第九話 初めてのコンタクトレンズ【前編】
カットがようやく終わり、コンタクトを購入するという不必要な買い物のために、立花さんに連行されていた。
僕は不貞腐れ、終始無言を貫いていたのだが、立花さんはそんな事お構いなくって感じで目的の場所へ歩いていく。
時折僕の髪を見て、ご満悦そうな表情を浮かべたりもしているが⋯⋯確かに短くなった、けどそれがなぜ嬉しいのかが全くもって分からない。
とか考えてるうちに駅ナカにある、コンタクト屋と併設されている眼科に到着した。
どうして眼科なんだって思ったが、コンタクトを買うには眼科の処方箋が必要らしい。
「すいません予約した二階堂です」
いやあなたは立花でしょ?僕は喉元まで出かけた言葉を飲み込み、事の顛末を見守る事にした。
「こちらへどうぞ、本日はコンタクトをお求めですか?」
(求めていません)
「はい、宜しくお願いします」
僕は渋々案内された所にあった椅子に腰を掛けた。
「コンタクトは初めてですか?」
「はい!」
(いや知らんよね?初めてだけど)
「ではこちらをご記入してお待ち下さい」
「わっかりました」
(いや、全くわからないんだが⋯⋯)
などと軽く突っ込みを繰り返していると、なぜか立花さんが記入を始める。
流石にこれはおかしいでしょ?と思い、念のため確認をしてみた。
「立花さんコンタクト買うの僕ですよね?」
「あ〜、ん〜そだね、二階堂くん保険証ある?」
そう言って右手を僕の前に突き出してきた。
うん、うん、そーゆーことかと僕は小さく頷き財布から保険証を出して、その手に乗せると立花さんは微笑を浮かべ此方を見た。
とどのつまり『私に全て任せなさい』って事なんだと思う。
勇気を振り絞ってとか意を決してとか⋯⋯何かを言う体力も元気も既に残されてない。
僕に残された道は一つ、立花さんのやる事を無条件で受け入れて、何事も無くコンタクトを買いすぐさま家に帰る事だけだ。
色々腑に落ちないが、そう自分に言い聞かせ顔を上げた。
「二階堂さんこちらへどうぞ」
「⋯⋯」
「二階堂くん呼ばれてるよ」
「はい⋯⋯」
二階堂は僕で良かったのかと自分に軽くツッコミを入れて席を立つ。
どうやら問診書の記入も保険証の提出も終わったらしい。
僕が案内された場所へ座ると、当たり前のように立花さんは横に立っている。
そんな様子を暖かい目で見ている主治医、何か勘違いしているようだがそんな事はどうでもいい。
コンタクトを買って家に帰る!!僕に課されたのはこれだけだ。
まずは自動視力計で視力検査を行い、オートレフラクトメータで近視、遠視、乱視の検査、最後に『プシュッ』と眼圧検査をして一通り終了。
次にコンタクトを付けたり外したりの練習をするらしいのだが⋯⋯やけに静かにしていると思っていた立花さんが動いた。
「すいません、カラコンにして下さい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい」
普通のコンタクトを付けるだけでも嫌なのに、カラーコンタクトなんてハードル上げすぎでしょ?
「普通のコンタクトがいいです」
「⋯⋯」
何この無言の圧は、それに何その表情?私が勧めてるんだから良いに決まってる、全て私に任せなさいとでも言いたそうな顔をしている。
「ふ、ふつうの⋯⋯じゃなくてもいいです(もう抗えない⋯⋯)」
そう言うと、立花さんの表情はパアッと明るくなり、二度大きく頷いて話し始めた。




