シナリオを書き換えろ
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不死の森の廃城、王の間の玉座。
その後ろの壁の上部に作られた、丸く大きなガラス窓からは、二夜の月の光が差し込み、天井から吊るされたシャンデリアや、壁や各所に設置された燭台に置かれた蝋燭の火の灯りは、夜の王の間を怪し気に照らす。
そんな王の間の外壁を突き破り、顔から身体の半ばまでを王の間に横たわらせて朽ちる血塗れの不死の竜――ドラゴンゾンビは、無残な姿で地獄のオブジェの様にされていた。
そのドラゴンゾンビに丸呑みにされ、入り込んだ竜の体内を破壊し、斬り裂き、大きな口をこじ開けて脱出してきたのは、生臭く血塗れの姿でいつもの様に不敵に笑うカインだった。
地獄の大公爵バアルと戦った時に負った傷――特に頭と額を割った傷などは、通常の人間として考えれば驚異的な早さですでに塞がっており、無傷のカインはガラスの剣の刃を肩で担ぎながら、悠然と王の間を歩き、自身の使い魔である始祖ヴァンパイアの女王、シャロンと言葉を交わす。
時折、身体中に着いた汚れが気になるのか、鬱陶し気にワインレッドのレザーコートや、顔中にべっとりと付着した、血や肉片等を片手で拭っている。
髪などはもはや血の色が斑に広がり、銀髪とは呼べない様になっていた。
不死の竜の腐敗臭が広がる中、カインはゆっくりと、王の間に敷かれた赤く重厚な絨毯を尊大に歩き、悪ガキの様に愉快気にヴラドを見て品定めし終えると、ある程度の距離で足を止める。
「ヴラド=ツェペシュ公。本日は結婚式にお招き頂き、大変光栄に存じます」
カインは王の間の大理石の床にガラスの剣を突き刺すと、右足を後ろに軽く引き、その引かせた足の爪先は地面に着けたまま踵は浮かせ、右手は直角に曲げる様に自身の腰の後ろへとまわし、軽く上げた左手をクルクルと回してから大仰に、そして道化の様に掌を胸の辺りに当てて止め、ヴラドの凍える様な紅い瞳を見つめながら、崩れず続ける不敵な笑みを浮かべたまま、軽く頭を下げてお辞儀をするボウ・アンド・スクレープをした。
「ふん。我は貴様の様な下賤な輩を招いた覚えはないが?」
カインの破天荒な登場と無礼な立ち振る舞いにヴラドは、マリアが目覚めた時に見せていた歓喜と狂気に染まった笑みではなく、冷たい表情で眉間に皺を寄せ、一度不機嫌に鼻で笑うと、ボウ・アンド・スクレープで挨拶をしたカインを鋭くした紅い目を細めて睨む。
片手を腰に回され、ヴラドに抱き抱えられているマリアはというと、先程切り札の呪詛が刻まれた銀の弾丸をヴラドの額に撃ち込んだにもかかわらず、それを平然とヴラドの歯で受け止められ、見せられたヴラドの歓喜という狂気に満ちた笑顔に呑まれていた所だった。
ただでさえそんな常軌を逸した状況の中に、突如外壁を壊して突っ込んできた不死の竜の登場と、その竜の内側から腹を斬り裂き、大きな口をこじ開け、血塗れの姿で王の間に現れるカインの姿に、もう唖然とするしかなかった。
その後に、相変わらずの軽い調子で立ち振る舞い、仮にも一国の王に不敵に笑い相手を挑発するカインの言動など、マリアの脳では処理しきれるはずがない。
呆然とするマリアを他所に、常識を捨ててきたヴラドとカインの会話は進む。
「何をしに来た? 帝国が造りし殺戮兵器よ。我は貴様ごときつまらぬ人間に構っているほど暇ではない。招かれざる客はさっさと立ち去るがいい」
漆黒の剣を手に、玉座の前にマリアを抱き抱えながら立つドラクレシュティ公国の君主、ヴラド=ツェペシュが、威風堂々と言い放つ問と、全身から発し始めた覇気に、王の間の空気がピシリと凍る。
