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【電子書籍化】伯爵様、どうか私を雇ってください!~婚約者を奪った姉を祝福するなんて無理です~  作者: 別所 燈


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24 伯爵様のご命令


「これから、あんたは俺の秘書だ」

「はい? あの……でも、お仕事とかあまりよく分かりませんが」


 突然の申し出でに驚いた。


「いや、今までも十分手伝ってくれている。もっと早くに見直すべきだった」


 そういわれて悪い気はしない。仕事ぶりを認めてもらえたようで嬉しい。


「ありがとうございます」


 素直に礼を言うと、ぺらりと紙を一枚渡された。


「契約書だ。そこに日付とサインを」


 用意がいい。それにいつになく強引だ。仕事内容の説明もないのだが………。チラリと主人の顔をみる。


「なんだ。ほかに働くあてでもあるのか?」


 今度は少し心配そうに聞いてくる。


「まさか、ありませんよ。そんなところ」

「ならば、今すぐサインを」


 まだ契約書も読んでいないのにサインをせかす。仕方がないので、取り合えずサインをした。書き終わるとすぐに契約書を取り上げられる。彼はそれを大事そうにポケットにしまい込む。


 仕事内容や給金について説明はないのだろうか。いずれにしても今のリズは十分金を貰っているので、全く不満はない。


 詳しいことは、あとで彼が機嫌のよいときに聞こうとあきらめる。どうも今日はいつもと様子がちがう。どことなく余裕がない。


「それで、王都の遣いは、何しにきたんだ。今更何のようだ?」


 やはり彼の耳にも入っていたのだ。しかし、「今更何のようだ」とは穏やかじゃない。


「家に帰って来いと」

「冗談だろ? あんたに行きの旅費しか渡さなかったんだ。そんなところに帰る必要はねえだろ」


 ダニエルがリズの為に腹を立ててくれていることは分かる。しかし、いつもの穏やかな彼はどこへ行ってしまったのだろう。リズも調子が狂ってしまう。


「ええ、もちろん、帰る気はありません。ただ、母が馬車の事故に遭い、その後のかげんが悪いというので様子を見に行こうかと思っています」


「かげんが悪いというのはどれくらい?」

「足が少し不自由になり、歩行訓練が必要なのだそうです。それで、少しお休みを」

「駄目だ!」


 言い終える前に、強い口調で拒絶された。


「え?」


 リズは目を白黒させた。二人きりのとき、ダニエルに遠慮などしたことはないが、さすがにちょっと怖い。これほど強硬に反対されるとは思わなかった。彼の青い瞳が怒りに煌めいている。リズは射すくめられたように動けなくなった。いつもの主人ではない。


「命に別条はないのだろう? 危篤ってわけでもない。休みは許可できない。これから、農場は繁忙期だ、領地は忙しくなる。あんたの力が必要だ。勝手をいって悪いが、例え一週間でもあんたに居なくなられたら困る」


 確かに休みを貰うとなると一週間以上なければきつい。王都までは乗合馬車を使うと往復で六日かかる。

 ダニエルは恩人だ。そうまで言われて、王都に行くことはできない。


 ただ本音ではどこか、ほっとしていた。リズも家のことは気になるが、なるべくならば行きたくはなかったのだ。一応言い訳はできた。そんな自分に罪悪感をもつ。


「わかりました。それでしたら、使いの者が街の宿で私の返事を待っているので、明日、ちょっと街へ行ってきます」

「なぜだ? わざわざ行く必要はないだろう。言づけすればいい。明日、人を向かわせる。宿はどこだ」


 高圧的で命令口調だ。今日のダニエルはおかしい、ちっとも優しくない。さっきからちょっと横暴だ。腹が立つよりも、少し悲しくなって主人を見上げる。彼は立派な領主となり、考え方も変わってしまったのだろうか。


「大丈夫だ、リズ。そんな心配そうな顔をするな。あんたの家の使いの者にはいくらか見舞金を包むし、失礼のないようにする。悪いようにはしない」


 ダニエルが宥めすかすような口調になる。そう多分実家はリズに金を無心してくるだろう。それは薄々わかっている。


 ダニエルの言葉に納得したわけではないが頷くしかなかった。それに金も包んでくれるという。良い雇用主ではないか。


 これでその話は終わりとばかりにダニエルが話題をかえた。


「今回視察に行ったところなんだが、とてもいい温泉が出るんだ。膝や腰の痛みに効くらしい。今度ネリーを連れて行こうかと思う」


 いつもの彼らしいことを言い出したので、リズはほっとした。表情も打って変わって穏やかだ。


「だからこれから道や宿を整備しなくてはならない。あんたにも一緒にきてほしい。今後観光資源として活用したい」


「私がですか?」

「ネリーも喜ぶ」


 と言って不器用な笑みを見せる。やっといつものダニエルに戻ったようだ。今度はリズも視察に連れて行ってくれる。屋敷から出ることは殆どないので、楽しみだった。





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