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第十二話 そのままの意味だから

 「二階堂くん◯◯彼読んだ?」


 「それ僕の本棚【WEBコミック】にあったやつですよね?」


 もちろん読んでいる。

 だって読みたくて買ったのだから、当然だと思う。訝しげな表情を向けると、そんな事お構いなしって感じで立花さんが話し始めた。

 

 「ヒロインヤバくない?最初は無愛想で冷たくて取っ付き難くて何コイツありえねぇって感じだったのに、主人公に惹かれて好きになって性格や表情が変わって不器用ながら想いを伝えようと頑張って、でもうまくいかなくてすれ違って、そんな少しずつ変わっていく健気な姿見てたら涙と一緒に私も落ちちゃったよね。でさ二人付き合い始めてそこから更に可愛くなっていってない?なんて言うの喜怒哀楽?の表情と言動全部が愛しくてマジ無理!?でさでさ話の中盤から後半に一悶着あってヒロイン別れ切り出した場面あったでしょ?私はてっきり完全に仲直りしたと思ってたのに、本当は好きなのにお互いの為とか言って別れ告げるとか色々悩む所はあったと思うんだけどあの辺りから私ずっと号泣してたんだけど、で葛藤の末、二人元鞘に戻る所で子供できるじゃんあそこなに?ヒロインが伝えたらどうなっちゃうのか悩んでる姿とかマジ無理すぎなんだけど。で伝えた時の主人公のセリフ『『そんなん最高のプロポーズじゃん!』』それよ!もうまじ泣いたヒロインおめでとうってまじ号泣した涙枯れた」


 立花さんは全部出し切ったのか、ハァハァと肩で息をしながら目に涙を浮かべている。


 鬼の目にも涙なんて思ってしまった自分を(いまし)めて、僕は僕なりの思いをぶつけてみる事にする。


 「相手の幸せを願ったり、命掛けで守ったり僕にはまだ分からない話しですが、あの漫画の展開は最後まで目が離せなかったです」


 そう言うと立花さんは大きくうんうんと頷き、自分の席を僕の席に寄せてから座り、話し始めた。


 「正直漫画だけどさ、私だって明日どうなってるか分からないじゃん?」

 

 「どうなってるってのは、どういう事ですか?」


 また何か言い出したよ、ここからは警戒度上げないとなにをされて、言われるか分からないぞ。


 「明日死んでるかもしれないじゃん?だったら後悔したく無いじゃん?」

 

 「死ぬって言うのは飛躍し過ぎなような気がしますが」


 色々影響受け過ぎでしょう?確かに明日の事は分からないし、この世に絶対なんて事は無いと思うけど⋯⋯


 少し呆れ気味に顔を正面に向けると、立花さんが僕の耳元に唇を寄せて呟いた。


 「ねぇ⋯⋯二階堂くん⋯⋯付き合って」

 

 「はうっ!?」


 足の先から頭の天辺まで身震いがした、耳

元で囁かれる事が初めてだったせいか、それとも僕は耳が性感帯だったのかは分からないが、一瞬にして体の力が抜けてしまった。


 そんな僕を横目に、絶対に腹を抱えて笑ってるよなと思い目を吊り上げ睨むと。


 え?その表情はなに?


 立花さんは耳まで真っ赤にして俯いている。どういう状況なのか皆目見当がつかない。僕は気になった事を率直に聞いてみることにした。


 「立花さん、僕とどこか一緒に行きたいんですか?」

 

 「違うから」


 そう言うと顔を上げ、歯軋りをするように口を歪ませて、怖い目つきで睨んできた。


 明らかに怒っていると思うんだけど⋯⋯どこか寂しげで悲しそうにも見えてしまって⋯⋯その表情に僕は狼狽え言葉を失う。


 「そのままの意味だから、わかれよ」

 

 「えっ?」


 そう言うと、両手で机を『バンッ』と叩きその勢いで立ち上がると、踵を返し教室を出て行ってしまった。

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