「そりゃ悪かったな。まぁ、別に大したことをする気で来た訳じゃないから気にすんなよ? よくあることをしに来ただけさ。そう、結婚式を挙げる花嫁をかっ攫うってヤツだ。な? 大したことじゃないだろ?」
常人であれば気を失いかけない程のプレッシャーに、お辞儀をした格好のカインが、悪ガキの様にニッと唇を三日月に裂いて笑うと、ボウ・アンド・スクレープの恰好を解き、大理石の床に刺したガラスの剣を引き抜く。
「ほう? 我の花嫁を貴様ごときが我から攫うと? 笑わせてくれる」
「なら、そのまま笑っててくれれば楽で助かる。勿論その間にマリアは俺が攫わせてもらうがな?」
漆黒の鎧の内側から放たれる覇王の風格と、紅く光るヴァンパイの瞳に剣呑さをはらませたヴラドの眼光と、三白眼で紫苑色の瞳に、野性味を一層帯びさせたカインの眼光がぶつかる。
「先程も言ったのだがな……ふん。まったく馬鹿が多くて困る。いいか? このハイエルフの女は我の花嫁、我の女、我のモノ……王の所有物を我から奪うと言うのか? たかが帝国が造った人形風情が?」
まるで全ての王だとでも言う様な物言いの漆黒の鎧を纏いしヴラドは、生命あるもの全てが竦み、ひれ伏してしまいそうになる程の想像を絶する威圧で、王の間全体の空気すらをも支配下に置いた。
「ふん。マリアがアンタの花嫁? アンタの女? アンタのモノ? 笑わせるなよ……その女は俺の花嫁になるヤツだ。俺の愛する女だ。髪の毛一本から足の爪の先まで俺のモノだ。だからその女を俺から奪おうってんなら、例え相手が王だろが神だろうが容赦はしない。誰にも俺からマリアを奪わせる気はない」
漆黒の覇王の威圧に屈せず、王の間でガラスの剣の刃を肩に担いで、首を傾げヴラドの宣言を馬鹿にした様に鼻で一つ笑うと、片方だけの口角が、まるで切り裂かれていくかの様につり上がり、不敵に笑うカインは初めて道化の仮面を剥がす。
先程ヴラドに同じ様に自分の女だと言われたマリアは激昂したが、同じ様な言葉でも、カインの口から紡がれた暴力的な愛の言葉には、マリアは一瞬で脳が熱でふやけてしまい、言語能力と思考能力が全く機能しなくなった。
そんなマリアの瑞々しい桃色の唇からは何の言語も紡げず、ただただ口をパクパクとさせマヌケ顔を晒してしまう。
普段の軽い調子や、ふざけた態度とは違う、カインから口にされた愛の言葉に、自身でも呆れる程にヤられてしまっていた。
いつもの強気な威勢は何処かに吹き飛んでしまい、自身の頬とエルフの特徴である長い耳までをも、マリアは朱色に蒸気させてしまうだけだった。
「なるほど……我が花嫁も満更ではない様だな。ならば貴様は我が直々に花嫁の前で殺してくれよう。そして人並みに恋などしてしまったこのハイエルフの女に、今一度思い出させてくれよう……自身が何者なのか、自身のせいで愛する男が傷付き、苦しみ、死んでしまう様をじっくり見せつけてくれようぞ。さすればその苦しみがヴァンパイアの花嫁の呪いの糧となり、今より更に熟れよう?」
二本のヴァンパイアの牙を覗かせる口から発せられた言葉とその表情は、先程マリアに見せた歓喜を纏う狂気の笑みに変わる。
カインの言葉で幸福感からくる熱に浮かされていたマリアの身体は一瞬で凍り付く。
今迄生きてきて散々刻み込まれたヴァンパイアの花嫁としての宿命に、膝が笑いだす。
どれ程マリアが頭で忌々しく思っても、本能が恐怖を訴え、身体を支配した。
「はん。世話のかかる花嫁様だな。いいから俺の目を見ろマリア! いいか? 今から俺はヴラドを討ち、お前からヴァンパイアの花嫁の呪縛を断ってやる。だから何も心配するな? わかったら頷け」
