漆黒の王
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「古き友よ、我が手に舞い戻れ。デスサイズ!」
自身の考えをヴラドが告げ終えると同時に、シャロンは言葉を交わしながらも組んでいた武器召喚の術式を、片手を横に掲げて発動させる。
この術式は特殊な魔術式を組み込んだ製法で作られた、古代の自我を持った武器を手元に召喚する魔術だ。
古代のこの武器の使い手達は、自我を持った自身の武器を、普段は自分の魔術で創りだした四次元に転移させておき、必要な時に次元に漂わせていた武器を転移魔術の応用で自身の手元に召喚する。
その簡易版が、遠く離れた自我を持つ自身の武器を、手元に再び舞い戻らせるという古代魔術だった。
シャロンはその古代魔術を用い、最も古き友の名――デスサイズの名を術式を発動させて呼ぶ。
それにより自我を持ったデスサイズは呼応し、カーミラよりも本来の主であるシャロンを選び、彼女の手に舞い戻ったのである。
始祖ヴァンパイアの一人であるカーミラが、その古代魔術を知らない訳はなく、自身よりもシャロンを選んで手元を離れたデスサイズを目の当たりにし、恐れおののく。
何故ならば、これで心の底ではずっと気付いていながらも、必死に目を背け、否定し続けていた事実が立証されてしまったからである。
シャロンを見下していたカーミラの高慢な笑みが、恐怖に塗り潰されていく。
「人間の王よ。お主はわらわが知る人間の王の中でも頂に立つ者と認めようぞ。お主に敬意を表して名乗ろう……わらわの名はシャロン。最初の始祖ヴァンパイアにして全てのヴァンパイアの女王。お主がヴァンパイアになったと言うのなら、お主を罰するはわらわの役目。マリア様はわらわの主のお妃様になる御方。悪いが返してもらうぞ!」
堂々と名乗りを上げ、秘めていた女王の魔力を身体から発し出したシャロンは、傀儡の魔眼によって術にかけておいたカーミラの首をデスサイズを回して刈り取る。
とどめとばかりに剣の姿へ戻した蛇腹剣の刃に、魔術式を組み、鋭く心臓を一突きにすると、刃に滅びの魔力を込めて突き刺したまま蛇腹剣を手から離す。
そしてシャロンは何事もなかったかの様に「転移」と、力ある言葉を紡ぎ、その場から消えた。
残されたカーミラは、首が再び王の間の大理石の床に転がり、蛇腹剣の刃をもってして、身体の内側から腐敗していく黒の滅びの魔術をかけられ呻く。
全身にサザンクロスの黒炎によって大火傷を負い、焼け爛れた身体の心臓部から黒い滅びが侵食しだし、カーミラの身体は腐敗が始まる。
シャロンに手酷く攻撃を受けたカーミラは、外に魔力を供給する余裕がなくなったのか、眠るマリアを拘束していた背に輝く魔法陣の赤い光が消え去る。
それにより、眠りの魔術をかけられたマリアは支えがなくなってしまい、何の抵抗もできぬまま、空中からダラリと王の間の硬い大理石の床へと落ちていく。
ヴラドは玉座からすかさず立ち上がり、眠るマリアを受け止めると片手をマリアの腰に回し、傍らに抱き抱える。
眠るマリアを片手で抱き、漆黒の剣を手に玉座から立ち上がったヴラドは、転移により消えたシャロンを警戒し、見えぬのならば視界は不要とばかりに瞼を閉じた。
その次の瞬間、ヴラドの真正面に転移したシャロンは床を蹴り、前へと跳躍する。
ヴラドの横を疾風のごとき速さで通り過ぎ、すれ違いざまにデスサイズの鎌をヴラドの首に掛け、そのまま首を刈り取ろうとする。
だが、それを読んでいたヴラドは、刃まで漆黒な剣の刃を鎌と首の間に滑り込ませ、シャロンのデスサイズの攻撃を防ぐ。
奇襲に失敗したシャロンは、ヴラドを背に一度舌打ちをする。
だがその場に留まることなく、シャロンは次の手を即座に打つ為、素早く行動に出た。
狙いはヴラドに片手を腰に回され、仰向けの体勢で抱えられているマリアだ。
