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完全に出遅れる

 廊下を走って来るのが、アンネワークだと分かり、ルシーダは相好を崩した。


「ルシーダ()()()()!お帰りなさい」


「ただいま戻りました。アンネワーク嬢」


「ルシーダ、その令嬢が妹分かい?」


「あぁ。紹介させてくれ。アンネワーク・ワフダスマ伯爵の令嬢だ。私の妹分だよ」


 ルシーダの紹介に合わせて、アンネワークは挨拶をした。

アンネワークがルシーダのことを姉と呼んだことに誰も疑問を持たない。

それはルシーダがすでに話しているし、アンネワークがそう呼んでいることも割と知られている。


「可愛い迎えが来たということは待たせてしまっているようだ。急ごう。アンネワーク嬢、紹介をいただいたが、これから我らは挨拶がある。二度も同じことをお聞かせするのは忍びないので、あとでさせていただいてもよろしいかな?」


「えぇかまいませんわ。わたくしが勝手に来てしまっただけですもの」


「アンネワーク嬢、お詫びとしてエスコートさせていただけますか?」


「喜んで!」


 疚しいことをしていたわけではないのに花瓶の陰に隠れたマリエルは、アンネワークたちを見送った。

花瓶の花の確認を止めて、急いで大講堂へ向かう。

このままだとルシーダに話しかけられないまま終わってしまう。


「私の邪魔しないでって言ったのに!」


 せっかくルシーダに会えると喜んでいたのも束の間に機嫌は最悪になった。

あれだけアンネワークに邪魔をしないでと言って、本人からは関わらないという確約を貰ったのに、舌の根の乾かぬ内に邪魔をされた。

攻略対象者ではないが、ルシーダが案内をしていた留学生たちも負けず劣らず、イケメンだ。


「あぁマリエル。呼びに行こうと思っていたんだ」


「・・・グリファン」


「留学生たちが到着されたからね。挨拶があるんだ」


 さすがに全校生徒が集まっていると簡単に舞台には近づけない。

諦めて挨拶を聞くことにする。

壇上には、留学生たちと生徒会長のロチャード、副会長のルシーダがいる。

歓迎のために王族のフーリオンとオーリエン、その後ろにアンネワークとジャクリーヌがいた。


「何で、アイツが?」


 本当なら引き摺り下ろしたいくらいに腹が立っているが、そんなことをすれば叱責だけでは済まない可能性がある。

授業態度が悪いというだけで家に連絡がいくくらいだ。

ここで退学になるわけにはいかなかった。


「・・・・・・わが校と貴校との交流会を迎えられたことを嬉しく思います。半年に渡り留学していたルシーダが良き関係を築き上げた結果であるととも思っています。ここでオーリエン殿下より挨拶がございます」


 マイクを使って声を届けているが、生徒たちのざわめきが大きく聞き取りにくい。

ロチャードに紹介されたオーリエンはマイクを受け取ると小さく咳払いをした。

それだけでざわめきは収まり、静けさを取り戻す。


「わが校まで足を運んでくれたことを嬉しく思う。今回の交流会は今までのものと違い少し趣向を凝らした。楽しんでいってもらえると思っている」


「歓迎していただき、ありがとうございます。生徒会を代表して、グレイソン・トレースより厚く御礼申し上げます」


 自己紹介もあったのだが、歓声が凄いため、ほとんど聞き取れなかった。

歓迎のセレモニーは終わりかと思ったのだが、誰も席を立たない。

それは舞台上に幕が下ろされたことで、まだ何かあるということが分かった。


「えっ? 劇? そんなの聞いてないけど」


 開演のベルが鳴り、幕が上がると、そこには髪を一本の三つ編みにした男性の制服を着たアンネワークがいた。


『ヒンリエッタ! ヒンリエッタはどこだ!』


『ここに、そう大きな声を出さないでくださいまし』


 ヒンリエッタ役で出て来たのは、女性の制服を着たジャクリーヌだった。


『そなたには失望した』


『何を? でございますか?』


『そんなことも分からないとは嘆かわしい! お前のしたことは全て分かっているのだぞ!』


 格好よく言い切ったが次の台詞が飛んでしまい出て来ない。

舞台袖では、次の台詞を書いた大きなスケッチブックを掲げるウォルトルがいた。

それを見たアンネワークは思い出し、続けた。


『証拠ならここにある! マルグリットが涙ながらに証言してくれた』


『それは、証拠とは言いませんわね』


『なんだと! ヒンリエッタはマルグリットが信じられぬと申すか!』


『それは一般的には証言と言いますのよ。さきほど、ご自分でも証言とおっしゃったではありませんか』


 ちょうど王子が婚約者であるヒンリエッタに婚約破棄を宣言するところだ。

これがマリエルの乱入によって中断することになった園遊会のやり直しだというのは説明されなくても分かる。


『王子である僕の揚げ足を取る気か!? もう良い。お前のようなしょう・・・しょう・・・』


『お前のような・・・何でございましょう? わたくし最近、耳障りなことを聞いておりまして、耳が遠くなっておりますの』


『言うことに欠いて、何が耳が遠くなっただ! お前のような女と結婚するなど、金輪際お断りだ! 今すぐに婚約破棄してくれる!』


 科白の出て来ないアンネワークを助けてジャクリーヌは、アドリブで科白を繋げた。

そこは貴族令嬢として色々な返しを学んだ経験が活きた。

すぐにアンネワークも反応した。

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