24、城下町作り
「梶原平九郎高政、褒美として米俵百俵と太刀を遣わす」
千代丸は平九郎に命じる。氷上砦攻めの功を立てた梶原平九郎の知行増加は行われなかった。
「平九郎よ、知行は与えぬ。それよりも銭と米だ。そなたには知行よりも銭を持って欲しいのだ」
沈黙があった。家臣団に動揺が走る。千代丸は皆の顔を見回す。
「知行を与えて行けば、松平の地を切り取らねばならぬ。ここは考え所だな。それでは戦ばかりすることになって疲れよう。松平を見よ。増えすぎた家臣のために清康は困り果てている。百姓には重い年貢がかかっておる。我らは松平のようにならぬ」
「……何という深い考え。この平九郎感服仕りました」
平九郎が目が覚めたように顔を上げた。千代丸はうんうんと頷く。
(ふう。うまいことごまかせたわ。もっと領地を与えろと言われても俺の方が困る。ただでさえ、梶原家は優遇してるんだ。これ以上、梶原が力を持てば粛清しなきゃいけないからな。ま、そんなことは平九郎には言わんが)
千代丸は内心焦る。転生者の千代丸は知っている。家臣の優遇は国を危うくする。応仁の大乱も足利家臣たちが力を持ちすぎたせいだ。梶原平九郎も欲のない人物だ。それに平九郎の妻も優しくて品のある女だった。だが、権力を持てば人は変わる。この夫婦にも警戒を怠ってはならない。千代丸は気を引き締める。
評定は滞りなく終わる。ほとんどの家臣の武家屋敷が城下に作られることに決定した。
緒川城。水野左近大夫清重は評定の間に足を運んだ。評定の間には重臣、中山五郎左衛門重時が腕を組んで瞑想して座っていた。
「忍びたちが千代丸は水野を攻めるつもりだと言っておる。五郎左衛門よ、どう見る? 俺は千代丸に降った方が良いと思うのだが」
五郎左衛門は目を見開く。そしてジッと左近大夫を見る。
「裏切った梶原平九郎のようなになれと。我ら水野は平九郎の家人になりますぞ。名門中山家としては我慢ならぬ」
五郎左衛門は鼻を鳴らす。公家の末裔である五郎左衛門は高いプライドを持っている。家格も高く、水野家では発言力も強い。
「それがしにも千代丸からの書状は届いておりまする。しかしですな、ここは戦う時ぞ。織田など元をただせば越前の神官でござろうが。恐れることはなし」
五郎左衛門は笑う。左近大夫が心配そうな顔をした。水野家内部では千代丸への反発が強まっている。梶原平九郎を引き抜いたことへの不信感は根強い。千代丸と水野家の対決は避けられないようところまで進んでいた。