恐怖に縛られ怯えるマリアは、再び不敵な笑みを浮かべるカインの紫苑色の瞳を見つめると、コクリと一度頷いた。
「いい子だ……マリア。さぁ、始めようかヴラド? お前が書いたヴァンパイアの花嫁の物語のシナリオは、俺が書き換えてやる」
肩に担いだガラスの剣を下ろし、ガラスの剣の切っ先をヴラドへ向けるカインは、不敵な笑みを獰猛な笑みに変え、犬歯を剥き出しにする。
――集中しろよ? カイン。絶対にマリアに剣を当てるな。ヴラドの奴の剣もだ。奴の剣が弾かれたなら、それすらもマリアに届かせるな。自分の腕一本すら惜しまず代価に払え、全ての凶刃からマリアを守ってみせろ。
自身の心積もりと覚悟を決めると、カインは極限まで集中し、玉座へと続く階段を駆け、硬い大理石の階段を蹴り一瞬でヴラドへと詰め寄る。
マリアへと自身の剣が当たらぬよう配慮しながらも、カインは両手で凄まじい鋭さの斬撃を右斜め上から左斜め下へと一閃させ袈裟斬りを放つ。
「随分と大きく出たな? 人形風情が。やれるものならやってみるがいい」
尊大に答えたヴラドは、片手でマリアを抱えたままカインの凄まじい斬撃を、いとも容易く止めてみせ、口角を上げて笑う口から鋭い牙を覗かせる。
縦と横に交差する刃が甲高い音を立て、刃同士の交差点が小さな軋みの音を上げだす。
だがいつまでも付き合ってられぬとばかりに、拮抗を崩したのはヴラドだった。
ヴラドは漆黒の鎧の硬いブーツで、カインの鳩尾を爪先で蹴り上げる。
だがそれを、カインは剣を下へとズラしながら、ガラスの剣の柄の先でヴラドのブーツの甲を叩き落とす。
「すぐに死んでくれるなよ? せっかく我が直々に相手をしてやっているのだからな!」
蹴りを防がれたヴラドは、ブーツを剣の柄で対処した為に不安定になったカインの剣の構えの甘さを突き、自身の剣の鍔でカインの剣を上へと跳ね上げさせる。
そこに無防備になったカインの身体へと、片手では考えられない程の凄まじい勢いで真っ直ぐに上から下へと漆黒の剣を一閃させ、唐竹に斬る。
すかさずカインは後ろへ飛び、斬撃を躱すと同時に、剣が上から下へと過ぎ去った瞬間を狙い、横薙ぎの一閃を入れ様とするが、マリアに当たることを恐れ、剣を振ることを途中で止めてしまう。
「ちっ」
自身の迷いに舌打ちをするカイン。
漆黒の刃の一閃を避ける為のバックステップの後に僅かに止まってしまったカイン、それを見逃さずヴラドは下から上へとすかさず漆黒の斬撃を一閃させた。
再びバックステップで階段を飛び下りて躱そうとカインはするが、躊躇した為に紙一重で胴体にヴラドの斬撃が掠っており、カインの高い防御力を誇るアジ・ダハーカのワインレッドのレザーコートと共に、腹から胸まで縦に一直線に深く斬られる。
瞬時に痛みと共にカインの肌に赤い血が流れ落ちた。
人一人を抱えたまま正中線を崩すことなく剣を受け止め、二度の斬撃を繰り出したヴラドに、カインは剣を下段に構え更に集中力を増させ様と試みる。
「ふん。貴様……我が直々に相手をしてやっているにも関わらず、剣に迷いを出すとは愚かな……そんなにもこのハイエルフの女が気がかりか? 我と剣を交わすというのに貴様の方に枷があるなど王の矜持が許さぬわ!」
ヴラドは左手に抱えていたマリアの碧眼の瞳を覗き込むと、自身の紅い瞳を光らせて、ヴァンパイアの傀儡の魔眼を発動させた。
術が成功したとヴラドは確信すると、マリアの腰から手を離し解放する。
すると、マリアの瞳は我を失い虚空を見つめながら、玉座があるその場に立ち竦む。
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