもいまや、回を重ねるごとに剣聖の底知れなさを実感し、先にあると思っていた希望自体が幻想であったと理解させられてしまった。


 俺の目は死に、もはや何のために戦っているかもわからない。

 一定のルートを、ただ自動的に繰り返す。さっき見た攻撃、さっきと同じ反撃。

 ただひたすら、前回と同じようにレールに敷かれたまま防御をすることしかできない。


 死への恐怖と、いつまで続くんだという闇の中を進むかのような心細さで、俺はすでにカウントダウンが0になる瞬間を待ち望んでいた。これなら死ねる方が楽だと。それでも、予見できているとはいえ、身体は回を重ねるごとに思うように動くようになっていた。はじめはナイフで受けると吹き飛ばされていたものが、わずかに後退するにとどまるようなこともあった。

 

 ――だが、また今回のリトライでも”終わり”が来る。


 この後――この攻撃だけは、どうしようもなかった。83回目から、実に10リトライ。俺はこの一撃に殺され続けていた。


 どちらの方向に回避しようとしても、後ろに距離を取ろうとしても、その攻撃は的確に俺を殺す。もう、何とかナイフで弾くことを考えるしかない。


 俺が剣聖の切り上げを当然のように避けると、剣聖は口を開く。


「――さて、様子見はもういいか」


 その剣聖の言葉に、俺の全神経が警報を上げる。


 来る……俺を殺す――不可避の一撃が……!

 俺がこの世界で初めて見る――”魔術”をもっての一撃……!


 剣聖は剣を構え、小さく何かを唱えると、剣のガードから剣身に向かってゆっくりと手を這わせる。


「――”雷豪の剣”」


 瞬間、剣がまばゆい閃光を放つ。

 青白いオーラのようなものが剣に纏われ、その周りを稲妻が走る。


「――ッ!!」


 刹那に放たれるのは神速の突き。

 様子見をやめた、本気の一撃。俺の実力の底を見切った、剣聖の終わりの合図。


 既に十度受けた技。俺の動体視力でその攻撃を視認することは不可能だが、刻まれた恐怖と痛みが、それが()()()()()()をわかっていた。


 反射的に俺は、回避ではなくナイフでのガードを選択する。

 それは回避同様やはり的確で、剣聖の剣を完璧に捉える。


 ――が、しかし。


 雷による高電圧はさながら電気のこぎりのように、俺のミスリルのナイフを簡単に溶かし砕く。そして――その剣は俺の身体を貫いた。


「ぐ――――あぁぁああぁ!!!」


 何度経験しても衰えない、常に新鮮な地獄のような苦しみ。傷口から悪魔が這い出てくるかのような、業火に包まれるような痛み。


 傷口は燃え上がり、おびただしい量の血があふれ出る。もはや、その命は終わろうとしていた。


 痛い痛い……痛い!! なんで……俺が……何度もこんな……!!


 自分の境遇を呪う言葉が、脳内を万華鏡のように乱反射する。

 俺はそのまま崩れ落ちるように地面に倒れこむ。


「驚いたな」


 その驚愕は、俺の死にざまに向けられたものではなかった。

 死体を前にしてもなお、その表情は変わらず晴れやかだ。


「僕の”雷豪の剣”すら見切るとは……正直、初めての体験だよ。素人のような拙い手つきなのに、なぜか的確にここしかないというポイントで回避・防御してくる。そのアンバランスさ、興味深いね」


 そりゃそうだ……まるで”未来が見えている”かのように攻撃を防いでいるんだ、向こうからすれば理解できないだろう。


「この回避能力はやはり君自身のセンス――生得魔法と考えるのが自然か。二重生得者ダブル……【解析】に加え、もう一つは防御特化の生得魔法か、面白い。使い方次第では惜しい魔法だが、仕方ない。せめて僕の一撃を受け止めたことを誇って死ぬといい」


 すると、剣聖は何かに気が付き、手で口元を抑えふっと笑う。


「……死体相手に饒舌になりすぎたね。思いのほか、僕の斬撃を受け止めてくれたことに高揚していたようだ。様子見と言えど、圧に耐えてくれる人は珍しいからね。僕としたことが」


 剣聖はこちらに背を向けると、教会に向けて歩き出す。

 すでに俺に対する興味は失っていた。


「まさかこんなに早く僕の部下を……。さすがユーナ・ミレム――……」


 遠く剣聖の声がかすかに聞こえるが、次第に全ての五感が閉じていく。


 くそ……今回も……結局……俺は……。

 そして、俺はまた眠りについた。


◇ ◇ ◇


 ――72――


 リトライした瞬間、剣聖の斬撃が頭上をかすめる。

 あぁ、またここだ。


 繰り返す死。終わりの見えない苦しみ。

 最後には、あの雷魔術が待っている。俺の死は確定している。

 結局、俺はこの先死ぬ運命にあるのなら……いったい何のために……俺のこの行動に、意味はあるのか……?


 そんな思考が、脳内を止めどなく流れる。

 そんな混沌とした精神状態でも、何度も経験した攻撃は身体が勝手に対応していく。


 俺は結局、異世界に来てもこのざまか……。

 何かを”選択”しなければ道は切り開けない状況だというのに、俺は選択を出来ないでいる。


 危険を冒さずにただ100回目の死を待つだけの、虚無な戦い。攻めることも、勝つことも諦めていた。まるで、終わりを望んでいるみたいに。


 ――本当にこのままでいいのか?


 …………良いわけがない。


 本来ならあのトラックにひかれて、俺は死んでそれで終わりのはずだった。それが、なぜか異世界に転移して、こうしてまだ生きている。絶望と恐怖と痛みの中だが、それでもまだ心臓は動いてる。


 あの、生きているのではなく、死んでいないだけだった日々。

 それに比べれば、今の方が生きている実感があった。死にたくないという気持ちが、俺に生の輪郭をはっきりさせる。


 人の生に意味があるとすれば、それはきっと()()()にわかる。

 だが、少なくとも選択をしない俺の生に……俺の死に意味は残らないだろう。


 ここで俺が死ぬまでに一手先、一歩先まで進んだところで、この世界はきっと何も変わらない。でも、少なくとも俺自身にとってそれは――”意味のある死”になる。


「……はっ」


 思わず小さく笑いが漏れる。

 消えかかっていた命の灯に、薪がくべられた気がした。

 自分を無意識に縛っていた鎖から解放されたような、すがすがしい気持ちだった。


 どうせ死ぬなら最期くらい。

 俺は自分を超えてから――死んでやる。


「――さて、様子見はもういいか」


 来る……俺の詰みルート。


 一矢報いてやるよ、剣聖……!

 命を捨てろ、俺。どうせ拾った命だ。


 今までのリトライで、俺が積み上げてきた死とその経験。無様でも、少しずつ進んだ道のり。

 剣聖から見た俺は、ここまで防戦一方ではあるが完璧に回避・防御してくる、まさに回避盾だ。


 剣聖の脳裏に刷り込まれた、“()()()()()()()()()()()()()()()()()”という信頼。

 それを――逆手に取る。


 こいつは、俺がこの攻撃に初見で対応するとは夢にも思っていない。ただ凌いでいるだけの俺が出来るわけないと。


 それは通常の戦闘であればそうだろう。だが――――俺は違う。そこが、こいつの隙となる。


 俺が死を積み上げたからこそ生まれたその”幻想”を、ここで利用してやる……!


「――”雷豪の剣”」


 死の光が煌めく。

 雷を纏った不可避の一突。


 俺は迫り来る死に対し、逆光の中回避も防御も捨て――――自ら飛び込んだ。

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