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今、巷では婚約破棄が流行ってるんです  作者: 都森 のぉ
第2章・アンネワーク
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馬車に乗る

 ベティエたち三人とアンネワークは、馬車に乗り込むと劇場へ向かった。

朝が早かったため何も食べていないベティエたちは、お腹の音を気にした。


「今日、朝が早かったでしょう?」


「はい」


「それでね。料理長にお願いしてサンドイッチを作ってもらったの」


「えっ?」


 アンネワークは何でもないように言っているが、時間外に料理を作ってもらうには申請書を書いて受理されてからだ。

それも理由が認められなければ却下される。

今回のように遊びに行くための弁当など絶対に受理されない。


「し、申請書通ったんですか?」


「申請書? なぁにそれ、昨日の夜に料理長にお友達と芝居を見に行くのって言ったら、弁当が必要だなって言って、作ってくれたの」


「そうだったんですね」


 アンネワークにとっては世間話のつもりで言ったし、料理長も朝が早いからアンネワークがお腹を空かせるなと心配しただけだ。

理由はどうあれお腹が空いているのには変わりない。

しっかり四人分あるサンドイッチを劇場に着くまで楽しんだ。


「あっ、館長!」


「アンネワーク様、ようこそおいでくださいました」


「とびっきりの良い席は残ってる?」


「もちろんです。なんせ今日は、豊穣祭あとの祈りの日。閑古鳥が鳴くほどのがらがらですから」


 館長が言うだけあって、客足はまばらでベティエたちがいても賑やかしにもならなかった。

本当にお金を取られることはなく、今までの仕送りで貯めた分を持って来る必要はないのが分かった。


「アンネ様」


「なぁに?」


「本当にお金いらないんですか?」


「そうよ。今日だけはお金を払わなくても見られるの。新しいお客さんが増えて欲しいという願いを込めて始めたらしいんだけど、貴族は無償で見たらお金がないと思われるのを嫌がって来ないの。その他の人は祈りの日の準備で忙しいから芝居を見ている時間がないでしょう?」


「まぁそうですね」


「それに劇場も大々的に宣伝しているわけじゃないから知られていないの。今日は、お客様が増えますようにと祈りを込めて、神様に向けて上映しているってことみたいよ」


 アンネワークの説明が終わるころに上映が始まるために照明が落とされた。

ここまで来れば、あとは芝居を楽しむだけだ。

生で見る芝居に圧倒されながらベティエたちは、細かく俳優たちの動きを観察した。


「ふふふ、楽しかった」


「はい」


「本当にすごかったですね」


「鳥肌が立ちました」


「喜んでいただけたようで何よりです。お嬢様方」


「館長! すごかったわ」


 上映が終わる時間に合わせて馬車を手配してくれていた館長に礼を言って、学院に戻る。

すぐに交流会で演じる台本作りに取り掛かった。


「・・・できました」


「すごいわ。ベティエ」


「あとは練習ですね」


 これが大変だったが、練習と配役には、オーリエンとジャクリーヌとベティエが当たり、時間があれば科白合わせをした。

いつも練習に付き合っているフーリオンの姿がなかった。

同時に、ウォルトルの姿もだ。

その理由をオーリエンとジャクリーヌは知っていたが、アンネワークに気取られぬように振る舞った。


「おっやってんな」


「ジョロルビッチ先生」


「ジョコルウィッチ、先生な。いい加減、担任の名前くらいちゃんと言えよ。そんなんじゃ主役は到底無理だな。今から配役を変えるか」


「なにをーーー。今に見てなさい。地べたに這い蹲って神様と崇めさせてやるんだから」


「・・・うん、この科白は却下だな。アンネワークに合わん」


 アンネワークの持っている台本を奪うと、机の上の赤いペンで科白を消してしまう。

ただ、この科白は王子役の科白であるから、語尾が違う。


「やっぱりダメですか。アンネワーク様がどうしても入れたいというんですが・・・」


「いや無理だろう。アンネワークが言うと、素直になれない女の子が言っているようにしか聞こえんぞ」


「そうですよね。アンネ様、ここは違う科白を入れましょう」


「王子役にぴったりなのを考えましょう」


 アンネワークが芝居の練習を頑張っている間に、フーリオンとウォルトルは揉めていた。

それは、マリエルへの対応に対してだ。


「だから、奴さんはフーリオンにご執心みたいだからな。ちょっと話して、真意を探ってくれって言ってんのよ」


「断る。アンネ以外を口説けと? できるわけないだろう」


「いや、口説かなくていいのよ。ちょっと世間話をして、ちょっとお茶してくれるだけで十分だから」


「それでもアンネ以外の女と一緒にいろということだろう? 断る。年も同じだ。オーリエンにさせれば良いだろう」


「それがね。奴さん、オーリエン殿下のことは、あんまり気にしてないのよ。王族なら本当にお前だけが目当てなのよ」


 フーリオンは嘘でも他の女性と一緒にいたくないと突っぱねて、それを何とか説得しようとウォルトルが頑張っていた。

その成果もあり、フーリオンはマリエルの真意を探るための芝居に協力するということになった。

芝居と言っても嘘を吐くのは嫌だと、また突っぱねるフーリオンのために受けてによって意味が変わる言い回しを考えることする。


「当日までの間は心配するな。王妃様がアンネワーク嬢を預かってくれるし、それ以外は俺やジャクリーヌ嬢が芝居の稽古と銘打って引き留める。だからその間に奴さんの真意を探れよ」


「・・・仕方ない」


「変な言いがかりをつけてくるようになったみたいだしな」


 アンネワークに実害がなければ基本的に口を挟まないようにしているフーリオンだが、それは話が通じる相手の場合だ。

マリエルは話が通じないと判断し、秘密裏に動くことになった。

交流会までの間は、フーリオンがアンネワークから離れていることを印象付けておき、そのあとでマリエルとの接触を増やす予定だった。

それが変わったのは、アンネワークが再び襲われて髪を切られたことが関わっている。

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