第十六話 クラスメイトVS幼馴染
彼女の名前は溝口朱里、幼稚園から中学卒業まで一緒だった幼馴染。
「景だよね!?なんか見違えた〜、一瞬誰だか分からなかったよ、元気してた〜?」
「ま、まぁ、それなりには元気してたよ」
その瞬間、ホログラムディスプレイが一瞬眩い光を放ち、運命値一覧が点滅をし始めたので、僕はそれを恐る恐るタッチしてみる。
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【運命値一覧】
立花 蒼 運命値 100
溝口 朱里 運命値 64
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『はぁ〜』っと深い溜息をつき、肩を窄めて朱里に視線を移すと、明らかに困惑した表情で虚空を眺めているのが分かった。
朱里は『ゴクッ』と喉を鳴らし、ゆっくりと見えない何かに手を伸ばして操作を始め、『ハッ』と驚きの表情を浮かべ此方を見た。
「ね〜二階堂くん、この人だれ?」
横から入ってきた立花さんのその声で、止まっていた時間が動きだし、僕は話し始めた。
「あ、幼馴染の溝口朱理です。朱理、こちらはクラスメイトの立花蒼さんです」
「「どもっ((なにこの女))」」
ニコッと微笑み、軽く会釈を交わすも、何故か僕にはお互いの表情が硬く見えた。
「幼馴染の朱里で〜す」
「ク、ラ、ス、メ、イ、トの蒼です」
何この感じは?顔は笑っているのに目が笑っていない。
「なんか買い物の邪魔しちゃったかな〜?」
そう言って、軽く舌を出して首を傾げる朱里。
「大丈夫よ、貴方の入る隙なんてないから」
まって、今どうゆう状況?なんで立花さん怒ってらっしゃるの?
「お邪魔だったみたいね、景、携帯の番号変わって無いよね?夜電話していい?」
「う、うん」
そう伝えると朱里は『パアッ』と明るい表情に変わる、立花さんはと言うと。
「わ、私も電話するし」
そう言って、携帯を取り出し、おもむろに操作を始めると、立花さんの顔がみるみる青褪めていき、『ふらふら』と虚空に向かって腕を伸ばし操作をし始めた。
「た、立花さん僕の番号知ってましたっけ?」
立花さんは顔を横に振り、何かを懇願するような目で僕を見つめる。
「番号交換できないんですか?いったい何にスキルポイント振ってるんですか⋯⋯じゃ僕がスキルポイント使って覚えますね」
その瞬間、立花さんは顔を破顔させ、腕を組み仁王立ちして何度も頷いた。
僕はホログラムディスプレイを素早く操作して、スキル【番号の交換】を覚えてQRコードをさしだす。
立花さんは嬉しそうに僕のQRコードを読み取って、操作を始めた。
その様子を見ていた朱里は、何故か勝ち誇った顔つきをして話し始める。
「な~んだ、まだ番号の交換すらしてなかったんだ」
番号の交換?僕は俯き熟慮して、朱里と番号を交換したのは確か小学生くらいだったはず?と思い出す。
つまりこのLOVE♡GAMEのシステムが関与しても、過去にあった事実は消せないってことか?なるほど。
『テレテレッテッテッテー』
レベルが上がった?あ、うん、今それどころじゃないからちょっと待ってね。
などと考え込んでいると、『バチバチッ』と音が聞こえた気がして顔を上げる。
立花さんと朱里の視線が絡んで、火花が散っていた。こ、これどういう状況?
「ずいぶん煽ってくれるじゃないの」と立花さんが言うと。
「は?事実を言っただけだけど」と朱里が返した。
立花さんと朱里が、ゆっくりお互いの距離を詰め始める。
立花さんが「喧嘩売ってるの?」と言って朱里を睨むと。
「それがご所望でしたら」と朱里が睨み返す。
更に二人の距離が縮まり、お互い手の届く所まで近付いた瞬間、僕は勇気を振り絞って二人の間に割って入った。
二人とも歩みは止めたものの、いまだ臨戦態勢のまま険しい表情で睨み合っている。
原因はなんだ?全く見当がつかない。
「ねぇ〜景、この女なに?こわ〜い」
朱里が、猫なで声で僕に話しかける。
「あらあら、獣が人間の皮被ってると思っていたら猫の間違いだったようね」
嘲り笑いながら仁王立ちする立花さん。これは埒が明かないと思い。
「二人とも喧嘩はやめて下さい、公衆の面前ですよ」
と声を張って言うと。二人はビクッと体を震わせて大きく頷いた。
収まったかな?
「うち決めたわ」
「あら奇遇ね、私もよ」
「「勝負よ」」
勝負って何?この二人は水と油なのか、犬と猿なのか、喧嘩の理由は全く分からないけど相性は最悪なのだろう。
「景、うち帰るね、夜電話するから」
「あ、うん」
顔をプクッと膨らませながらそっぽ向いて、踵を返し颯爽と帰って行く朱里⋯⋯
「私も帰る、二階堂くん電話する」
「あ、はい」
笑顔を引きつらせながら、髪を靡かせ颯爽と帰る立花さん⋯⋯
嵐が去り静寂が世界を支配する。
僕はただ一人、購入したパーカーを両手で抱えながらその場で呆然と佇んでいた。




