廃村に潜む者達
ページを開いて頂けて感謝します!!ご意見、ご感想などありましたらお願いします!!
m(__)m
マリアの銃により、いきなりリーダーを殺された野盗達は、現状についていけずに混乱した。
その隙を厳しい訓練を受け、実戦も十分に積んでいるミズガルズ王国聖騎士団員達が見逃すはずはなく、野盗達はろくに抵抗も出来ぬまま、次々と聖騎士達の剣により地に伏していく。
いつもの聖騎士団なら、戦意を失った者達を殺さずに捕らえるという手段をとっただろうが、今は暗殺の任務中の為、二人ほど生け捕りにして戦闘行為を止めた。
「部下が優秀だと助かるね。まぁ、眠っていた彼女が急に撃ったのには吃驚したけど、その弾に当たったのが野盗達のリーダーだったのにも吃驚したよ。でも、いきなり頭を潰せたのは戦闘的には楽で助かったんだけど、欲を言えばリーダーは生かして捕えたかったのが本音かな? 情報が欲しかったし」
剣を鞘に納めたアベルがカインにそう言うと、部下が生け捕りにしている野盗の元へ向かった。
カインはその事実を軽い調子で肩を竦めることだけで答えると、ガラスの剣を後ろ腰にある鞘に納める。
野盗のリーダーを殺し、開戦の合図にもなった銃を撃った張本人のマリアはというと、レイピアを抜く意味もない程、迅速且つ圧倒的に聖騎士達が慌てふためく野盗達を片付けていったので、寝ていた時の恰好である木に背を預けたままの状態だった。
カインにマリアの護衛を任されていたシャロンは、特にやることがなく戦闘が終わったので、マリアを起こす為に手を差し伸べる。
「では、マリア様。朝食、を、準備します。ね?」
シャロンは先程まで戦闘があったことが、なかったかの様に朝食の準備を再開した。
予想はしていた様だが、アベルは生き残った野盗からは、大した情報を聞き出せなかったうえ、ドラクレシュティ公国の息がかかった者達でもないことがわかった野盗の後始末を終え、尋問していた聖騎士団達も軍の携帯食で朝食を手早く済ませると、カイン達と共に馬で不死の森に向けて出発する。
そこからは特に問題も、誰かに襲われることもなく、カイン達と聖騎士団達は幾日か馬を走らせては野宿をし、予定通りの日の陽が落ちる頃に第一目的地である不死の森のすぐ側にある小さな廃村に辿り着いていた。
「マリア様。体調が、すぐれません。か?」
「別に……なんでもねぇよ」
自身の前に座る馬上でのシャロンの問いかけに、ぶっきらぼうに返すマリア。
野盗に襲われてからというものマリアは急に態度がおとなしくなり、カインのからかいにも反応を示さなくなっており、時折、神妙な面持ちでカインを見つめては何か思い詰めた顔をしているのであった。
当然、長年自分を苦しめてきたヴラド=ツェペシュとの戦いと、魔神ロキに会うことに緊張と怯えがある為かとカインもシャロンも思ったが、話してみると、どうやらそれだけではないと二人は考えていた。
「ここで、ドラクレシュティ公国側の人間と一度落ち合い、情報交換する手筈になっているんだが」
廃村にある石造りの古びた小さな神殿の裏手で、真剣な面持ちでアベルは待ち人を探すが、誰も此方に接触してくる気配はない。
石畳もなく誰も手入れしていない為に、何軒か朽ちて崩れてしまっている廃村は、陽が完全に落ち、空には二夜の月が浮かび、辺りは夜の闇に包まれる。
聖騎士団の隊員達も皆、口を閉ざし、カインとシャロン以外は緊張で張り詰めた表情をしていた。
そのうちの誰かが緊張で渇いた喉を鳴らし、唾液を飲み込む。