シャロンは後方のマリアへと手を伸ばし、マリアに触れて一緒に転移しようと試みる。
「こんな奇襲が我に通じると? 見くびられたものだな」
が、マリアへと伸ばした手は虚しくも、ヴラドが放つ鋭く黒い刃の一閃によりシャロンの手首は斬り払われた。
シャロンの伸ばした手は虚しく宙を舞い、手首を玉座の近くにボトリと落とす。
「我が剣で散れ。ヴァンパイアの女王よ」
手首が焼ける様に熱い痛みを感じた瞬間、ヴラドが再び斬撃を放とうと、漆黒の剣を天高く掲げたのがシャロンの視界に入る。
紅いマントを羽織り靡かせて、漆黒の鎧姿で漆黒の剣を構える王に、始祖ヴァンパイアの女王であるシャロンですら竦む程の恐ろしい覇気を感じ、全身が粟立った。
「なっ! て、転移」
ヴラドは天高く掲げた漆黒の剣を、凄まじい勢いで振り下ろしたが漆黒の刃は、大理石の床を裂いて止まっていた。
生物としての本能がヴラドの側に居ることを拒否し、無意識のうちに玉座から距離を取り、より離れた場所へと転移魔術を行使したシャロンの額からは、冷や汗が伝う。
何とか空間転移が間に合い、内心ホッとした瞬間、シャロンの首近くの左肩から腹部に向かって熱を持った激痛が走る。
何事かとシャロンは痛みを感じる自身の左肩の方に顔を向けると、驚愕する。
知らぬ間に、左肩の首ギリギリの位置から、身体の内側へと斜めに向かって、上半身が半ばまで斬り裂かれていたのだ。
傷口からは大量の血が噴出し、皮一枚で繋がっていた肩から腹部の身が、ゴトリと大理石の床に落ちる。
「ぐぅわあああああああ!」
傷口を見た瞬間に増した身体を襲う痛みに、叫び声を上げながらも必死にシャロンはその痛みに耐える。
転移が間に合っていたと思っていたシャロンだったが、どうやら完全には避け切れなかった様だ。
もしあのタイミングで転移していなければ、自分は真っ二つだったのだろうと、痛みに耐えながらシャロンは推測するが考え直す。
ヴラドにはヴァンパイアの花嫁の儀の為に、シャロンかカーミラのどちらかの始祖ヴァンパイアが必要なはずだ。
ならば転移することを読んでいたヴラドが、ヴァンパイアであるシャロンが死なない程度の斬撃を放ったと考えた方が正しいのではないかと思い至る。
その斬った張本人であるヴラドはというと、数段登った階段の頂にある玉座の前で、狂気をはらんだ笑みで愉快気に口角を上げ、マリアを抱えながらシャロンを見下ろし佇んでいた。
目が合っている今がチャンスだと、シャロンは傀儡の魔眼を試そうとする。
痛みに耐え、顔を顰めながら、この行為が無駄だとわかっていながらも、それでもシャロンは、紅く瞳を光らせて傀儡の魔眼を発動させた。
シャロンの魔眼を見たヴラドは、瞳が一瞬術の力により揺らぐが、予想通りヴラドはすぐに傀儡の魔眼の力に逆らい、呪術の支配から逃れる。
「お、お主は……ほ、本当に……人間なのかの? いや……元、人間の、ヴァンパイア……なのか?」
「我は王。ただそれだけだ」
シャロンの問いに紅い瞳を光らせて、漆黒の鎧の音金属音を王の間に立てさせながら、紅いマントを靡かせ、ヴラドは尊大に剣を斜め下へ振り払い、刃に着いた血を大理石の床に飛ばした。
言葉を紡ぎながらもマリアを取り戻す為に頭を必死に回転させるシャロン。
実力行使でシャロン一人でヴラドを倒し、マリアを無事救出するのはまず無理だと即座に結論付ける。
ヴラドに抱えられたマリアは今の所無事だが、カーミラがかけた眠りの魔術からは、まだ醒めそうもない。
眠りの魔術は常に術者から魔力を流し込むタイプの魔術では無い為、王の間で今も死に向かい、蛇腹剣が胸に刺さったまま床に転がり、もがき苦しむカーミラはの現状などは関係ない。
あるのならば、すぐさま殺している。
更に今の状況を考えれば、迂闊にマリアの眠りが醒めるのは、この戦況では良くないとも考える。
マリアの性格上、ヴラドに挑む可能性がある為、せめてカインが来るまでは眠っていて欲しいとシャロンは願う。
