28、名和(なわ)の戦い
大高城内は慌ただしくなっていた。那古野にいる千代丸より出陣命令が下ったのだ。
水野を討つ。命を受けた梶原平九郎はすぐに兵を集めた。
千代丸軍精鋭千五百。
「いざ出陣っ」
凍るような寒さの中、梶原軍は出撃したのである。敵は名和城の水野勢だった。
名和城の兵七百は出撃し、梶原軍と野戦で戦うことになった。
梶原平九郎は城を背にした水野勢を馬上で睨む。
「ほう、やる気ではないか。まずは兵庫殿に行ってもらおう」
平九郎が軍配を振り上げると、蜂屋軍が突撃する。まずは第一陣である。蜂屋軍は盾を持ちながら、槍隊が突撃する。
「さて、第二陣が待っておるぞ。そう、助右衛門殿の兵よ。ん……?」
あまりの猛攻に水野勢が退いた。梶原平九郎は馬上で呆然とする。
「何たることよ……まだ俺は戦っていないというのに……」
平九郎は不満そうに逃げる水野勢を見る。戦は呆気なく千代丸軍の勝利となったのだった。
尾張那古野城。
「如何かな。遠江の海の幸だ」
海鮮料理を出された千代丸は舌鼓を打つ。氏豊のもてなしに千代丸は満足していた。
「おいしゅうございまする」
子供のような屈託のない笑み。千代丸の顔を見て氏豊はうんうんと頷いた。
「それは良かった。千代丸、そなた那古野が気に入ったか?」
「御意。那古野でいつまでも暮らしたいと願う程です」
「ハハハ! そうか、そこまで気に入ったか」
氏豊は声を上げて笑う。ただ目は笑っていない。千代丸は油断ならぬ人物。氏豊はそう見ているのだ。
(父親の弾正忠よりもこの童の方が怖いわい……何とか那古野方にしておかねばな)
急速に伸びる千代丸の勢力に氏豊は内心焦っていた。名将である氏豊をして焦らせるほどの才をこの童子は持っている。経済力もあり、軍の統率もずば抜けている。恐ろしい童子だ。
「お代わりを所望したい」
ぺろりと平らげた千代丸は不敵にもお代わりを望む。家臣たちが呆気に取られたように千代丸を見ていた。
(何という肝の太い童子よ)
氏豊は笑みを浮かべながら、内心では千代丸の化け物ぶりに驚かされていた。そして心底、千代丸が味方に付いたことでほっとしたのである。




