策を練る
話を引き延ばそうとしても聞く耳を持ってくれないと感じて、マリエルは大人しく寮へ戻った。
この判断が正しかったと知るのは、窓の外が騒がしくなってからだ。
「どうして聞いてくれないのよ。それにルシーダともっと親密になるように手助けしてくれても良いじゃない」
騒がしい足音が窓の下から聞こえて、静かに下を覗いた。
部屋の灯りから顔は見えないはずだが、明らかに軍人たちはマリエルのいる部屋を指差している。
「あの部屋だ」
「・・・いるな」
「監視を抜かるなよ。逃げられでもしたら大変なことになるぞ」
「あぁ暗殺者を学院に手引きした女だからな」
「ゴンゴニルド伯爵家の庶子だと偽り、今回の編入をしたのかもしれないな」
「そのあたりも調べておけ」
完全にマリエルが犯人であると決めてかかっている。
暗殺者を手引きしたことなど一度もなく、裏稼業の人間への接触の仕方も知らない。
だが、マリエルが今までしたことが、全てお膳立てのように思われていた。
「なによ、それ。知らないわよ。だいたい暗殺者を手引きするのは悪役令嬢でしょ? それでヒロインが襲われて、そのことに怒ったフーリオンが処刑を言い渡して、そして、そして、傷ついた令嬢を慰めるためって名目でヒロインが王妃になるのが、ニーリアンルートのお約束なのに」
ただ、マリエルが覚えているゲームの知識の中に悪役令嬢を害したからバッドエンドを迎えるというものはない。
どれも好感度が低いため、ハッピーエンドとは言えないというエンドが、バッドエンドだ。
「どうにかしないと、まずは、生徒会補佐に残って、ルシーダと、あとあの双子も好感度上げないと、えっとそれから、それから、好感度が上がったら、フーリオンとオーリエンの攻略よね?」
マリエルの想定では、すでに攻略は完了していて、ニーリアンとの秘密の恋をじっくり楽しむ予定だった。
「あぁもう、やることが多いわよ」
全てを成立させるには相当な予定管理能力が必要とされるが、マリエルにはゲームの知識による時間系列しかないため、それが狂うと思い通りにできなかった。
忘れないようにと書き溜めたノートには、攻略対象者との好感度が上がっているときに起きるイベントしか書いていないため、低い現状を打破するには役に立たない。
「何で、書いてないのよ」
過去の自分に文句を言っても仕方ないと、マリエルは残った記憶から挽回する方法を思い出そうと朝方まで起きていた。
「あぁもう、好感度が上がってからのことばかりで役に立たないじゃない。私が知りたいのは、挽回する方法よ、挽回する方法。まったく全部が上手く行くはずないじゃない」
薄れている記憶を辿りながら思い出した解決策は二つだ。
図書館に通うことと、乗馬イベントだ。
「最近、図書館に通ってないから、通うこととして、乗馬イベントは・・・今日じゃない! こうしちゃいられないわ。急いで行かないと」
制服に着替えると、マリエルは走って乗馬場へ向かった。
初めてで不安だと言って、朝早くから行くのが好感度を大きく上げるための知られていない方法だ。
案の定、授業の準備をしている教師がいた。
「・・・君は確か」
「マリエル・ゴンゴニルドです」
「ゴンゴニルド様、授業はまだですが?」
「あの、馬に乗るが初めてで、不安で」
子爵家の出身の乗馬教師は、自分より上の爵位である貴族全員が嫌いだ。
同じように伯爵家に簡単になったマリエルのことも嫌いだった。
「・・・大人しい馬を用意する。準備の邪魔だ」
「あっありがとうございます」
「ふん」
マリエルは元気よくお礼を言ったが、気難しい馬を当てられるのは事前に分かっている。
だが、それが狙いであるからマリエルとしては、願ったり叶ったりだ。
離れたところで様子を見ているうちに授業に出るために集まってきた。
その中にロチャードとグリファンの姿と、フーリオンとオーリエンの姿もある。
だが、アンネワークの姿はない。
「・・・いない理由が分からないけど、いない方が近づけるから良しよね」
順番に馬を貰うと世話をする。
マリエルの番になると、白い馬を渡された。
「ほら、こっちよ」
手綱を引くが、まったく動こうとしない。
そう苦労しているうちに、攻略対象者の誰かが寄って来て、誰に手を貸してもらうかを選ぶ。
マリエルは、フーリオンが寄って来るのを待った。