「その目、ヴァンパイアの女王よ。まだ我と戦う気か? 愚かな。もう我との力の差に貴様なら気付いていよう?」
黒く長い後ろ髪に、紅く絶対零度の瞳を持つ、漆黒の鎧を纏った王が威厳に満ちた声で、傷だらけの始祖ヴァンパイアの女王に警告する。
「そうじゃのう……どうやら今のわらわでは貴様には勝てん様じゃのう。元人の王よ……だがの、わらわは引かぬ」
首の付け根の左肩から上半身半ばまで斬られたシャロンが、同じく紅い瞳をヴラドに向けて答えると、魔力を操作し王の間の大理石の床に転がっている、左肩から上半身の半ばまで斬り取られた上半身を浮かす。
そして自身の身体の斬られた部位を切断面に当てると、シャロンの身体の傷口のあらゆる細胞と肉、骨等が結合し始め傷を治しだす。
「ふむ。やはりヴァンパイア。身体を斬ってもある程度なら再生、または結合さすか。それが始祖ヴァンパイアの女王ならば、尚更高い回復力だろうな……ならばどれ程斬れば死に至るのか……試してみるのも一興……か」
シャロンの人としては異常な現象を、ヴラドは無関心そうに口にすると、玉座の足元に転がっているシャロンの斬られた手首を踏みつける。
「しかし理解できんな。貴様はそれ程までにこのハイエルフの女を、我がヴァンパイアの花嫁を取り返したいのか? その行動に命を懸ける価値が貴様にはあると言うのか? だとしても無駄だがな……相手は我だ! 串刺し公と恐れられし王の我なのだ! この女は我の贄! 我のもの! 我の花嫁だ! 決して誰も我からは奪えはしない!」
自身の言葉に興奮し、恫喝する様に宣言するヴラドの声に対し、冷ややかに、だが激昂した声がヴラドの横からまるで弾丸の様に放たれる。
「ふざけるな……アタシはテメェのもんじゃねぇし! テメェみたいな男の花嫁になるなんざごめんなんだよ!」
ヴラドに腰を抱えられ、仰向けになった状態で眠っていたマリアが腹筋を使い、身体を一気に起こす。
ヴラドは自分の発言に異を唱える声がした自身の手元を――マリアを見て、驚愕の表情をする。
何故ならばマリアに対し、丁度正面を向いたヴラドの額に、既に撃鉄を起こしてあるフリントロック式銃の銃口をマリアが当てたからだ。
マリアはためらいなく、凶悪な笑みで引き金を引く。
王の間に閃光と爆発音が響き、ヴラドの頭が銃弾を受け後ろに飛ぶ。
「はっ。ざまぁみやがれ! この日の為にアタシが手に入れてきたヴァンパイア殺しの呪印が彫られた銀の銃弾の味はどうだよ? クソ野郎」
顔を後ろに飛ばされ上半身だけが反った状態になっているヴラドは、まだ地に足を着け、マリアを抱え、落とさずにいた。
あっという間に起こった出来事に、驚いて思考を停止していたシャロンだったが、すぐさま今のヴラドに対して嫌な予感がしているシャロンは、大声を上げてマリアに警告する。
「お妃様よ! まだじゃ! まだヴラドは死んではおりませぬ。早う逃げてくだされ!」
必死に逃げろと伝えるシャロンの大声に反応したのは、マリアではなくヴラドだった。
ヴラドは反っていた上半身を起こし、マリアの顔に自分の顔がくっつく程近づけると、勝利を確信していたマリアの顔に至近距離で壮絶な歓喜の笑みを浮かべていた。
口角を上げて牙を覗かせながらニタリと笑うヴラドの歯には、先程マリアが撃ったヴァンパイア殺しの銀の弾丸が噛まれている。
つまりヴラドは、至近距離から銃で放たれた呪印の銀の弾丸を、歯で噛んで受け止めたのだ。
ここまでくると、本当に元人間のヴァンパイアの域を超えている。
そしてペッと横に向かって床に呪印の銀の弾丸を吐き捨てたヴラドは、身体を震わせて狂気に染まった喜びの笑みのまま口を開く。
「やっと目覚めたか……我が花嫁マリアよ」
その時だった、廃城の最上階にある王の間の石造りの壁に、一匹の巨大な不死の竜――ドラゴンゾンビが轟音と共に外壁を貫き、王の間の床を揺らし、そのまま顔から巨大な身体と折れた翼の半ばまで突っ込んできたのだ。
