第二十五話 楽しい食卓
「「「いただきます」」」
さてと、気持ちを切り替えていっぱい食べていっぱい勉強しよう、そう思って箸を伸ばすと。「さっさと器、寄越しなさい!」と立花さんが、唐突に話しかけてきた。
始まった⋯⋯
「自分で取れるから大丈夫です」
「蒼ちゃんも漫画好きなのね?景せっかくだから器差し出しなさい」
か、母さんまで、普通にご飯食べたい。二人は声を出して笑い、僕は呆れ顔をしながら渋々それに付き合い、取り皿を差し出した。
「二階堂くん、はいどうぞ」
「ありがとうございます」
取り皿いっぱいに盛られた唐揚げを受け取り、それを自分の目の前に置いて、さぁ食べるぞと箸を伸ばそうとした瞬間。
「手間ひまかけなければ、本物の味は得られないんです⋯⋯お義母さんこの唐揚げめちゃくちゃ美味しいー、美味しすぎて腰が抜けちゃいます」
そこは美味しいだけでよくない?
「あら本当に?ありがとう!ジャンジャン食べてね」
「はい!」
僕はようやく話が終わった、と思い胸を撫で下ろして、再び唐揚げに箸を伸ばした。
「いつか、食戟でお義母さんと肩を並べられたら⋯⋯あんたの口からはっきりと美味しいって言わせてやるよ!」
そう言って立花さんは僕を指さす。もういいって、僕まだ一口も食べてないんだけど。呆れた表情で立花さんに視線を向けて話しをする。
「わかりました、期待して待ってます」
そう伝え終わると、立花さんは耳まで真っ赤にして俯く、なんで赤面したの?で、でもこれはチャンスなのでは?と思い、唐揚げに箸を伸ばし口元まで運んだ。
「そう言えば景、あなた蒼ちゃんに勉強教えてるんでしょ?テストまでの二週間しっかり教えてあげなさいね、あんたそれしか取り得ないんだから」
「はい?」
口元まで運んだ唐揚げは、僕から逃げるように取り皿へと戻っていった。
「お義母さんいいんですか!?」
「もちろんよ、なんなら毎日晩御飯食べていきなさい」
それを聞いた立花さんは『パアッ』と明るい表情を浮かべて、僕の方を見た。僕は深い溜め息をついて諦め半分に話しをする。
「そもそも、嫌ですと言った所で絶対に立花さんは家にくるし、母さんは憤怒しますよね?」
「「もちろん」」
なんでこうも息ぴったりなんだろうか?そんな疑問を持ちつつ話しを続ける。
「ならここからは提案です。立花さんにはしっかり勉強を教えるので、僕にも自分の勉強する時間を下さい」
二人は顔を見合わせて吹き出した。
「「交渉成立ね」」
そう言って母さんと立花さんはハイタッチを交わす。なんかうまく乗せられた?いや違う、うまく誘導された気がしたその時。
『テレテレッテッテッテー』
レベルが上がった。もちろん僕はディスプレイを操作するつもりは微塵もないので、視線を立花さんに移す。
すると立花さんはテーブルの下で小さくガッツポーズをして、虚空に腕を伸ばしディスプレイの操作を始める。
ガッツポーズする程のスキルとは?気にはなったものの、正直夕飯をまだ一口も食べていなかったのもあって、それを無視して、唐揚げに箸を伸ばす。
「もしかして、貴方達二人LOVE♡GAMEやってるの?」
箸が止まった。もういい加減ご飯食べさせてよ、と思ったのも束の間、立花さんが嬉しそうに話し始めた。
「お義母さんそうなんですよ、私達運命値100なんですよ〜ヤバクないですか?」
もうそりゃ楽しそうに話す立花さんに対して、母さんは素っ頓狂な表情を浮かべて話し始める。
「ニュースでは見たことあったけど、実際にあるのね、それで運命値100?って凄いの?」
「凄いなんてものじゃないですよ!運命値MAXって滅多に無い事らしいですよ」
と話し終えた所で二人同時に僕の顔をみた。すいません、食欲に抗えませんでした。僕はまるでリスのように、素早く唐揚げを頬いっぱいに詰め込んでいた。
母さんと立花さんはまた、顔を見合わせ吹き出す。
「モグモグ二人が、話をモグ振るからモグモグずっとモグ食べれなかったんですよモグモグ」
僕は目に涙を浮かべながら、口に詰め込んだ唐揚げを咀嚼する。二人は腹を抱えて大爆笑。
「「もうだめ、お腹はち切れる」」
はち切れるわけないでしょ?僕は口がはち切れそうだったけど⋯⋯兎にも角にも僕は話を本題に戻す。
「赤点回避のために、二週間真面目に勉強してもらいます。覚悟して下さい。」
「それなんだけどさ〜、私いっぱい勉強したら朱里に順位で勝てる?」
「なんですかそれ?」
疑問符、疑問符、疑問符、僕の頭の上に三つの疑問符が浮かび上がった。




