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第二十二話 お菓子はいくらまで?

 教室内の喧騒に耳を傾けながら、僕は不安を抱え机に突っ伏していた。


 「にっかいどうく〜ん」

 

 (き、きた)


 体を起こし振り返ると、鞄を肩に掛けて満面の笑みで立っている立花さんがいた。


 「40秒で⋯⋯」

 

 「もう支度は済んでます、行きましょう」


 食い気味に言って、スッと立ち上がり教室を後にする。相も変わらず立花さんはニコニコ顔で、僕の横に並んで歩いている。


 楽しそうで何より、と思った所で昇降口に到着したので、靴を履き替え校舎を後にした。


 「ねぇ〜〜二階堂くんコンビニ寄ってこ」

 

 「いいですけど、沢山買わないで下さいね


 念を押して話しておかないと、絶対に大変な事になると思って話しただけで、振りじゃないからね、と言いたかったのだが、コンビニに着くなり買い物カゴを両手に持ち始めた。恐らく僕の沢山と立花さんの沢山には雲泥の差があるのだろう。


 「二階堂くん、沢山は買わないから心配そうな顔しないでよ」

 

 「え、えぇ、ちなみに立花さんの沢山とは買い物カゴ何個分か聞いてもいいですか?」


 何を聞いても驚かないように胸に手を当てて、気持ちを落ち着かせる。


 「ん〜、四個分?」

 

 「ほ、ほぉ〜(狼狽えたら負けだ)」


 僕は額に滲み出た汗をすぐさま拭って、震える声を誤魔化すために平静を装いながら話しを続ける。


 「きょ、今日はだいぶ抑えてますね」

 

 「だよねー、やっぱり普通に⋯⋯」

 

 「だ、大丈夫です(普通が怖い)」


 そう言って買い物カゴを取り上げると。


 「や、優しいじゃない」


 気のせいだろうか、立花さんの頬が少し赤くなったように見えた。


 「ぼ、僕が買い物カゴを持つので、立花さんはお菓子を入れて下さい」

 

 「りょ」


 そう言って立花さんは背筋を『ピンッ』とさせ敬礼して、「任せて」と空いていた手で胸を叩く。


 「これこれ、あ、ポッキーはマストだよね~」


 独り言を喋りながら次々にお菓子を入れていく。普通が多すぎないかと思い、バレないようにそっとお菓子を戻してみる。


 (サッ、ソッ、サッ、ソッ)


 どうやら夢中になり過ぎて、こちらには全く気付かないみたいだ。なんかおかしいので(お菓子だけに⋯⋯)全部戻してやろうと悪戯心を抱いたのが運の尽きだった。


 立花さんが立ち止まり、仁王立ちをして僕を睨んでいる。


 「二階堂くん、カゴの中なにも入ってないんだけど理由を教えてくれるかしら?」

 

 調子に乗り過ぎて全部戻していた。慌てふためき身振り手振りで、ロボットダンスみたいな動きをすると、『ブハッ』と立花さんが笑い吹き出してしまった。


 「なにそれ〜ウケるんだけど〜」


 機嫌、秒で良くなるのは本当に助かる、と胸を撫で下ろし、気を取り直して話す。


 「た、立花さんと一緒に選びたかったんです」


 そう言うと、立花さんは体を『プルプル』と震わせ、目をキラキラと輝かせて、テンション爆アゲで話し始めた。


 「ん~っ、もぉ〜!それなら最初から言ってよ〜!二階堂くん、なににするー?」


 うまく誤魔化せたと思ったけど、なんだろう心臓をギュッと握り締められるようなこの罪悪感は。


 「立花さんすいません」

 

 「え?なに?なにが?」


 僕は首を横に振り、何でもない風に装って微笑んだ。


 「勉強で頭を使うので、甘い物いっぱい買って帰りましょう」

 

 「うん、そうしよー」


 カゴいっぱいに入った甘いお菓子を見ると、胸焼けしてしまった事はさて置いて、レジでお会計を済ませ嬉しそうな立花さんを連れて家に帰った。

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