耳鳴りがする程の廃村の夜の闇の中、急にボウっと松明の火の灯りが無数に浮かび出した。
そして、松明を片手に鍬や鋤、鎌等の農具を持った数十名の老若男女問わずの村人がカインや騎士団達を囲む様にゆっくりと歩いてくる。
「この村は廃村ですよね? それに待ち合わせの相手はドラクレシュティ公国の大臣と護衛数名のはずでは?」
誰もが不気味で嫌な予感がする光景に、キャサリンは緊張した声音で横に居るアベルへ尋ね、いつでも剣を抜ける様に柄に手をかける。
「全員、迅速に戦闘行為に移れる様、待機」
聖騎士団員とカイン達だけに聞こえる様、小声でアベルは固い声音で告げる。
「アハハハハ……やっと来たわね? お姉さまの邪魔をする下等な蛆虫共が」
銀色に光る二夜の月を背に、蝙蝠の様な黒い羽を生やし、長い黒髪がふわりとカールした女性が、空の上から廃村に嘲笑を響かせた。
カイン達に見下した目を向けるその女性の声を聞いたとたん聖騎士達の乗っている馬が怯えだし、聖騎士達の言うことを聞かなくなり興奮しだす。
「蛆虫とは酷いな? 君はどうして此処に居るのかな?」
しかし、アベルの愛馬の白馬だけは堂々とし、手綱や足による指示に従い騎士団員を庇う様に前へと出る。
「ふん。ミズガルズ王国聖騎士の鎧……それにそこの男前のお兄さんは、あの有名な剣聖アベル=ハワードかしら? 別に隠さなくてもいいのよ? 貴方達が此処に来ることは、おじ様達から聞いているから」
赤い瞳と妖艶な笑みを浮かべ、胸が広く開いたタイトな蒼いドレス姿から色気を一層放つ、蝙蝠の羽を生やした女性がそう告げると、松明と農具を手にした村人達とアベルの中間にあたる地面から数本の先を尖らせた丸太が飛び出す。
その丸太一本一本には高貴な服を着た中年の男と、ドラクレシュティ公国の騎士の鎧を纏った数名の者が、丸太を股から刺され、丸太の尖った先が、口と顔を破壊して串刺しにされていた。
「待ち合わせ相手はこいつ等だろう?」
村人の群れが裂かれる様に別れ、そこから現れたのは漆黒のコートを羽織った金髪で長髪の此方も赤い瞳を持つ、色白の美形の青年だった。
彼は地面から突き出た丸太により大臣達が串刺しにされている場所まで歩いてくると挑発的に嗤う。
此方の男も、アベル達を見下した目をしている。
「ずいぶんと悪趣味なことをするね?」
変わり果てた姿になった待ち合わせ相手を見て、普段の優しい笑みを消し、絶対零度の碧い瞳を細めたアベルは金髪で長髪の青年の元まで愛馬を歩かせていく。
「あらぁ? 随分と怒っている様ね? どうしてかしら?」
自分のしたことが少しもおかしなことではないといった口調の、蝙蝠の羽を生やした女性の問いかけをアベルは無視し、串刺しにされた大臣達の前で無言で愛馬から降りる。
金髪で長髪の青年が余裕の笑みを浮かべている中、無言のままアベルは腰に帯びた聖剣エクスカリバーを抜き放つ。
すると大臣と騎士達を串刺しにしていた丸太が、いつの間にか斬られ、地面に倒れる。
「へぇ? 一瞬の間に丸太一本斬るだけじゃなく、数回斬撃を繰り出し、衝撃波で他の丸太も斬るとは、人間にしてはやるねぇ。スカーレット。この剣聖は俺が頂いちまっても?」
エクスカリバーを抜き放った直後、一瞬で青年の間合いに踏み込み、下から切り上げたアベルの聖剣エクスカリバーを、豪華な金の鍔が付いたバスタードソードで受け止めると金髪で長髪の青年は余裕の笑みを消さず、空を飛ぶ蝙蝠の羽を生やした女性――スカーレットに尋ねた。
「あらあら? そんないい男を私から奪うなんて酷いじゃない? ヴァイス」
