11 再び敵襲来?
リズが屋敷に住み始めて一週間が過ぎた頃、夜半にゴードンとアンヌ夫妻が再びやってきた。リズは出ない方が良いということで、台所でぽつんと一人薄い茶をすすっていた。
ネリーはとっくに就寝している。今日も朝が早かったのに妙に目がさえて眠れない。暖炉の温かな火をみても、いつものように癒されることはなく、湧き上がる不安はおさまらなかった。
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ゴードンは不機嫌な様子で、本館で食後の茶を飲んでいた。となりには同じく、眦を吊り上げたアンヌが座っている。
「なぜ、まだ、あの女を置いている?」
ゴードンがダニエルを詰問した。
「ああ、ここに来て、すぐに追い返したんじゃ、体裁が悪いだろ」
叔父はダニエルの恩人だ。今も面倒を見てくれている。ここは彼のいう事を聞くべきなのだろう
が、リズは心底困っているようだ。まさか荒れ野に放り出すわけにもいかない。
だが、さすがに彼女には帰る家がないようだとは叔父に言えなかった。
「体裁だと? お前はそんなことを気にする必要はない。私が、万事取り計らう。とにかくあの女は叩きだせ」
叔父の鼻息は荒い。
「そうはいってもネリーも、もう年だ。一人じゃ仕事も辛いだろ」
穏やかな口調で切り返す。言い争うことが目的ではない。
「ならば、街か、近くの村から人を雇い入れればよかろう」
「それは、前におじきがダメだといったじゃないか。うちの恥が知れ渡ると困ると」
ダニエルは叔父に一切をまかせて、家のことも領地の事も何もしていない。その負い目があるので、それほど強くは出られない。
「なんだ。お前、あの女に何を吹き込まれた。財産目当てに決まっている。絶対に家には置いておけん、いまから、放り出す」
ゴードンが癇癪を起し、立ち上がった。
「いい加減にしろよ。こんな夜更けに若い女を追い出すわけにいかないだろ」
ダニエルは叔父を必死に宥めるような口調で言った。だいたい、この家は古いばかりで、財産などあるとは思えない。
「ならば、明日だ。明日、あの女を追い出せ!」
「あなた、少し落ち着いて。なんでもあの女、ウォーレン伯爵様からの紹介状をもっているというじゃない。すぐに追い出したりしたら、あちらの顔も立たないでしょう。王都では結構な実力者らしいし」
アンヌがとりなしたので、ダニエルはほっとした。叔父夫婦は、なぜ、そんなにリズを嫌うのだろう。彼女は急ごしらえの寝所に文句をいうこともなく、今のところ一生懸命働き、ネリーとも仲良くやってくれている。
最初は気取った話し方をするから、気位が高く、こちらを見下しているのかと思っていたが、そんな素振りはないし、馬鹿にしてくるようなところもない。本当に困っている様だ。
「お前は世間を知らんのだ。だから、都会から来た綺麗な女に騙される。だいたい上流社会で育った女が、お前のような粗野な田舎者を相手にするわけがないだろう?」
ダニエルは叔父の言葉にかっとなった。別にリズに懸想しているわけではない。
「冗談だろ。そんな事、考えたこともない!」
ゴードンはダニエルの剣幕にたじろいだ。彼は口調こそ乱暴だが実父に似ず温厚な性格で、本当に怒ることはめったにない。
だからこそ少し嫌な予感がした。
「あなた、ここは、少し様子を見ましょうよ」
夫人が口を挟み、二人をとりなす。
「そうだな。じゃあ、三月だ。三月たったならば、何かしら理由をつけて追い出せるだろう」
ダニエルは不承不承頷いた。リズが言った「帰る家がない」という言葉が気になっている。あれはいったいどういった事なのだろう。深く事情は知らない。
そのあとダニエルは、リズがやめるときにいくばくか金をもたせることを叔父に約束させた。押しかけとはいえ、働かしておいて無一文で放り出すわけにはいかない。
ダニエルが、ここまで叔父に強く出たのは初めてだ。いままで、金など興味もなかった。農地で人を使い監督はしているが、日々食べていければよいと思っていたし、屋敷の修繕などもする気はない。
だが、リズはどうなのだろう。しなくてもいいと言っても暇をみてはサロンの掃除をしている。そしてぼろい絨毯を替えたがる。
理由を尋ねると「いずれ社交が必要になります」など澄ました顔で言ってのけた。自分とは縁の無いものとしか思えないが、ネリーが彼女をいたく気に入ってしまったので好きなようにさせている。
リズは早口ではきはきとしゃべるツンとした感じの美人だ。行動もテキパキとしている。ここいらへんではおよそみないタイプだ。だが、気さくで、働き者。言われなくても自分で仕事を見つけて来て働くので正直助かってる。
ネリーの負担が減るのはいいことだ。できればここにいて欲しい。




