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五十七話

遅くなりました。

進む進む進む。


敵の本拠に影忍法で忍び込み、気付かれるその前にその首を切って進む。


前から、横から、後ろから、あらゆる方向へボクは飛び回る。


首級(みしるし)を上げれば主君に褒められボクはもっと前に進める。


闇に紛れて敵を討つ。ボクが教わったのはそれだけだ。


「忍法…影食(かげば)み。」


影の刃で敵の首を狩る。

お兄ちゃん…褒めてくれるかな?


「コタローちゃん、安全圏に入ったわ。少し休みましょ?」


「…ん、わかった。クフ姉、お水ちょうだい」


「ええ。ーー水よ!」


水球が目の前に飛んでくる。ボクはそれを手で掬い取り喉を潤した。


「クフ姉、今どのくらい進んだ?」


「四割と言った所かしら。コタローちゃんの魔術は便利ね。影走りと言ったかしら?お陰でわたくしも楽が出来るわ。体力には自信が無くて。」


「…魔術じゃなくて忍術。それは良いとして少し移動速度上げよう?…皆苦戦してるみたい。」


影分身から伝わってくる情報では何ヵ所かは健闘してるみたいだけど、あまり時間はなさそう。


一度影分身を解いて一気に散開すればその分身を伝って敵首領を暗殺出来そうだけど、それを実行したら各地の友軍の戦況が判らなくなる。この案はボツだね。


「わたくしは何も出来ないけどコタローちゃんの言う通りかも知れないわね。中々良い戦術眼を持ってるわね。」


「…別に。けどクフ姉の魔法は頼りにしてる。行こう。」


クフ姉を影に入れてボクは走り出した。



しばらく進むと人の気配がする。


直ぐに物陰へ飛び込むと影を伸ばし様子を見る。


上の階へ行くにはこの先を通らねばならない。


「…クフ姉、戦闘準備。ボクだけじゃ手古摺りそう。」


『分かったわ。上級魔術の準備をしておく』


クフ姉がそう答えるとボクは死角へ移動し隙を窺う。


意を決して影に格納していた石ころを真逆の方向に投げるとボクは一気に飛び出した。


「ーーすぅ…〈忍法・影食み〉ッ!なッ!?」


取った…確信したその瞬間左腕の腕甲から強烈な銀光が放たれる。


ボクは避けようとしたが頬にかすったのか痛みが走る。


「見えておったぞ小娘よ。我が名はヌアザ。ヌアザ・アガートラムぞ!」


そう名乗りを上げた敵の隙を突く様にクフ姉巨大な炎弾が襲い掛かる。



「あら、躱されちゃったわね。ヌアザと言ったか。確か異国の神よね?」


がしかし、一瞬の内に黒い煙…いや、あれは雲だろうか?それが炎弾を包み込み不発となった。


「ホッホッ、エジプトの者か。こいつぁ面白い!もう少し丸焦げじゃったわい!」


おぉ危ない、と余裕を見せる(じじ)にクフ姉は悪態を吐く。


「言うわね…面倒ね。大方、雲を生成し、操る能力って所かしら。コタローちゃん、かなり厄介よ?…隙を作って!わたくしが仕留めるわ。本気でやらなきゃ倒せない…」


「…ん、分かった。〈影縛り〉〈影分身〉〈影苦無〉」


仕方がないか…と、影分身を解除し全力で忍術を行使する。

影で作った糸の束で爺を拘束、あらゆる角度から分身した影で苦無を投げる。


「ホッホ!」


爺が笑うと銀光が溢れ影糸は消滅し、右手の杖を一振すると全ての苦無は地に溶けていった。


「…まだ、まだ!」


影分身を増やし、一気に近寄る。

遠距離が駄目なら近接。前後左右上下、ありとあらゆる方向から苦無、或いは格闘術を繰り出す。


その隙に地面に隠れ、隙を窺い風魔手裏剣を準備する。


今!


「今のは危なかったわい、小娘。中々の手練よのう。相当な修羅場を潜ってきたと判断する。じゃが我にはその様な奇術、全く聞かぬわい。」


風魔手裏剣を投げた瞬間、爺の姿が霞む。


手裏剣はあらぬ方向へ飛んでいき壁に突き刺さった。


「…むぅ、手強い。」


渾身の連続技を躱され苛立つボクを嘲笑うかの様に爺は銀光を強めた。


乱反射する銀光はボクの影分身を消滅させていく。



「コタローちゃん、十分よ。〈四属性暴発(エレメントバースト)〉ッ!」


白く輝く不定形な塊をクフ姉が打ち出す。


それはみるみる内に膨張し暴れ狂っていた銀光を包み込む様に溶かし、やがて爺を覆っていった。


「ふむ…これはちと分が悪いのう。退散せざるを得ぬわい。」


言い残すと爺は霧の如く拡散し、その場から消え去った。


「…ん。爺逃げた…」


「いや、あれはわざと受けて戻ったんでしょうね。油断ならない敵よ?けど…我が君の気配をこの上から感じるわ!行きましょう!」


「…お兄ちゃんが上に?急がなきゃ!」


「あら…急にはしゃいじゃって…フフ!」


「行こう、クフ姉!」


何かを呟くクフ姉を急かしてボクは駆け出す。お兄ちゃんの近くに行かなきゃ!


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