アベルの剣撃を余裕で受け止めた青年。
漆黒のコートを羽織った金髪で長髪の青年――ヴァイスは、空に浮かぶ蝙蝠の羽を生やした長い黒髪がふわりとカールする場所が月光に照らされ艶を放つスカーレットに、楽し気な口調で確認を取ると、彼女は芝居がかった口調でヴァイスを非難した。
「ハッ! 剣聖のことだって蛆虫程度に思ってるくせによく言うぜ」
「ふふふふふ、しょうがないじゃない? 私達はお姉さまに選ばれ第二のラグナロクを生き抜くことを約束された、高貴なヴァンパイアなんだから。そこの下等な人間共とは違うの。ふふ、さぁ、ヴァンパイアのなりそこない達……あそこに居るヴラド様のハイエルフの花嫁をさっさと連れてきなさい? 殺しちゃ駄目よ? 他は食べちゃっても構わないから」
妖艶に嗤うスカーレットの赤く光る艶やかな唇から、村人達に向け命令の言葉を口にする。
それを聞いた村人達は、夜の暗闇に赤い目を次々に光らせて、狂った様に聖騎士達に向かって走ってくる。
「各自、迎撃準備! アベル聖騎士長様に後れを取るな! いくぞ!」
ミズガルズ王国聖騎士団特務隊副隊長キャサリン=ベイリーの号令により、聖騎士達は鞘から剣を次々に抜き、互いに呼応する様に雄叫びを上げると、スカーレット達に怯えた馬の手綱を操り、馬の腹を蹴る。
「マリア様。暫く、動かない、でください」
「おいおい、ふざけんじゃねぇよ。これはアタシの戦いだぞ? それにガキのオマエにおもりされてろってのか!?」
自分の前に座るシャロンの言葉にマリアは反発の言葉を上げるが、馬の手綱を握る手が微かに震えていた。
それはそうだろう、いかにマリアが強い女性だといっても、幼い頃から長年に渡ってマリアに恐怖を刷り込んできたのだ。
更に目の前にはヴァンパイアと名乗る女性と青年がいる。
逃げ出さず、立ち向かおうとするマリアの姿に、シャロンは尊敬の念を覚えた。
カインはそんな使い魔とマリアを後ろから見て、とりあえず安心すると、ミズガルズ王国に用意された黒馬から降り、黒馬の手綱は何処にも括らず、怖じ気付いた黒馬がこの戦場から逃げれる様に、尻を片手で叩いて逃がしてやった。
黒馬はお尻を叩かれると、いななき廃村から走って逃げていく。
「第二のラグナロクねぇ……ふん、それは興味があるな。さて、メインがこの後に控えてるからな。食前酒代わりにコイツ等の血でも頂くとするか」
マリアとシャロンが乗る馬の横をゆっくり歩いて通り過ぎる戦闘狂のカインは、鼻歌を歌いながら戦場へと向かい歩んでいく。
「ご武運を。ご主人様。マリア様の、こと、は、お任せ、ください」
「コラぁ! カイン。待て! アタシも行くぞ!」
「シャロン後は任せたぞ? マリア、お前は少しでもその手の震えが治まってから言えよ。すぐ終わる。いい子にして待ってな」
シャロンの言葉に見送られ、マリアは大声でカインに呼びかけるが却下される。
その却下されたカインの台詞に、いつもと様子の違うマリアは顔を一層赤らめた。
二夜の月の光を浴びながら、夜の闇にワインレッドのレザーコートを乾いた風に靡かせて歩くカインは、夜の闇に赤々と松明が灯り、村人達の赤く光る目が密集する景色に向かい、どんどんと足を進め、シャロンとマリアに背中を向けたまま、やる気なく片手を軽く上げて彼女達に行ってくると合図した。
楽しんで頂けていたら幸いです♪感想、ブクマ、評価など励みになるので、どうかお願いします!!
予告通り早めに更新できて良かったです♪
(≧▽≦)




