10 完全勝利タクティクス初級編8
「おい、クズ。企画書はできたのか? どうせゴミのような落書きしか書けないのによ。てめぇのせえで、こちとら偉い迷惑をこうむっているんだ! 分かるのか、クズ!」
オフィスに帰ると同時に、部長のネチネチ攻撃が始まりました。
私は部長に視線を向けます。
「ぬぅ? 何か文句か? 俺がやる気を失ったらどうなるのか分かるのか? いっそのこと、思い知らせてやろうか? 俺がこの社にもたらしている利益はだなぁ~」
「存じておりますよ。萩原部長が優秀なことくらい」
「あぁ?」
部長は目を丸くしました。
「萩原部長は優秀な営業マンです。私ではとてもマネができません。いつも尊敬しております」
「は……ははは。だははははは。キサマ、もしや資料作りがうまく言っていないんだな。そうそう、ダメ人間は尻尾を丸めて謝っちまうことだ。キサマは無能なんだから、それを自覚して俺にペコペコしていりゃいいんだよ、クズが」
部長を細めた目で見ました。
「な、なんだ? 文句あるのか?」
「文句などありません。ご要望があるのだけです。資料はできているのですが……」
「ふん、どうせくだらない落書きなんだろ」
「いえ、勝つために作り上げた傑作です。まぁ、ご覧ください。社長もどうぞ」
社長はスマホでゲームをしていますが、プリントアウトした書類を強引に手渡しました。
「読むのが面倒でしょうから、要点を説明します。スマホで作業をしながらお聞きください」
続いてみんなの席にも配り、私は企画書の内容を一方的に話し始めました。
社のみんなは各々の作業をしていましたが、いつしか私の話に耳を傾けていました。
社長もゲームをやめて、私の話に集中しています。
話が終わると、あの社長が拍手をしたのです。
「いけるんじゃないの、それ! いいよ、ともていい!」
社のメンバーも続きました。
「それ、売れそうだよ!」「足立さんって意外に脳みそ使えるんだね。びっくりしたよ」「バカのくせに良く考えたね。すごいよ」「俺のクライアントにも提案したいけど、それ使っていい?」
部長は面白くないといった顔で、窓際に行きタバコをふかしています。
また違う一人が口を開きます。
「へぇ~。こんな制度があるんだね? もしかして、うちの会社も使えるんじゃないの」
助成金を貰うってことは、国に書類を提出するのよ?
ブラックがバレるからやめときなさい。
私は立ち上がり、みんなに向かって話を続けました。
「でも、この資料だけでは柿浦学習会を落とすことはできません」
「どうして? やってみなければ分からいよ」と社長は首を傾げました。
「成功させるには皆さんの協力が必要です。特に萩原部長の協力なくして成功などあり得ません」
部長は、タバコを床に落としました。
すぐに拾い灰皿にゴリゴリ押し当てると、不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいます。
「萩原部長。あんたでしかできないと言っております。私は営業の素人です。どうか助けてください」
豆鉄砲をくらった鳩のような顔で私を見ていましたが、しばらくして肩でクククと笑い、
「ふん、しょーがねぇなぁ。分かったよ、クズ。今回だけだぞ。クズのキサマに、真の営業マンが直々に手本を見せてやらぁ」
「ありがとうございます!」
スマホがバイブレーションが揺れました。
田中さんからのメールです。
そこには『くれぐれも壁だけは殴るなよ。痛いだけだから』とありました。




