20、大高城の戦い
十月八日、平手五郎左衛門を総大将とした織田軍一万五千は大高城を包囲した。林八郎左衛門通安、柴田角内勝俊、青山与右衛門秀勝、内藤勝介、飯尾五郎定宗ら織田重臣が揃う。
大高城は固く城門を閉じ、徹底抗戦の構えを見せた。
松平は大高城を援護するつもりのようだが、岩崎城の織田孫三郎を無視できず、援軍を出すことができないでいる。
織田家本陣。平手五郎左衛門は笑みを浮かべながら、床几に座っていた。居並ぶ重臣たちも余裕たっぷりの態度である。そこに陣幕を割って男が入って来る。
「おお、左馬助殿、よう来られた」
五郎左衛門は床几から立ち上がると、相好を崩す。山口左馬助教房、鳴海城主でこの辺りの有力国人だ。信秀に与しているが、同盟関係にあると言っていい。
「左馬助、二千五百で参陣仕る。なに、五郎左衛門殿、我らが力を合わせれば、大高城など何ほどのこともあらん」
左馬助の態度に五郎左衛門は嬉しそうに何度も頷く。
「我らは城の東側から二の丸を攻める」
「相分かった。我らも力攻め致す」
五郎左衛門は返事する。ただ、内心は穏やかではない。
(この食わせ者め、どうせ松平次郎三郎の息がかかっておる。手柄を横取りされてはかなわんわ)
平手五郎左衛門は内心をおくびにも出さず、ニコニコと笑うと床几にまた座るのだった。
大高城攻めで活躍したのは例によって千代丸の部隊であった。山口勢が程々で撤退すると勢いに乗った大高城の花井勢は討って出た。青山勢、柴田勢が蹴散らされると、千代丸の部隊が花井勢とぶつかった。
「槍衾で足止めじゃ―――――っ」
大将の滝川八郎が声を張り上げる。千代丸と打ち合わせをした通り、新品の長い槍で敵を足止めする。騎馬武者たちは驚いて馬を止める。
「弓矢を放て――――――っ」
今度は梶原平九郎が怒鳴り声を上げる。千代丸自慢の弓隊が一斉に矢を放った。騎馬武者が倒れ、馬の嘶きが戦場に響く。
法螺貝が鳴る。逃げていた振りの青山、柴田らが戻ってきた。槍自慢の荒れくれ武者が花井勢に突っ込む。
「おお、見よ。八郎殿! 敵が逃げていくわ!」
平九郎が嬉しそうに言う。滝川八郎も満面の笑みだ。
「フフフ、我が策なれり。花井勢、何するものぞ!」
二人はガッチリと握手する。千代丸の期待通り、二人は大戦果を挙げたのだった。




