23、氷上砦(ひかみとりで)攻略
享禄五年の年が明け、千代丸軍は即座に動いた。岡田助右衛門を筆頭に梶原平九郎、滝川八郎ら千五百は氷上砦に攻め寄せた。
千代丸は大高城で焙じ茶を飲んでいる。千代丸、四歳。落ち着きのある四歳で体も大きくなり、体術も習っている。
「検地も終わり、新田を耕すことが決まりました。」
水野磯七家長が報告する。大高城を中心に米、麦、大豆、稗の栽培が始まっている。百姓だけでなく、武士の次女、三女、四女と言った者たちが志願して開墾に励んでいる。千代丸の家中は士気が高い。知多半島から移住する者たちもいる。手厚い補助金が与えられ、ただ同然で土地を与えられる。
織田の若様の所に行けば、仕事がある。そういう噂が流れている。他の土地から人が、物が流れてくる。
「うむ。検地大儀である。磯七よ。大高は豊かになろう」
「はっ、何しろ若様がおられるのですからな。織田の千代丸と言えば、赤子でも知っておりまするぞ」
磯七が笑う。千代丸も笑みを浮かべた。織田家の中でも異彩を放つ千代丸軍団は人材も豊かになり、軍事的な機動力も上がっていた。
「職人町も作っておりまする。いやはや、伊勢だろうと遠江だろうと腕の良い者が来ておりまするよ」
千代丸は満足そうに頷く。新しい町も作っている。城下町に武家屋敷も造営されている。千代丸の家臣団は大高城下に住むことになる。松平が羨む町になるだろう。千代丸はさらに笑みを深くする。
大高城下は千代丸によって新しく生まれ変わろうとしていた。
「本丸取ったぞ―――――っ」
梶原平九郎が大声を上げる。砦の兵たちは逃げていった。名和城に逃げ込む気だろう。平九郎は一息をつく。滝川八郎がやってくる。
「さすが猛将、梶原平九郎様。鬼神の如き働きでございますな」
「フフフ。見たか、この平九郎。武功を上げたわ。フハハハ! また知行が与えられるかの」
八郎が囃し立てる。平九郎は胸を張った。梶原軍団は一つにまとまって猛攻した。攻城兵器も手に入れ、城攻めも得意になりつつある。
平九郎は自慢の槍をガンと地面に立てた。
(いやはや、若君に仕えて良かったわ。梶原平九郎、ここにありと武功を立てることができた。若君は政も目を瞠るものがある。あのような才、見たことがない……)
平九郎は周りを見回す。家臣は欠けていない。千代丸の発注した盾で家臣たちは守られる。千代丸には内政だけでなく、軍事の才もあった。細かく指示してくるが猛者である平九郎も唸らされることが多い。奇妙な童子だが、ついてきて良かった。平九郎は肩で息をしながら、何度も頷くのであった。




