エピローグ
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m(__)m
魔道飛行船の名前を≪スキーズブラズニル≫に改名しました。
過去の話も改名したはずですが、改名し忘れている所があれば直していきます。
さて、第一章 誰が為に捧ぐ剣か「ヴァンパイアの花嫁編」エピローグです♪
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二夜の月が空に浮かび、暗い暗い夜の闇が広がり、ただ重力によって落ちていく二人だけの世界。
実験台にされ、番号で呼ばれ続けた彼の、ただただ死臭が漂う狭い檻の中で闘い続けた世界。
ヴァンパイアの花嫁の呪いの刻印――呪印により、ハイエルフの彼女にとって、理不尽に傷付けられるだけのクソったれな世界。
そんな腐敗した世界で互いに出逢い、彷徨う砂漠で、たった一粒の宝石――愛を見つけ出した二人は、愛しい人ときつく抱き合いながら、普通の世界とは逆さまに二人は堕ちていく。
呆れた顔で優しく見つめる紫苑色の瞳。
普段は掏れた表情で隠された純真を、剥き出しにした蒼い瞳。
目と目を合わせ落ちていく……。
二人は抱き合い、互いの唇と唇の間に愛が――引力が発生したかの様に、ゆっくりと引かれ合う。
二つの唇は、愛を紡ぐよりも口づけを交わす。
二人の初めての口づけは、苦い鉄の血の味がした。
温もりが溢れたベッドに漂い、シーツのドレスに包まるマリアは、微睡みの中、瞼を閉じた愛しい青年の横顔を見つめる。
まだ夜も明けない中途半端な時間に目を覚ましてしまったマリアは、一糸纏わぬ姿で互いの愛を何度も何度も貪り合った少し前を思い出し、頬と長い耳を朱色に蒸気させる。
もう、あと数刻もすれば消えてしまうだろう窓から差し込む月光が、カインの血塗れだった銀髪を縁取る。
普段は皮肉気な三白眼ぎみの眼をしている紫苑色の瞳。
獣の様に獰猛に笑う唇。
そんなカインも今宵はマリアと同じく一糸纏わぬ姿で穏やかにシーツをかぶって眠り、狭いベッドの世界で今二人は今迄生きてきた中で、最高で幸せな安らぐ時間を刻んでいた。
カインの腕を枕にし、彼の逞しい胸板に頬を寄せるマリアは、カインの優しい鼓動に耳をかたむけて再び瞼を閉じる。
マリアにとってあれ程縁遠かった安らぎというものが今、形になって此処に確かにあった。
少し前までは、まるで傷付け合うことすら恐れずに、何度も何度も一つになって、激しく二人で愛を交わし合っていたのに……。
そんなことを思い出しながら、マリアは不死の森の廃城から帰ってきて初めて、自分の胸に刻まれた今はなきヴァンパイアの花嫁の呪いの刻印に感謝する。
あの夜、カインはマリアの撃ったフェンリル殺しの弾丸が原因で死なないよう、廃城から飛び降り、自ら命を絶つ選択をした。
だが、例え何があっても彼を絶対に失いたくはないと、彼が死ぬのならば自分も一緒にと、愛するカインを撃ってしまい、絶望し、両手を愛する者の血で真っ赤に染めたマリアの脳に、いや、心に浮かんだのはそんな想い。
ヴァンパイアの花嫁であることで、幼い頃から刷り込まれてきた恐怖に縛られ、身を縮こまらせていたマリアを、そんな強い想いが打ち壊し、王の間の床を蹴らせる。
そして、両手を広げ、ゆっくりと後ろに倒れて空を仰ぎ、身を投げ出し始めたカインの元へと走らせたのだった。
不死の竜の亡骸を登り、王の間に空いた穴から何の躊躇いもなくマリアは、ただカインにもう一度逢う為に、自身も王の間から飛び降りた。
風の精霊魔法を使い、その力で自身の身体が落ちる速度を上げさせると、先に落ちたカインへと追いつかせる。