王の間の石壁に巨大な穴を空け、閉じた片方の瞼に切り傷のあるドラゴンゾンビの身体に、パラパラと石の破片が降り注ぐ。
「な、何じゃ? 不死の森のドラゴンが迷い込んできたのか?」
片方の手首の再生が追い付いていないシャロンは、デスサイズを片手で構えながら、ヴラドからは決して意識は逸らさずに、壁に突っ込んできた巨大なドラゴンゾンビの様子を窺う。
そんな廃城の主であるヴラドはというと、先程までの壮絶な喜びの笑みを今は消し去り、玉座の前に立つ。
この王は事態についていけずに呆然とするマリアを抱えたまま、この様な異常な事態にも何ら動じず、先程とは打って変わって冷めた紅い目で、王の間に突っ込んできたドラゴンゾンビを観察していた。
どうやらこの巨大なドラゴンゾンビは、石造りの廃城の外壁に、頭から突っ込んだせいで、気絶している様だとシャロンが結論付けた。
その時、突如ドラゴンゾンビの顔が動き、天を仰ぐと傷を負っていない方の目を見開き、王の間で金切り声で咆哮する。
耳を覆いたくなる様な凄まじい咆哮で、ドラゴンゾンビは苦しみながらもがき、暴れ出す。
更にドラゴンゾンビは口から大量の血を王の間に吐くと、のたうちまわる身体の中からは、生々しく肉や骨などが砕け、斬り裂かれる音が、始祖ヴァンパイアの強力な聴力により聞こえる。
時々透明で血塗れの刃が、ドラゴンゾンビの内側から鱗ごと肉が斬り裂かれて現れては消えを繰り返した。
やがて、体内で暴れる何かがドラゴンゾンビの首を通っているのか、またもや首の内側から鱗ごと肉を斬る、透明で血塗れの刃が何度も飛び出してくる。
暫くすると、ドラゴンゾンビは体内を破壊つくされた為に絶命したのか、今迄より一番弱い咆哮を口から放つと、ドラゴンゾンビはのたうちまわるのを止めた。
すっかり模様替えされた王の間に、不死の竜であるドラゴンゾンビの腐敗臭が広がる。
永遠の様に長い歳月を生きてきたシャロンですら、予想だにしない事態に驚愕しているのをよそに、絶命したと思われるドラゴンゾンビの鋭い歯が生える大きな口がニチャリと唾液の糸を引きながら開き出した。
なんとその口の中から無理矢理手でドラゴンゾンビの口をこじ開けて出てくる男がいた。
その男とは、全身血塗れで、ワインレッドのレザーコートが血なのか元の色なのか、もう判別できない程酷い出で立ちをして不敵に笑うカインだった。
「ふぅー、くせぇんだよ! この腐った蜥蜴ヤロウが! ったくやっと出られたぜ。腐敗臭で鼻がどうにかなりそうだ」
ガラスの剣の刃を肩に担ぎドラゴンゾンビの口から出てきた全身血塗れのカインは、シャロンの傷付いた姿と、玉座の前で銃を取り出しているマリアを抱えながら佇むヴラドを見ても、いつもと変わらない軽い調子でシャロンの元へと歩み寄る。
「よぉ、シャロン。久しぶりの状態だな? ってことはピンチだったのか? まぁ、見た限り、パーティーのメインイベントには間に合ったみたいで安心したぜ」
「主様らしい常識外れの登場の仕方に唖然としてしまいましたぞ? パーティーにはちと遅刻ですが、昔から主役は遅れて出て来るもの……ですが主様よ……すみませぬ。お妃様……マリア様はまだ……ヴラドから取り返せておりませぬ。始祖ヴァンパイアのカーミラの奴は、主様の邪魔をさせぬ様、同族のわらわが責任をもって潰したのですが……ツェペシュ公にはこの様です」
不死の竜が王の間に突っ込んできたうえに、その不死の竜の体内から食い破る様に出てきて、血塗れのカインが登場するとは、自分の主はなんて無茶苦茶な者だと、呆れながら溜息を吐くが、同時に頼もしさも感じる始祖ヴァンパイアの女王シャロンであった。
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やっと主人公キタ――(゜∀゜)――!!でした(笑)