追いついたマリアは、世界と逆さまになりながらカインの身体を空中で抱きしめた。
そこからのマリアの記憶は曖昧だ。
見つめ合い、カインと口づけを交わしたことなら鮮明に覚えているのだが……。
胸に刻まれたヴァンパイアの花嫁の呪いの刻印が、ヴラドが死んだことにより消えたハズだというのに再び胸に浮かび出し、熱を持ちながら紅く刻印が光る。
すると、その光がカインとマリア、二人を包み込む様に広がると、なんとカインの胸に空いていた銃創が、みるみるうちに塞がりだしたのだ。
カインの胸にマリアは耳を当ててみると、弱々しかったカインの心臓は、段々と通常の鼓動を刻みだし、青かった顔色も赤みが差し、生命力を取り戻し始める。
死の淵からカインが蘇ったことを目を見開きながら確認したマリアは、風の精霊魔法を操り、なるべく地面にぶつかる衝撃が軽くなる様にし、不死の森の地面に二人して抱き合いながら転がったのだった。
あの二夜の月の夜の奇跡を思い出しながら、再びマリアは眠りに落ちていく。
ミズガルズ王国、王都アース。
その北にあるスラム街の酒場、ノースオブエデン。
昼過ぎ辺りに、この酒場に一人の聖騎士が顔を出した。
「やぁ、キース。カインはいるかい?」
金髪碧眼の所々に鎧をつけた白いコートを羽織ったアベルが疲れた顔でノースオブエデンの扉を開き来店する。
「いらっしゃいませアベル様。カイン様はまだ眠っているかと……」
キースが一礼して答える中、アベルは酒場のカウンターテーブルの席に座る。
すると、まるでアベルが来ることと、その時間を予知していた様に、キースは良い状態で用意していた紅茶をアベルに淹れ、カウンターテーブルにソーサーに乗ったカップを置く。
再び一礼し「カイン様を呼んでまいります」と一言口にし、キースは居住スペースの扉を開け、奥へと消えていった。
それをアベルはカップを軽く上げることで感謝の意を示し、紅茶を一口飲む。
アベルが紅茶を楽しみながら暫く待っていると、カウンターテーブル奥の、居住スペースに繋がる扉が開き、そこから気怠げに現れたのは上半身裸のカインだった。
カインは欠伸をひとつすると眠気眼でカウンターテーブルを飛び越え、アベルの横の席へと座る。
「それで? 今日はどうした?」
面倒そうにカインがアベルに質問する中、カインの為に扉を開けていたキースがカウンターに入って来ると、手早く棚に置いてあるウイスキーボトルを手に取り、グラスにウイスキーを注ぎ水で割ってからカインの前に置く。
それを当たり前の様にカインは一口煽る。
「とりあえず、ひと段落したから報告にね……明日、ハイエルフの女海賊マリアが絞首刑されることに決まったよ」
アベルも紅茶をまた一口飲む。
「そうか……」
「これでハイエルフの女海賊マリアは死ぬ……」
「罪人か?」
「勿論。海賊は罪人だ」
「いい女だって噂だったんだがな……勿体ない」
「今君のベッドで眠ってるであろう美人と瓜二つだそうだよ?」
「そいつは驚きだ」
仕事に忙殺されそうなアベルが昼過ぎまで眠っていたカインを皮肉気な目で見ると、カインはグラスを片手に大げさに肩を竦め、眉を上げる仕草で驚いてみせた。
「だから明日の外出は控えてくれと、マリアンヌさんに伝えておいて欲しい。王都の民衆に混乱と万が一があると困る」
「了解……それよりマジでマリアにそっくりなのか?」
「はぁ……他の女性に興味を出すなんてマリアさんに聞かれたら撃たれるぞ? いや、マリアンヌさんにか……あぁ、もういい! 性別と髪の色や目の色に背丈……共通点はそれぐらいさ。ハイエルフじゃなくてエルフでマリアさんには似てないよ! でも誰も気付かないさ。勿論、偽装もちゃんとする」
「わかった、わかった。冗談だろ? ……いや、やっぱりマリアにさっきのことは言うなよ?」
悪友の冗談と仕事の忙しさで眩暈を覚えそうなアベルは、紅茶を飲み心を落ち着かせた後、カップをソーサーに戻し、呆れた溜息を吐く。
カインは慌てて悪友に口止めをし終えると、キースにウイスキーをもう一杯頼み、昼過ぎから酒を楽しんでいた。
聖騎士長という地位にいるアベルは、そんな自由奔放なカインを見ていると、なんだか羨ましくなってしまう。
ハイエルフの女海賊マリアの絞首刑。
その刑を受ける者は勿論マリア本人ではなく、元々絞首刑を言い渡されていたエルフの罪人だ。
今回のヴラド暗殺によるカインへのフレイヤからの口止め料といった所らしい。
勿論フレイヤの真の考えは誰にもわからない……。
とにかく、これでマリアは呪われたヴァンパイアの花嫁の人生から、再出発できることになった。
「さて、ここからが本題かな? 僕らの予想通り、フレイヤ女王陛下は、国境で廃城に魔物がいた知らせを受け、魔道飛行船≪スキーズブラズニル≫ですぐに帰っていった様だよ……公国側も王であるツェペシュ公を殺されても、こちらに文句らしい文句や追及は形式上程度しか言ってこないうえ、公国には特に混乱らしい混乱も起きずに、すぐさまツェペシュ家の第一王位継承権がある者が新たな王に即位したらしい。向こうはすぐさまフレイヤ女王陛下と会談し、戴冠式の話や新しい盟約を結ぶと共に、ドラクレシュティ公国はミズガルズ王国の新同盟国になる」
「ふん。全てあの女の計画通りって訳か」
ミズガルズ王国の状況を説明し終えたアベルは、素知らぬ顔で紅茶を飲み、カインは鼻でひと笑いすると、またグラスの中のウイスキーを煽る。
「そういや、礼がまだだったな。傷付いて意識のなかった俺をこの店まで運んでくれて、ありがとよ」
アベルの方を向き、カインは指二本を立てて軽く振ってポーズをすると、アベルは溜息を吐いた。
「別に大したことじゃないさ。僕達が廃城に辿り着いた時にはもうツェペシュ公の件は全てカインが片付けてくれてたからね。それくらいじゃ釣り合わない働きをしてくれたんだから礼なんていいさ」
そう答えるとアベルはティーカップを上げてカインの礼に返事をする。
「流石にドラゴンゾンビに君が飲み込まれた時には焦ったけどね。でも運が良かったのかな? そのドラゴンゾンビが君を廃城の王の間まで運んでくれた訳だし」
「さてな……」
アベルのおどけた調子に答えるカインは、肩を竦めグラスに残った酒を一気に煽り、マリアのヴァンパイアの花嫁の呪いの刻印の秘密を思い返すのだった。
不死の森の廃城の王の間に、オブジェの様に朽ちていたハズの不死の竜――ドラゴンゾンビが首を動かした。
そしてドラゴンゾンビの足元に黒い魔法陣が描かれると、ドラゴンゾンビが黒い光りに包まれ、その光の中から黒いスーツに白衣を羽織った黒髪オールバックの魔神が現れた。
「ふむ……あのハイエルフの娘に刻まれた、ヴァンパイアの花嫁の刻印に仕込んでおいた僕の術式。フェンリル殺しの呪いを解き、蘇生――生命の再生を活性化させる魔術は正常に発動したようだね。アレは魔弾に近づいて真に愛する者への祈りでしか発動しないから心配だったんだけど、よかった、よかった。これでやっとカイン君も愛を知り、愛されることができた訳だね」
精悍な顔立ちをし、紫苑色の瞳をした男は、片目にできた斬り傷に手で触れると、無詠唱、無言で魔術を発動させ片目を再生させる。
「おっと、イタタタタタタ……なかなか強い力で踏みつけてくれたもんだねぇ」
すると少しおどけた調子で魔神ロキはカインに憎々し気に踏まれた腰をさすると、ヴラドとカーミラが片付けられた王の間で、自身が不死の竜に変身し突き破った壁から、外を眺める。
「ふむ。しかし、これでまた獣が――No.666番が人へと、また一歩近づけたと……フフ」
風が吹き白衣が靡く中、胸ポケットに挟まっている、小さな丸い縁の眼鏡を取り出して掛けると、満足気にニヤリと口角を上げて笑う。
「まぁ、カイン君には僕の存在はバレバレだったみたいだけどね……まぁ、あれだけ舞台を整えちゃうとねぇ……でも例え僕が何らかの方法で助けるのを読んでたんだとしても、王の間から飛び降りたのには、なかなか感心させられちゃったねぇ……感動したなぁ。本人はあのまま死んでもマリアちゃんが殺したという事実を屁理屈ですり替える目的は果たせる訳だし……分の良い賭けだったんだろうけどね」
機嫌良く丸眼鏡の真ん中にあるブリッジを中指一本で押し上げる。
「いやぁしかし……ツェペシュ公に与えた僕が作った試作品の漆黒の鎧と漆黒の剣の実験データも取れたしね。まさか僕が作った漆黒の剣が、まだ覚醒前とは言え、あのガラスの剣とあそこまで打ち合えるとはねぇ……これは嬉しい誤算だ」
魔神ロキは誰も居なくなった王の間で、今は亡きブラドへのタネあかしでも聞かせるように一人で喋る。
「皆、上手く踊ってくれたよ。本当に今回の舞台に立ってくれた演者の皆様には色々と感謝だね。特に本命だったカイン君のフェンリルの因子を覚醒させてくれたことには大、大、大感謝だよ……万が一の保険も役に立ったし……さて、この舞台も名残惜しいけど、次のやるべきことに取り掛からなくっちゃいけないからねぇ」
一人の英雄王が消えた王の間で、実に楽しそうに自らの策や想いを語る魔神ロキは、カーミラに渡したフェンリル殺しのフリントロック式の銃を手で回して遊び、無邪気に笑う。
「さて、皆さま! ヴァンパイアの花嫁にされたハイエルフの娘の物語……楽しんでもらえましたか? これにてこの物語は閉幕です……では、また次の舞台で皆様と出会えることを願います」
不死の森の廃城の誰も居なくなった王の間にて、まるで誰かに語る様に喋り続けた魔神ロキは、玉座に向かい手を胸に当て、深々とお辞儀をする。
「あれ? 皆様、お帰りになられない? まだまだ舞台を観足りないということですかね? ふむ……では、次の舞台の開幕のベルを……鳴らすとしますかね」
顔を上げ、不気味なほど無邪気に笑う魔神ロキは、手にした豪華なエングレーブが施されたフェンリル殺しのフリントロック式の銃のハンマーを親指で起こすと、銃口を真上に向け引き金を引いた。
閃光と爆発音が響き、これでまた彼の狂った舞台が幕を上げることになるのかもしれない。
願わくば、ハッピーエンドの物語の舞台を……。
楽しんで頂けていたら幸いです♪感想、ブクマ、評価など励みになるので、どうかお願いします!!
(`・ω・´)ゞ
さて、第一章はこれをもって完結ですが、物語は二章へと続きます!!
一章が完結しましたので、今週の投稿はこれで終わろうかと思っています。
そして二章へと続けるにあたって、少しだけ日にちをもらえたら、ありがたいと思っています。
後は今月は少しリアルが忙しくなるので投稿を待って頂きたいのも理由の一つです。
二章の書き溜め調整と、できれば一章のクオリティ上げの為、改稿したいなとも考えています。(既に読まれている方々が読み直す手間が無いよう、話自体は今の所変えるつもりはありません。あくまでも良くしたいと考えているだけです)
なので、第二章は待って頂ければ幸いです。
m(__)m
詳しい事や改稿した場合は、活動報告にてお知らせしたいと思います!!
これからも、どうか≪誰が為に捧ぐ剣か≫を、よろしくお願いいたします!!
(`・ω・´)ゞ




